スレッド No.65


[65] 夢の間に
投稿者名: AST (ホームページ)
投稿日時: 2001年2月25日 13時57分
コチ、コチ、コチ、コチ…


眠れない


コチ、コチ、コチ、コチ…

時計の秒針が進む音が、静かな部屋でやけに耳につく。
けれどそのせいで眠れないわけではない。

窓から差し込む月の光が床や壁に反射して部屋中が柔らかな白い光に包まれている。
けれどまぶしくて眠れないわけではない。


すう… すう…
穏やかな寝息がすぐ近くで聞こえている。
小さなその音だけが、俺を眠らせてくれない。


それは1時間以上も前のこと。
ようやくベッドに入ってまどろみはじめようとした俺は、小さな小さなノックの音で身を起こした。
戸を開けると、そこには裾の長めのパジャマを着たシャオが、枕を抱えながら立っていた。
「…? どうしたの、シャ…オ…」
声をかけようとした俺は、不安を堪えるように自分の枕をギュッと抱きしめているシャオの目が
赤くなっていることに気付いて、声を失った。
シャオは、少しの間黙ってうつむいていたが、静かに部屋の中に身を滑り込ませてきた。
「太助様…」
シャオはまっすぐ俺を見つめて目を逸そうとはしない。その瞳が微かに震えていた。
「夢、を、見たんです」
心なしか震える声でシャオは打ち明けてくれた。彼女の涙と不安の理由を。
「太助様が、遠くへいってしまうの…。追いかけても、どんどん遠くなって、見えなくなって…。
夢の間に、太助様がいなくなってしまう気がして、恐くてたまらなかったんです」
「目を閉じると、同じ夢を見てしまいそうで、今度こそ、太助様がいなくなってしまいそうで…」
だから、俺の部屋に来たのだろう。俺の顔を見て、ようやく安心してくれたんだな。
「さ、もう遅いから」
しかし、シャオはどうしても自分の部屋に戻ることを承知しなかった。
頼りなげにうつむくシャオの姿は、何故だかとても儚く、小さく見えた。
シャオを安心させてやれるのは、守ってやれるのは、俺しかいないんだ…。
その時は、俺の中には、恥ずかしさも、やましい妄想も何一つ生まれなかった。
シャオを自分のベッドに寝かせると、隣に横になって、シャオが眠りにつくまでそっとその華奢な
肩をさすってやっていた。
シャオが静かな寝息を立てはじめるのに、さほど時間はかからなかった。


ようやく静かになった部屋の中で、俺はふと、自分がおかれた状況を妙に冷静に分析していた。
今思えば、しない方が良かったのかも知れない。
俺とシャオは、たった一つのベッドで寄り添って寝ている。そう、俺と、シャオは…。
今更そのことに気付いた俺は、どうしようもなく緊張した。
そ、そんな、同じベ、ベッドでなんて、いや、そ、それは…。
隣に眠っているシャオを起こしてしまうのではないかと思うほど、鼓動が早く、激しくなった。
半ばパニックになった俺の頭には、人に言うのがはばかられるようなことが…その、やっぱり
そんなこととか、が、多分浮かんでいたと思う。

おそるおそる横を見やると、そこには…。
反射光となって一段と柔らかさを増した月の光が、こちらに向いて眠っているシャオの色白の顔を
浮かび上がらせていた。輝くような、女神のような美しさは、俺の中からやましい心をすべて
払いさってくれた。俺は、目が離せなかった。

こんなに、可愛くて、こんなに優しくて、誰からも愛される子が、俺の側にいてくれる。
俺を、信頼して、傲慢かも知れないけど、多分、彼女も側にいることを望んでくれていると思う。
こんな俺なのに。
俺は、この子を守ってやれるのだろうか。幸せにできるのだろうか。
いや、しなくちゃいけないんだ。俺は、シャオが…。
柔らかな頬と、愛くるしい瞳を覆って今は閉じられている僅かに赤く張れた瞼を見つめながら、
俺はこの少女が愛しくて、本当にいとおしくて仕方なかった。
そっと、俺はシャオの髪を撫でた。
指の間を光りながらすべり抜ける艶やかな髪は、なめらかで温かかった。
俺は、別に理性を失ってはいなかったと思ってる。
とても落ち着いていたし、冷静だったと思う。全ての感触を、鮮明に覚えている。
「なあ、俺さ、シャオのこと…」

時間が止まったような、そんな数秒間。
微かに微笑むような、桜色の小さなシャオの唇は、とても柔らかくて、温かかった。
「なあ、シャオ。ごめんな。」
「でも今度は、シャオがちゃんと起きてる時に…
その時は、俺の気持ちをちゃんというからね
だから… まっててね」


「…はい」


「…………え?…………」


後書き

うわぁ、今週末には研究発表なのに、何やってるんだ俺はぁ!
まだほとんどまとまってないのに。仕事は山積みなのに。
寄贈品も書いてさえいないのにぃ! 本当にすいません、空理空論さん。

…さて、気をとり直して、分子雲のデータを解析しなきゃ。
観測結果によく合うモデルはどうしたらできるだろうか…。


おまけ 1


「…………え?…………」


「あ、あの、シャ、シャオ? お、起きてたの!? いつから!?」
「太助様が髪を撫でてくれている時に」
「あ、あはは、ははは……は…」


「太助様? 今、私起きていますよ?」


「…へ?…」


「それとも、目を閉じていた方がいいですか?」


その時の、悪戯をするようなシャオの笑顔を、俺は忘れない、…多分。


おまけ 2


翌朝、いつもより遅かった二人の目覚めは、特殊部隊(コードネーム「ルーアン」)の
決死の突入により、唐突にもたらされたという。
学校でのその日の騒動は何時もよりさらに激しかったらしい。
その渦中の一人の少女の表情は、けれどとても輝いていたに違いない。

[67] うっとり
投稿者名: 空理空論 (ホームページ)
投稿日時: 2001年2月25日 15時41分
非常に穏やかな話・・・堪能させていただきました。
自然にベッドにシャオを寝かせた太助なのに、
お約束どおりドキドキドキドキ(笑)なんとも初々しいですね。
それでも一瞬にしてやましい心が消え、自分の清楚な気持ちを素直に告げる場面、
あのあたり絶妙な描き方ですね。最後が
>「…………え?…………」
というところで終わってるのが非常に上手いです。

おまけに関して:…………………………がんばれ太助君!!(笑)

[68] 早速感想ありがとうです
投稿者名: AST
投稿日時: 2001年2月25日 21時24分
我ながらこんなに早くレスをつけている場合なのだろうか。
まだ端末前で作業をしているのでねえ。

> それでも一瞬にしてやましい心が消え、自分の清楚な気持ちを素直に告げる場面、
> あのあたり絶妙な描き方ですね。最後が
> >「…………え?…………」
> というところで終わってるのが非常に上手いです。

ん?ふふふ。気付いてます?>空理空論様
太助君は、感触を知っているんですよ…。

[69] Re: 夢の間に
投稿者名: グE
投稿日時: 2001年2月26日 00時56分
ほのぼのしていていいなぁ…。
ほんとに。

それにしてもシャオが結構大胆。
(太助も結構大胆だけど)
そこがとてもよかったです。

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