181 Reply 統弥くんのハート よしむら MAIL 2002/09/22 10:50
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「ち…ちくしょう…」
その男は地面に倒れたまま、悔しそうに相手を見上げていた。
「全く…お前もしつこいな…もう俺は帰るぞ。
これ以上俺はお前と付き合っている暇はない」
その相手の男は冷静な顔をしながらその場を後にした。
「く、くそっ…待てっ…」
その男はなけなしの力で声を出すが相手は止まらない。
「待てねぇよ。早く帰って俺は寝たいんだ」

「ったく…疲れてるのに…」
彼の名は闇塚統弥(やみづか とうや)。
凪野高校2年生。
学校からの帰宅途中で不良に絡まれ、
今しがた返り討ちにしたところである。
統弥は喧嘩が非常に強かった。
といっても彼は不良ではなく、むしろ普段の素行はいい方である。
彼が力を振るうのはあくまで自分に火の粉が降りかかった時だけだ。
自分から喧嘩を売るようなことはしない。
「ただいまー」
「おぉ、おかえり。今晩御飯作ってるからな」
自宅に帰った統弥を迎えたのは父親の景太郎(けいたろう)。
メガネをかけた人当たりの良さそうな中年男性である。
「んー、それじゃ疲れたし出来るまで俺は部屋で寝てるわ…」
そう言って統弥は自室に戻ると着替えもせずにそのままベッドに倒れ込んだ。
「あぁー…今日は疲れた…」
そのまま統弥はうとうととし始め、だんだん目も閉じていった。
その時だった。

「魔王シルバーキング、覚悟ぉーっ!!」

突然現れた何者かが統弥の寝込みを襲いかかってきた。
その人物の手には両刃の剣が握られている。
「なーーーーーっ!?」
びっくりした統弥は慌ててベッドから飛び起きた。
ザクゥッ!
次の瞬間、その人物の剣は統弥のベッドに深々と突き刺さった。
「ちっ、し損じたか!」
「お前誰だっ!殺す気かっ!」
「そうだっ!」
きっぱりはっきり言い切ったその人物は剣を抜いて
再び統弥に斬りかかってきた。
「ふざけんなっ、そんなわけのわからんうちに殺されてたまるかっ!」
言いながら統弥は相手に対して身構える。
眠気などさっきの衝撃でとうに吹き飛んでいる。
「はぁっ!」
「甘いっ!」
ドグッ!
統弥は相手の剣をかわして懐に入り、
相手の腹に重いパンチを一発ぶち込んだ。
「ぐぅっ…!」
かなり効いたのか、相手はその場にうずくまった。
「あれ…お前…女か?」
その時、統弥は襲いかかってきたのがストレートの長い髪を持った
女の子である事に気が付いた。
「やりすぎたかな…おい大丈夫か?」
相手が女だと気付いた統弥は少し心配してみせたが
女は敵意をむき出しにして統弥を睨み付けた。
「うるさいっ…魔王シルバーキング…
このくらいで私が倒れるとでも…」
「…なんだその魔王ってのは…」
「貴様の事に決まってるだろうがっ!」
「…はぁ?」
いきなり魔王呼ばわりされて一瞬混乱する統弥。
だが次の瞬間、統弥の脳裏にある考えが思い当たった。
「なぁ…もしかしてお前の言ってる魔王ってのは…
俺のじっちゃんのことか…?」
「な…なに?」
予想外の答えだったのか、女も混乱しているようだ。
「俺のじっちゃん…闇塚銀(やみづか ぎん)っていうんだけど…
小さい頃何度か聞かされたよ、昔は魔界で王様やってたんだぞって…
俺は信じてなかったけど…まさか…」
「で、では…貴様は魔王の孫だと言うのか!?
ならば本当の魔王…シルバーキングはどこだ!?」
「じっちゃんなら…去年死んだけど…」
「…死んだ?」
「あぁ、元気なじっちゃんだったけど…とうとう逝っちまってな…」
「そ、そんな…私は何のためにここまで…」
女は相当のショックを受けたのか、がっくりと肩を落とした。
その落ち込みようは見てて気の毒なくらいだったので
思わず統弥は声をかけた。
「おい…大丈夫か…そんな落ち込まれても…」
「いや…まだやる事はある」
だが次の瞬間、女は表情を引き締め再び立ち上がった。
「シルバーキングは滅んでも魔王の血はいまだ健在…
ならば私は勇者としてその血を断ち切ってくれるっ!!」
「やめんかっ!」
ズビシッ!
統弥は再び襲いかかってきた女の延髄を叩いて
ちょっと強引に黙らせた。
「はぁ…それにしても勇者って…こいつ…」
気絶した女の顔を覗いて統弥は深く溜め息をついた。

「う…うーん…」
しばらくして女はソファーの上で目を覚ました。
「ここは…」
「目が覚めたか」
すぐ近くで統弥が椅子に座って女の様子をじっと見ていた。
「貴様っ!くっ…」
襲いかかろうとしたが女の手は後ろで縛られていてうまく動けなかった。
剣もすでに取り上げられている。
「君かぁ、勇者一族の女の子って」
その様子を同じように椅子に座った景太郎が見つめていた。
「お義父さんから話は聞いた事あるよ。君達勇者一族は代々魔王と
戦い続けてきたんだってね。そうか君が今の勇者なんだね」
「そうだ!私はルーシェ、勇者の血と力を受け継いだ戦士だ!
私は一族の使命に従ってずっと行方不明の魔王を探していたんだ!」
「行方不明?」
ルーシェと名乗った女のセリフに統弥が聞き返した。
「私の祖父が勇者だった頃に魔王は突然魔界から姿を消したのだ!
祖父は必死に魔王を捜索したが見つからなかった…私の父も同じく…
見つからぬはずだ、まさか異世界にいようとは…」
「異世界…」
多分、剣と魔法が入り乱れたベタなファンタジー世界なんだろうなと
統弥は勝手に想像した。
「勇者の使命を果たせなかった祖父と父のためにも!
私が魔王の孫を倒して一族の悲願に決着をつける!」
ぐぅぅぅぅぅ。
いきなりルーシェの腹が盛大に鳴った。
シリアスな気分が見事にぶち壊しである。
統弥と景太郎に聞かれてルーシェは顔を赤くした。
「お前腹減ってんのか?」
「う、うるさいっ!」
「全く…」
統弥は椅子から立ち上がるとルーシェに近付いていった。
「な、何をする気だ!わ、私は魔王の貴様などには…」
「いいからじっとしてろって」
統弥はルーシェの後ろにまわると手を縛っていたロープを解いてみせた。
「な、なに…?」
「メシ食ってくか?ちょうど俺達も晩飯食う所だったし」
「はぁ?」
統弥の思いがけない言葉にルーシェは怪訝な表情をした。
「そうだね、せっかく来てくれた勇者さんを
このまま帰すのもなんだし…一食くらいいいんじゃない?」
景太郎もあっさりと承諾した。
「ふ、ふざけるな!誰が魔王と食事など…」
ぐぅぅぅぅぅぅ。
再びルーシェの腹が鳴った。
「…まさかこの世界に来てからこっち何も食ってないとか?」
統弥はなんとなくそう聞いてみたが
ルーシェが黙ったのを見るとどうやら図星っぽい。
「…いいから食ってけ。このまま餓死でもされたら気分悪い」

ルーシェは抵抗はしたものの空腹には勝てなかったのか、
最後には渋々ながら晩飯を食っていった。
「とにかく…それ食ったらとっとと元の世界帰れよ」
「むぐ!?」
「食いながらこっち睨むなよ…お前の探してた魔王はとっくに
この世にはいないんだし、俺もお前をどうこうする気はない。
剣も返してやるから帰って新しい生活でも始めろよ」
「むぐぅ…」
ルーシェは複雑な表情を浮かべてそのまま黙ってしまった。

「で。では…さらばだ…ごちそうさま…」
夕食後、ルーシェはそれだけ言ってようやく帰っていった。
「はぁ…全くさんざんだったよ」
部屋のベッドは壊れているので居間のソファーで
統弥は寝転がっていた。
「でもまさか…魔王を倒す勇者なんてもんが本当にいたとはなぁ…」
統弥は自分に襲いかかってきた女勇者の顔を思い浮かべた。
「思えば大変だったんだろうなぁ…魔王をずっと探し続けて…
こんな異世界にまで追いかけてきたんだから…」
もう会うこともないであろう女勇者を思って
統弥はぽつりとつぶやいた。
「元の世界に帰ったら…幸せになってるといいなぁ…」
やかで統弥はその疲れからうとうととし始め、
ソファーの上で眠りについていた。


翌朝。
「う…うぅん…」
統弥はソファーの上で目を覚ました。
(そうか…俺あのまま寝ちまったのか…)
眠い目をこすりながら統弥は昨晩の事を思い出していた。
(昨日は大変だったからなぁ…)
その時だった。

「魔王覚悟ぉーっ!!」

(殺気ーっ!?)
慌てて統弥はソファーから飛び起きた。
次の瞬間、ソファーに剣が深々と突き刺さった。
「くそっ、またよけられたか」
「お前、なんでここに!?」
そこにいたのは紛れもなく昨晩帰ったはずの女勇者ルーシェだった。
「帰ったんじゃなかったのか!?」
「あれからいろいろ考えたが…やっぱりお前を倒す!
それが勇者である私の使命だからな!」
「全っ然わかってねぇーっ!?」
あまりの展開に統弥は「がびーん」とショックを受けていた。
眠気など今の衝撃で完全に吹き飛んでいる。
「私は諦めないぞ!絶対にお前を倒して
勇者の使命を果たしてみせるっ!」
「帰れこんちくしょーっ!!」
朝っぱらから統弥は泣きたい気分だった。

こうして、統弥の生活は女勇者の登場により、
なんだかおかしな方向へと進んでいくのであった。



後書き
えー、一応これはラブコメものです。
この後、統弥とルーシェが良い感じになっていくんですが
そうなるまでちょっとかかりそうですなコレは。
まだまだこの続きのネタはあるんですが
それはまた気が向いた時にでも。
184 Reply ゆうとま 空理空論 MAIL URL 2002/09/23 01:04
cc9999
マ男と書いて勇と読む(謎)
それはさておき、ルーシェって名前が非常に気になって仕方ないです。
はてさて、どこで聞いた名前だっけかなあって…。
続き、書かれるならば頑張ってくださいませ。
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