272 | Reply | 〜とっても安易な……〜 | ふぉうりん | URL | 2003/03/12 15:13 | |
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キッチンでなにやら一生懸命調理をしているシャオの姿があった。 「シャオ、なに作ってるの?」 ちょっと気恥ずかしいながらも、太助は少しの期待を含んだような声音で、そっとシャオに問い掛けた。 「え? これですか?」 そう言って、シャオは『うふふ』と勿体ぶるように、嬉しそうに短く笑った。清楚なシャオなのに、子悪魔のような甘く悪戯っぽい笑み。いろんな意味で太助はシャオ笑顔にあてられてくらっときた。 「知りたいですか? 太助様。」 更に先ほどの笑みよりも、もっと嬉しそうに笑い首をちょこんと傾けて、太助聞き返した。いうなればボディブローの後のストレートである。本日二発目を食らって心身共によろっときた太助には、シャオの言葉に反応するだけの余力が無かった。 「……」 「太助様?」 シャオに呼ばれて現実世界に舞い戻る。正直言って『知りたいけど、知りたくない。知らないまま期待していたい』もとい、『知らない振りをしたまま期待していたい』それが太助の本心だった。でも口を突いて聞いてしまった。失策である。 「知りたいけど、知りたくない。かな?」 「むぅ、そうやってわたしに言わせてくれないんですね?」 シャオは頬を膨らませて可愛らしい眉をハの字に寄せながら、ほんの少し抗議めいた口調で太助を上目遣いで見返した。 (それはずるいっすよ。シャオリンさん そんな顔で文句言われたら『知りたい』って言うしかないじゃないですか? ねぇ?)<最後の『ねぇ?』は誰へ同意を求めたのだろうか? 「…し、知りたいです。」 完全に太助の負けである。もっとも最初から勝ち負けなんて有りもしないのだが、 「うふふふ。ごめんなさいね。太助様。聞かれたらどうしても言いたかったものだから。」 物凄く今の状況をシャオは楽しんでいるようだった。これはこれで微笑ましいことだった。 「これ、チョコレートなんですよ。太助様」 「へぇ」 と太助には、ここまでしか反応出来なかった。 『やっぱり』とも言うべきでないし『誰の』とも聞くわけにはいかなかった。いまさらわざとらしく驚くのもありかもしれないが、それは少し白々しい。やはり聞いた時点で太助は負けていたのである(だから誰に?)そんな訳で太助慎重にこの場を壊さないような言葉を模索するのに、真剣に頭を回転させていた。 「チョコって?」 正に渡りに船とはこのこと、その声の主は今の太助にとってはある意味救いの女神に等しかった。ふたりの世界が壊されてしまうのは仕方の無いことだが、自ら崩壊させるよりは何倍もマシだ。そしてその声の主は。 「フェイ」 「フェイちゃん」 「これはね。チョコレートなの。もうすぐバレンタインデーだからね」 「楽しみにしていてくださいね。太助様(ハート)」 「バレンタインデー?」 聞き返すフェイに、シャオは『優しいお姉さん』のように、更に聞き返した。 「フェイちゃんは、知らないのね?」 こくこくと頭を縦に振ってシャオの言葉に頷いた。 「翔子さんが教えてくれたんだけどね。むかしむかしあるところに…」 以下省略 「で、タスケードさんとシャオリーノさんは結ばれました。…おしまい』ということなの」 「……」 「……」 シャオの語りを聞いていた太助もフェイも終始無言だった。それぞれ胸中には違うものが流れていたが。 (山野辺の奴、そんなことをシャオに入れ知恵したのか…) (タスケードにシャオリーノ………) どちらにしても呆れていることには違いなかった。 「ちょっとシャオリン。あたしのたー様になにちょっかいかけてるのよ? たー様はルーアンのものって決まってるんから!」 とそこでルーアンが、ひょっこりキッチンに現れて、太助の腕を一本占有した。 「はっ、離れろ! ルーアン!」 「嫌よ」 「俺の方こそ『嫌よ』だ」 「あら? そんなたー様も素敵だわ『嫌よ嫌よも好きのうち』ってね?」 「こいつは…」 「ルーアンさん止めてください。太助様が困ってます。やめてくれないと・・・。」 「やめないとどうなのよ?」 なんか本気っぽいシャオの勢いにちょっと引き気味のルーアン。 『来々!!』 「あらそう。そっちがその気なら、こっちも行くわよ!」 そんなやり取りの間にフェイはちゃっかり、太助の手を引いてキッチンからリビングへ逃げおうせようとしていた。 『陽天心召来!』 どっかーん!! ある意味必然の結果である。爆発の煙が晴れると爆発コントよろしくぼろっちくなったルーアンとシャオの姿があった。 「あああ…チョコレートがぁ…」 「あ、あたし知ーらない」 流石に状況がやばすぎるのでルーアンは脱兎の如く逃げだした。 「……」 あまりの惨状に放心するシャオ。無残に飛び散ったチョコレートを少し浴びた太助だが、それを指でひとすくいして口に運ぶ。 「…これ、美味しいよ。シャオ。」 シャオにはことの言葉だけで十分だった。 「…太助様。」 なんかもう全身から力一杯『嬉しい』って感じのオーラを出しまくってて喜ぶシャオ。 『…気持ちさえ…こもっていれば、…形なんて…どうでもいい?』 柱にもたれながら、ぼそっと呟くフェイに太助は肝を潰した。 「って、フェイ!? なんでそういうこと口に出して言っちゃうかなぁ?」 「…でも…聞こえて無いみたいだよ」 フェイはシャオの方を見て示すと、シャオはほわほわした感じで心ここにあらずといった表情でぼぉっとしていた。確かに先ほどのフェイの呟きは聞こえて無いようだ。 「ふっ」 フェイはしたり顔で笑う(でも微妙な表情) 「ただいま〜」 と丁度そこへ那奈が帰宅したようだった。フェイは那奈の声を聞いて、玄関に向かえに行った。 「お帰り那奈。」 「ただいま〜って、どうしたんだい?」 「?」 可愛らしく首をかしげるフェイ。 「なんか甘い香りがする…」 鼻をひくひくさせて、香りを嗅ぐ那奈。 「…チョコ」 「ああ、それでか、でもあんた頭にも着いてるよ。一体どうやって食べたらここに着くんだい?」 「爆発したから」 嘘はついてない。しかし表現も適切では無かった。 「は?」 「まぁいいや。それ落とそ。シャワー浴びるよ。フェイおいで」 「うん」 フェイはリビングとキッチンを覗き込むように、ちょこんと顔を出して言った。 「…あと、よろしく」 フェイの後ろからその惨状を目の当たりにた那奈はようやくなにが起ったのか理解した。 「まぁ、夕飯が遅くならない程度に、いちゃつきながら片付けてくれよ。」 と那奈は冷やかしながらフェイと一緒に脱衣所へ向かった。リビングから太助の抗議めいた大声を背に受けながら…。 ジャ− 蛇口を捻ると水が出てきた。暫くするとそれは適温のお湯になる。お湯の温度を手で測りながら、那奈はフェイに言った。 「もう丁度良い温度だね。ほら」 フェイの手にシャワーを浴びせて、確認する那奈。フェイもこくりと頷いた。 「ほら、頭出しな。チョコ落としちゃおうな」 言われるままに前かがみに頭を出すフェイ。那奈は十分にフェイの髪を濡らした後、シャンプーを手の平に落とし、ゆっくりとフェイの頭にシャンプーをかけた。 「お客さん。どこか痒いとこありませんか?」 「?」 フェイは困ったように那奈を見返した。 「う〜む。フェイにはこのネタは通じなかったか…」 那奈さん残念って感じで、名残惜しそうに何かブツブツと呟いていた。大方この先、往年の床屋コントもどきが繰り広げられる予定だったのであろう。 一通り、石鹸を含んだスポンジで擦ったあと、石鹸を落とそうと那奈がフェイと向かい合ったときだった。 「おおきいね。」 フェイは那奈の胸を見て言った。 「あ、これ? 苦労したんだぞ。ここまでするのは…って冗談冗談」 見事なオヤジギャグだが、フェイには全く通じても居なかった。 (やっぱ滑るな。今後は控えるか…) 「あんたも大きくなれば、きっとこうなるよ。安心おし。」 「…………おおきく」 ため息混じりで口にしたその言葉には、フェイの幼い姿とは裏腹に、言い知れない哀愁が漂っていた。 「フェイ…」 那奈も哀しい気持ちなったが、それをそのまま受け入れてしまうほど幼くもなくれば、素直でもなかった。返す言葉はこうだった。 「いいかい? あんたが正体が何者で、実際の歳なんて幾つでもね。あんたはこの家の子であたし達の妹だ。これはこの先ずっと変わらないよ。」 『…那奈』 フェイにした大きな声だった。風呂場のタイルに反響して、少し響いた。その声は那奈の心にも響いたのだが、しかし、名前を呼ばれただけだというのに、どうしてこんなに重たく響いて聞こえるのだろうか…それはきっと、短い呼び声に沢山の想いが詰め込まれているから…。 「はい。湿っぽい話はおしまい」 ザバーッ! 言うが早いとばかりに、フェイの頭のうえから風呂桶に溜めていたお湯をぶっかける那奈。 「うわっ、ぷっ」 「あっ、ごめんごめん。目に入った?」 ごほっ、ごほっ 「……飲んだ…」 少し座った目で、恨めしがましく見返すフェイ。前髪が乱れて垂れ下がっていたので、少し怖かった。 「わ、わりぃ…」 少し仕返しをしてやりたいフェイだったが、あいにく風呂桶は空だったので、シャワーを全開にして、那奈に浴びせた。 「……」 「やったな! この…」 愉快な声が風呂場に響いた。 「太助様…。」 「ん?」 「那奈さんたち、なんだか楽しそうですよ」 脱衣所へ彼女達の着替えを持っていったシャオが言った。 「そっか。那奈姉ってフェイと仲いいんだな」 「いえ、その、そうじゃなくてですね…」 「え?」 「わたしも…その…」 なんとなく何が言いたいか判ったような気がした太助だが『いくらなんでもそれは不味いだろうよ?』と心底思った。内心は勿論嬉しいのだが…。 「駄目よ。そんなの」 「あんたの頭はあたしが念入りに洗ってあげるわ」 ルーアンが、なにやら妖しげな手つきで、指を握ったり開いたりしながら宣言した。 「ルーアンさん?」 太助としては、ほっと一安心した気分だった。あのまま勢いで押し切られたら偉いことになっていたに違いない。少々残念でもあるのだが…。 「ああ、そうしてくれ。その方が助かる」 「太助様」 (いや、だから、その…残念そうに言わないでください。シャオリンさん) 「まったく油断も隙もあったもんじゃないわ」 ルーアンのちょっかい恐らく初めて感謝する、太助の姿がそこにはあった。 おしまい あとがきのようなもの 徒然なるままに書きました(笑) なんか、2月上旬から中旬のある日の日常もどきになってしまいましたね(苦笑)だれか主役だかわかりません(笑) 通しで出てるのはフェイちゃんですね。じゃ、フェイちゃんのお話? ちがうなぁ、やっぱり『七梨家の日常その1』みたいな感じがしますね。 どうも、この先大筋軽視で日常風景もどきを暫く書きつづけるような気がします。フェイちゃんの居る日常って書いてて楽しいんだもん。そうそう、私にしては珍しく、紀柳さんが欠場してます(笑)一体何処へ行ったのでしょうか? きっと文殿と戯れていることでしょう(笑) 2003年3月12日 ふぉうりん |
274 | Reply | つれつれ | 空理空論 | URL | 2003/03/13 01:35 | |
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チョコが出てきたんでバレンタインがらみかと思ってましたが… 見事に違ってましたね(風呂場に場面転換した辺りとか面食らってました) すっかり家族の一員となり、那奈と仲良く過ごしてるフェイがいいっす。 (日常書いてて楽しいってのわかる気がしますね) 純粋に楽しかったです。 |
278 | Reply | こういうネタもありですね。 | Foolis | 2003/03/13 13:53 | ||
cc9999 | ||||||
チョコと出てきたらチョコを渡すネタかと思ったら…… ちょっとやられました。 フェイちゃんと那奈とのやりとりがよかったです。 |
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