339 Reply 続々・ワレモノ『書簡』 !マーク 2003/11/16 17:56
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太助は待っていた。優天急須とともに。

「キリュウ。カキョウはまだか?」
見えないところにいるはずのキリュウに太助は呼びかけた。
しかし返事はない。

「・・・。シャオどうしてるかな。」

あたりはもう薄暗くなっていて、誰も道を歩いていなかった。

(・・今日の夕飯なんだろ?)
こんな時にこんな事を考えられるのは、ある意味大物かもしれない。
緊張感がないといってしまえばそれまでだが。

太助はぼお〜っと暮れゆく日を見ていた。

(太陽といえばルーアンだ。もう帰ってんのか?)
ふと、この状況でルーアンに鉢合わせたらどうしようか、と太助は考えた。

しかしその必要はなかった。
暗闇に白い髪と般若の面がおぞましく浮かんでいた。
「うわっ!!」
「・・・。」
カキョウは密かに太助の背後に回り込んでいたのだった。

「あ、カキョウ・・」
出鼻をくじかれて何を言っていいのか解らなくなってしまったのか、太助の言葉はそれ以上続かなかった。

「御主人・・。私は、決意を固めました。」
カキョウはそう言いながら腰に下げていた書簡を取り出した。
そして中から巻物を出して、くるくると広げていった。
「・・?」
カキョウの表情は般若の面で読みとれない。
「・・御主人。読ませていただいてよろしいでしょうか?」
「あ、ああ。」
「では。
──私はここに決意を表すことにします。
御主人は希にも私を呼びだし、今や四人の精霊の主だと聞きます。其の心は真に清いのでしょう。
それ故に私は信じることができません。優天急須を割ったことを・・」

太助は黙って聞いていた。しかしほとんど聞き流していたのだった。
その間もカキョウは巻物を読み続けていた。

巻物の読み終えた部分が道路に積み上げられていく。

とうとう巻物の終わりが近づいた。

「・・よって私はここに決意を記します。御主人を一刀のもとに斬り捨てんと!!」
巻末には妖しく輝く短刀が納められていた。カキョウはそれを叫ぶと同時に引き抜き、太助に斬りかかった。

「覚悟っ!!」
「か、カキョ・・」
太助が叫ぶ間もなく短刀は振り下ろされた。
しかし太助も太助もだてに試練を受けていない。とっさにバックステップでかわしていた。
だがそこには優天急須が待ち受けていた。

「!?」

とうとう太助は逃げられなくなってしまった。

ところがカキョウは優天急須を使わなかった。


「カキョウ殿。試練終了だ。」
突然キリュウが人家の木から飛び降りてきて言った。
「キリュウ!?」
当然太助は驚いた。

「はぁ〜。半日演技し続けるのは疲れる。」
カキョウは般若の面を外し、気が抜けたように言った。
「カキョウ!?」

「カキョウ殿が持ち出した話ではないか。」
キリュウが怒り気味に言った。

「いや、それでもやっぱり疲れるものでしょう。」

「そうか・・・。だが、後を頼む。」
そう言ってキリュウは黙ってしまった。

「・・・!!?」

「御主人、まず始めに謝っておきます。数々の非礼、申し訳ありませんでした。」
カキョウが頭を下げた。

「いや、それよりもどうなってるんだ?」

「・・・これを。」
カキョウは先程の巻物を太助に渡した。

太助が巻物をくるくると広げていく。

「・・・!?」
太助はその巻物がおかしいことに気が付いた。
カキョウが読んだ文章など、全く書かれていないのだ。
そこにはただ、こう書かれていた。
『キリュウ先生へ。いつかの恩、お返しいたします。
つきましては御主人を試しますので、先生はその情報を試練にお役立てください。
合図は私が再び般若の面を着けますので・・・』
後にもまだ文章が続いていたが、太助はそこで読むのをやめた。
「・・・つまり全部演技だったってことか?」
太助が放心したような顔で聞いた。

「主殿。私が気を抜かれられるなと言ったのはそれも含めてだ。」
キリュウは後ろから言った。

「御主人もおそらく変だと思うところがあるはずでしょう。」

確かに太助にも思い当たるふしがあった。
「・・・シャオか?」

「そうです。間もなくここに来るでしょう。」

その時上空から声が聞こえた。
それは間違いなくシャオだった。



《真相編》

シャオは折威を支天輪に戻すとき、優天急須の底に付けられた書簡を見つけていた。
「これは・・・?」
一人になって、中から巻物を取り出して読むと、それはカキョウがキリュウに宛てたものだった。
シャオは悪いとは思いながらも、巻物を広げて読んでしまった。
ところがキリュウへ宛てた文章の後に、シャオへ宛てたとしか思えない文章があった。
『シャオリンさんへ。
私のよみが当たれば、貴女もこれを読むことになるでしょう。おそらくシャオリンさんは御主人を心配しているはずです。
しかし心配には及びません。私が般若の面を付けてからのことは演技ですから。
また、巻末に短刀があると思います。それを今回の終りに使おうと思っています。
切れないことを確認したら、私を探してください。足りない処置を施しますので。』
軒轅の上で読んでいると、地上から声がした。

「シャオリンさん!ここです!!」

カキョウだった。般若の面も外している。

「カキョウさん。この手紙はいったいなんなんですか?」
地上に降り、軒轅を休ませながらシャオが聞いた。

「それは私が御主人に挨拶をした時、貴女がキリュウ先生が居られると言ったのを聞いて、密かに書いたものです。」
カキョウは笑顔で答えた。

「それからこれは・・・?」

シャオが差し出したのは短刀であった。

「これはある二ふりの剣の片割れです。無理言って譲ってもらいまして。
触ってみましたか?きっと驚くでしょう。」

シャオは短刀を鞘から引き抜き、少し触ってみた。

ぐにゃ

刀身が物凄く柔らかい。

「・・布、みたいですね・・・」

「でしょう。全くのナマクラ。」

「どうするんですか?」
「これを見切れるか試します。まず無理でしょうけど。」

「・・・何のためにこんなことをするんですか?」

「キリュウ先生に恩を返すため、というのは実は半分嘘で、
──おそらくキリュウ先生は気付いておられると思うのですが──
・・・御主人のためです。」

「どうしてそれが太助様のためになるんですか?」

「あまり言いたくないのですが・・・。
私は論義の精霊。
一見して私は感じました。
はたして生き残れるか、と。
伏兵に見立てて二・三仕掛けることになっています。
キリュウ先生が試練をお与えになっているわりには、今のところ結果は思わしくありません。
それと・・・個人的に自己紹介も含めています。」
カキョウは簡潔に述べた。

「・・・・。」
シャオは暗い表情になり、黙ってしまった。

平和なところだとカキョウに告げたかったのだろう。

「・・・よしましょう。それよりもこれをお湯で溶いて軒轅さんにあげてください。」
カキョウは腰から布袋を取り出しながら言った。
シャオが布袋を開けると、白い粒が四つほど入っていた。

「これは?」

「私が練った活丹です。飲めば半日走り続けても全く疲れないといいます。
疲れさせてしまいましたから、お詫びとして。」

「そんな、別に・・・」
シャオは拒否しようとした。
「もらってください。そうしてくれると嬉しいです。」

「・・・。」
結局もらうことになった。

「あ、飲ませたら戻って来てください。まだ用事がありますから。」

「・・はい。今度はいつかのように一緒にお茶が飲めたら・・・。」

「そうですね。また今度。・・・あ、書簡ごと使いますから返してください。」

カキョウは書簡を受取り、布袋があったところに下げた。



《真相編・終》



事の次第をシャオから聞かされた太助は唖然としていた。

「・・・じゃあ急須を割ったのは俺じゃないってわかってたのか?」

「ええ。」
カキョウは笑顔で言う。

「ふざけんな!!」
とうとう太助がキレた。
「申し訳ありません。」
カキョウはあっさり謝った。
太助はそれで拍子抜けしてしまった。言い返されなければ追求することができないのだろう。謝っているのを突っぱねるのは彼にはできなかった。

「・・・。」
残った怒りのエネルギーはどこに行くのだろうか。
「・・頭痛い・・・・。」
結局、こうなるのであった。

「それよりも御主人。今回は私の自己紹介になったでしょう?」

「やはりな。カキョウ殿はむしろそれが目的だったのだろう?」
キリュウが横から言った。

カキョウの動きが一瞬止まった。

「でも、一割ぐらいでしょう。」
カキョウは否定しなかった。

「・・・まあいい。おかげでいい試練ができそうだ。」
実のところキリュウは“いつかの恩”などの記憶はなかった。
しかし試練に関していたので、それでも許してしまったのだった。


「カキョウ。」
太助が何かに気付いて呼び掛けた。

「なんでしょう御主人。」

「結局、カキョウは何する精霊なんだ?」
太助がもっともなことを言った。

「それなら私が言った。」
キリュウが再び口を開いた。

「え・・・?」
太助はわからなかった。

「太助様。カキョウさんは『説得』する精霊さんなんですよ。」

「・・・わかると思ったのに。」
カキョウがぼそっと言った。

「わかるかー!!」
太助は余計に頭が痛くなった。
間違って「頭痛が痛い」とか言ってしまいそうなほど。



「疲れたわ〜。」
ルーアンが校門から出てきた。今から帰るところらしい。

「ん?あれは!!」
ルーアンは道の遠くに何かを見つけた。

「たー様ぁ〜!わざわざ迎えに来てくれるなんて、ルーアン幸せ〜。」
ルーアンが太助達の方へ駆け寄って抱きついた。
その時太助はカキョウに『虚を実と見せる心』を説かれていた。
決して迎えに行ったわけではないだろう。←ひどい

「る、ルーアン!?やめろー!!」
太助の抵抗。

「ところで・・・コイツ、誰?」
ルーアンがカキョウの方を向いて言った。

「冷やし中華始めました。婆提舎天の夏杏といいます。」
カキョウは明らかに間違えていた。おおかた来るときにそんな看板でも見掛けたのだろう。(初夏だから)

「・・・カキョウ殿。わざとであろう?」
キリュウが見透かしたように言う。

「婆提舎天・・・聞いたことがあるわ。戦をさせる精霊だってね・・・!!」
ルーアンが突然鋭い目でカキョウを睨みつけた。
カキョウの表情は凍り付いていた。



つづく

あとがき
長い間騙しっぱなしは嫌なので大急ぎで完成させました。というか『続』を出すの遅らせたんですけど。
カキョウについて。
夏杏=密書・説得・伏兵・捕縛・使者。
どう見ても・・
340 Reply 少々戸惑い 空理空論 MAIL URL 2003/11/20 00:43
cc6600
太助も大変だなあ…とつくづく思ってしまいます(笑)
っていうか、頭痛い…と結局こうなるあたりとか、平穏というのは訪れなさそうですね。
何やら、伏兵とか戦とかただならぬ存在も出てきそうですし…。

それにしても説得ですか…それは更に難しそうですが…。
(新たな試練にも思えそうです。うん、やっぱ太助君大変<笑)
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