284 | Reply | 「旅と列車とシャオリンと」 | 路崎 高久 | 2003/05/06 02:41 | ||
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ガタタン、ゴトン ガタタン、ゴトン・・・・・・ 規則正しい音と揺れがいつまでも続く。 ガタタン、ゴトン ガタタン、ゴトン・・・・・・ 少年はうたたねから覚めたばかりの半開きの目で、車窓と、そして彼のとなりでまだ夢の世界にいる少女とを交互に見た後、穏やかに微笑んだ。 ガタタン、ゴトン ガタタン、ゴトン・・・・・・ まもって守護月天!2次小説 「旅と列車とシャオリンと」 話は数日前にさかのぼる。 「どーするかなぁ・・・」 夏休みも目前のある日、太助は居間で一人ためいきをついていた。 「ルーアンは夏休み中も宿直と補習で学校に行く、キリュウも暑いから試練はしばらく休みっていってくれた、フェイは那奈姉が見ててくれるからこれもOKだ。OKだが・・・しかし・・・」 と言って彼は傍らに置いてある貯金通帳をめくってみた。あたかも預金がいつのまにか増えていることを期待するかのように。しかし、そこには少々心許ない金額が記されているのみである。 「はあ・・・」 本日何度目かのためいきをもらして、太助は悩みに悩んでいた。もうお分かりだろうが、太助はシャオとの『2人きりの』旅行の計画を練っていたのである。本当はいつものように大勢で団体旅行のつもりだったが、みな諸事情により参加できなくなり、シャオと太助の2人だけで旅行することになったのだ(もちろん、ルーアンには『旅行は中止』と言ってある)。ルーアンは夏休みが始まっても一週間は宿直と補習で学校にカンヅメだし(無論、大量の食品を持っていった)、キリュウは「暑い・・・」とダウン状態。那奈姉は「キリュウとフェイの面倒は見といてやるから、どっかいってきなよ。」と太助を後押ししてくれたし、肝心のシャオも、「太助様がよろしければ・・・」と承知してくれた。漫画にはなかなか無い展開である(笑)。だが、ここで万事うまくいったらかえって不気味である(おいおい)。喜び勇んで準備にとりかかった太助だったが、そこに今まですっかり忘れていた最大の敵「旅行費用」がたちふさがったのである。つーか、それを忘れたらイカンだろ、というツッコミが入るかもしれないが、いままでの団体旅行では仲間の知り合いや親戚が宿をやっていて、安く泊まれたり、みんなで費用を出し合ったりしていた(シャオのぶんを出雲が負担していたのはいわずもがな。実は、山野辺もけっこう援助している)ので金銭のことはあまり深く考えなくてもよかったのである。が、今回は完全に自己負担。しかもシャオも太助もまだ中学生なので、太助のなけなしの貯金をはたくことになったが、その金額が心細く、それで太助は悩んでいるのである。 「シャオは精霊だから電車賃はタダ・・・なんて理屈は通りっこないか、そうだ、移動中はシャオに支天輪の中にいてもらって・・・だめだめ、そんなんじゃきっとシャオもつまらないよな・・・」 「ずいぶんとお悩みだねぇ、太助君」 といって居間に入ってきたのは那奈である。 「あんたのことだから、旅費が足りないとか言いそうだと思ってたけど、図星のようね」 「そーなんだよ、そのことで那奈姉に相談が「お金なら貸さないよ」 太助が言い終わるまえに釘を刺す那奈姉。先手をうたれて落ち込む太助。そんな太助のまえに、ドサリと一冊の分厚い雑誌と一枚の大きめの切符が置かれた。雑誌には「JR時刻表」、切符には、「青春18きっぷ」とかかれている。 「これは・・・?」 どちらも太助にとってはあまりなじみのない物である。 「こいつは普通の時刻表。こっちは『青春18きっぷ』っていって、期間内のきめられた回数、電車が乗り放題になる、ってやつだ。ただし、JRの普通列車だけな。お金は出せないけど、かわりにこいつをやるよ」 「あ・・ありがと・・でも、普通列車じゃなあ、新幹線とか・・・」 「おいおい、普通列車をなめるなよ、そりゃ特急や新幹線に比べれば遅いし時間もかかるかもしれないけど・・・うーん、口じゃうまくいえないや。ま、とにかくこれ使って行ってみなって。あ、そうそう、どうせ行き先きめてないだろうから、あたしが決めておいてやったよ」 といって、時刻表の路線図のとある駅にしるしをつけた。 「あ、ちょっと那奈姉!そんな勝手に・・・」 「じゃあどこ行くか決めてあるんだ?」 「それは・・・まだ」 「ほら見なさい」 那奈姉は一枚上手である。 「ちょっと遠いけど、うまく普通列車をのりついでいけば、夕方には着けると思うよ。どの列車に乗って、どこで乗り換えるかは自分で考えるんだね。お金で悩むより、よっぽど楽しく悩めると思うよ」 「楽しく悩むって・・・それに着いたところでどこに泊まればいいのさ?」 「それもご心配なく。実は前に旅の途中でこの町に寄ったとき、親切にしてもらった人がいてさ、その人にうちの弟とその恋人が行くから、泊めてもらえないかって言ったら、いつでも来いよって言ってくれたんだよー」 「最初っからそこに行かせるつもりだったのね、那奈姉。あ、それに恋人って・・・」 「冗談冗談、シャオはあたしの妹って言っておいたから。いちおーあんたも兄らしくふるまってよ」 「う、うん・・・(シャオがお、俺の妹ぉ?ってことはシャオは俺のことを『おにいちゃん(はあと)』とかって呼んでくれるのか?悪くない、つーかむしろイイ、イイぞっ!)」 妄想全開の太助、某ギャルゲーの影響であろうか。そんな太助に那奈姉がしらけきった表情で一言。 「そうそう太助、シャオに変な気おこすなよー、妹なんだからなー、くっくっく」 あわてて我に返る太助。 「そ、そんなことしないよっ!それより・・・」 「なに?まだなにかあんの?」 「この切符、18歳じゃないと使えないんじゃ・・・」 「あーそれか、それは、自分が18歳のように青春していると思っていれば、14歳でも80歳でも使えるよ(本当)」 「そ、そう?それにしても那奈姉が国内旅行の、それも鉄道旅行に詳しいとはおもわなかったな。いつも海外旅行ばっかりだと思ってたよ」 「まあ海外に行く前に自分の住んでる国ぐらい見ておこうとおもってね、国内を普通列車で一周したことがあるのよ」 「へー、それっていつの話?」 「うーん、よくおぼえてないけど、たしかお前ぐらいの頃かなぁ」 「えっ!?」 さすが旅人間、その頃から放浪癖がついていたようである。 「まあ、あたしもそーゆー経験をしてきたんだ。おまえもこれぐらいしたって損はしないさ。おっと、そろそろシャオが買い物から帰る頃だな。あとはシャオと二人で相談しな。しっかりかわいい妹を楽しませてあげなよ、お・に・い・ちゃん(はあと)!」 太助の妄想は見事に那奈姉にバレバレであった。やはり一枚上手である。 ガタタン、ゴトン ガタタン、ゴトン・・・・・ 「へー鶴が丘からきたんだ、都会でしょそっち、いーなぁ」と女生徒。 「でも、こちらは自然がこんなに・・・。すごいです」と、シャオ。 「山ばっかでつまんねえよー、こっちはよー」と、男子生徒。 「兄妹で旅してるんだ、てっきり恋人同士だとおもったよー」とまた別の女生徒。 「あ、いや、そんな・・・」と照れながら太助。 いくつもの駅を通り、いくつもの路線を乗り継ぎ、時は夕暮れ。車内は部活帰りの地元の中高生たちとの交流の場になっていた。太助はともかくとして(失礼!)シャオはやはりここでも人気者である。 『那奈姉の言ってたことって・・・こういうことか。そうだよな、新幹線じゃ地元の人たちとなんか話せないもんな』 太助はひとり納得した。 「それにしてもこんなとこまでよく鈍行(普通列車の別名)だけでこれたもんだねぇ、新幹線使えばあっという間だべ?」と別の男子生徒。 「(シャオ)たしかに時間はかかりましたけど・・・でも、そのおかげでゆっくり景色が楽しめましたし、こうしてみなさんとお友達になれたから・・・それに・・・」 「(地元一同+太助)それに?」 「(シャオ)その・・・太助さ・・おにいちゃんといっしょに・・・ゆっくり旅行ができるから・・・」 その後しばらく、太助とシャオはそろって耳まで赤くなり、車内は冷やかしと祝福(?)と罵詈雑言とがとびかう修羅場と化したことは言うまでもない。 『ご乗車ありがとうございました、まもなく、・・・・・じ、・・・・んじでございます。お降りのお客さまは、車内にお忘れ物、落し物なさいませんよう・・・・・』 終点が近づくにつれ、ひとり、またひとりと共に笑った「仲間」たちが去っていく。 「じゃあねーシャオちゃん!今度きたらうちにもよってねー!」 「んじゃ、七梨君、また会おうぜ!」 できればもっと語り合いたい。でも、彼らは彼らの帰るべき場所がある。 『まもなく、・・ご、・・ごでございます。お降りのお客様は・・・・・』 「私が鶴が丘市にいったら、シャオちゃんが町を案内してくれる?」 「はい、いつでもきてくださいね」 「ありがと〜。あ、降りなきゃ、じゃ、シャオちゃん、気をつけてね」 「はい、・・子さんもお気をつけて」 会うは別れの始まり、しかし、こんなに短く、そして忘れ難い出会いがほかにあるだろうか? 『まもなく、・・・た、・・ぎたでございます。列車交換のため、4分少々停車いたします・・・』 「そっか・・・君の友達にもたかしってやつはいるんだねぇ、そんじゃそいつによろしく言っといてよ!」 「はい!・・木先輩も気をつけて」 「シャオちゃーーーん!(シャオに抱きつく)せっかくお友達になったのにもうお別れなんて・・・。もっといろいろ中華料理おしえてほしいのに〜」 「こらこら、・・美!シャオちゃん困ってるじゃないの。それに車内でマーボードーフの作り方教わる人がどこにいるのよ!」 「だって・・・せっかく本場中国の人と友達になれたのに。姉さんは悲しくないの?」 「そりゃあ・・・まあ、ね。でもまたすぐ会えるよ、同じ日本に住んでるんだからさ!ね、シャオちゃん!」 「はい!」 「そっか・・・そーだね。よーし、じゃあシャオちゃん、次に会ったらこんどはマーボーナスの作り方教えてね!約束だよ!!」 「・・美!ほら、ドア閉まるよ!」 「ちぇっ、自分もチャーハンの作り方のコツ教わってたくせに・・・」 「なんか言った!?」 「いーえ、なーんにも。じゃあね、シャオちゃん、あ、それと太助君、シャオちゃん大事にしなよ!」 「だから俺たちは兄妹だって・・・」 「義理の、でしょ?いーからいーから。そんじゃねっ!」 「・・美さん、・・江さん、どうかお元気で・・・」 プシュー ガタン!ドアが閉まり、彼女らの姿がみるみるうちに後ずさっていく。シャオと太助は駅が見えなくなるまで手を振り続けた。きっと、彼女たちも列車が見えなくなるまで手を振り続けてくれているだろう。 「太助様・・・」 手を振り終えると、シャオは寂しそうな顔を太助に向けた。 「どうして、お別れってしなくちゃならないんでしょうね・・・」 「シャオ・・・」 太助はなにも答えられなかった。数千年の時を過ごし、幾多の人々との出会いと別れを繰り返してきたシャオにくらべ、たかだか十数年しか生きていない太助にとって、シャオの言葉はずしりと重く響いた。 「みなさん・・・やさしかった。会ったばかりなのに、すごく親切にしてくれた。それに・・・すごく楽しかった・・・。いけない、わたし守護月天なのに・・・」 そうつぶやくシャオの横で太助は黙りこくっていたが、やがてシャオをまっすぐみつめると、決心したように、言った。 「シャオ、きっとまたここに来よう!そうすればみんなにもまた会えるよ!そうだ、みんなの通ってる学校に行こう!それならもっとたくさんいろんな話ができると思うんだ」 「太助様・・・」 「みんなからまた会おう、っていわれただろ?それにシャオが楽しいと、俺もうれしいんだ。だから・・・」 シャオは驚いたような顔をしていたが、やがてうれしそうに微笑んだ。 「・・・ありがとう・・・ございます・・・」 まっすぐに見つめあう太助とシャオ。どちらの表情にも、もう寂しさはなかった。 『ご乗車ありがとうございました。まもなく終点、・・て、・・てでございます。降り口右側です。・・う本線下り・・・がり、・・た方面、・・・み線・・・・だ、・・かみ方面はお乗換えです。車内にお忘れ物、落し物なさいませんよう、ご注意ください。本日もJR・・し日本をご利用くださいましてまことにありがとうございました。まもなく終点、・・てでございます』 「ふぅーやっとついた・・・。シャオ、疲れた?」 「ぜんぜん疲れないです!太助様、疲れちゃいましたか?」 「んーん、疲れてない。あ、そうだ、シャオ、今日は・・・楽しかったか?」 「はい!」 「そっか・・・」 「七梨太助君と、七梨シャオリンさん・・・かい?」 突然、後ろから声をかけられたので二人が振り向くと、男が二人たっていた。 「すまんな、ちっと遅れちまった。那奈さんから話は聞いてるよ。よくきたねぇ。俺は・・浩、こっちは・・し叔父貴。よろしくな!」 「あ、はい。こちらこそ。七梨太助です、よろしくお願いします」 「守護・・・七梨シャオリンです、お世話になります」 「二人とも礼儀正しいなぁ、ま、あいさつはそこら辺にして、乗った乗った。腹減ってるだろ?家でごちそうつくってるからさ、今行けばちょうどだぜ。」 「そう急くな、・・浩。太助君、シャオリンさん、何もない町だが、ゆっくりしていってくれ」 「はい、ありがとうございます。シャオ、行こっか」 「はい!あ、太助様・・・」 「ん?なに?」 「・・・ううん、なんでもありません」 「おぉーい!いくぞぉー!」 「「はーい!」」 車に向かって走り出す二人。その手はしっかりとお互いをつないでいた。 (終わり) (あとがきのようなもの) ども、はじめまして、路崎と申します。何年も前にノートにエンピツで書いた2次小説が出てきたので、一部設定を変えて(フェイを追加、など)投稿させていただきました。鼻から火が出るほど稚拙な出来ですが(とくにラストめちゃくちゃ・・・あ、それとラスト付近に「再逢」第2話の太助とシャオのセリフを使わせていただきました)、読んでいただければ幸いです。一応ノートにはこの先の話も書かれているのですが・・・。若かったなあ、俺。それと、作中にでてくるキャラ(・・美とか・・浩とか)の名はべつに深い意味はないです。でも伏字でOO子とか書くのも変かなと思ったので・・・。ちなみに駅名は東北地方の某県の実在の駅名を伏せたものです(駅の並びもこの順序です)。話を作る際、ランダムで決めました。 この作品には漫画の主要脇役キャラはほとんどでてきません(キリュウは一言、フェイ、ルーアンにいたってはセリフもない・・・ファンの方、ごめんなさい)。これは反省すべきだなぁと思うこと然りです。那奈姉の切符の薀蓄ももっとみじかくすればよかった・・・(ここいらは自分の趣味入りまくりです)。もっと精進いたします。では、こんなところで・・・。いずれまた。 (空理空論さんをはじめ、あらゆる月天小説作家に最大の敬意をこめて。路崎 高久) |
285 | Reply | のどかだ… | 空理空論 | URL | 2003/05/08 23:31 | |
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いきなり飛び出した展開に対するは金銭問題。 当たり前のことなんですがなんか新鮮に思えました。 現実的な要素ではあるんですが、それが嫌らしくなくて、 逆に今回の話のメインとなる列車旅行に繋がっているのが素敵です。 >でも、普通列車じゃなあ って、何気に贅沢ですな太助君(笑) たしかに時間がかかるのも事実ですけどね、 時間があれば是非にやってみたく思う旅行の一つです。(本当に、時間があれば…) さて、メインとなる列車の旅模様ですが、 くるくると入れ代わり立ち代わりの人達、 それぞれとの交流模様が実に旅らしいなと思いました。 列車で旅、とはいえなかなかこういう風に初めての人と話したりも無いもので、 いいな〜、ってしみじみ、です。 別れというのはたしかにさびしくもありますが、 それより前に、そしてその後にも、出会いというものが待っているからこそ、 越してゆけるものではないでしょうか、なんて。 |
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