383 | Reply | プロローグ | しののめ | 2004/07/31 01:36 | ||
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時は近未来。人類が、次の段階へと進みかけている、そんな世界の転換期の狭間の時代。機械による人工器官が誕生し、脳の一部すら機械化され、バイオ技術は恐るべき速度で進化していく。人工AIは次の世代に入り、自己進化自己学習をも可能とした。人型ロボットも実用化まで後一歩までこぎつけた。補助外骨格という新たな概念が生まれ、医学においても転機を迎えた。今や機械の腕は珍しくもなんとも無い。だが、それでもまだ昔から残る物もある。世界は変わった。だが、人の生活はまだ変わってはいない。 ……そんな、狭間の時代の物語である。 「……はぁ。」 僕は、いきなり降り始めた土砂降りに頭を悩ませていた。 部活の関係で、遅くまで残っていた僕は結果この土砂降りによって学校に取り残されることになった。 鞄の中には、大事なプリントや借り物のデータディスクが入っており、この雨の中を走っていったら全部お釈迦になるのは目に見えていた。 遅くなる事を覚悟し、雨が止むのを願いつつ下駄箱から校庭を見渡してみた。 雨というカーテンを透して見る校庭は、何時もと違って見える物だ。 何時も見慣れた光景でありながら、雨というだけでこうも違うものかと内心驚く。僕は、やる事もないのでその場に座り込んでその光景を眺めることにした。 「たまにはいいもんだなぁ……。」 何時もと違う光景、ただそれだけで心を惹かれるものがある。 何と無く周りを見回していると、この学校に在る、一本の巨木が目に入った。この学校の看板とも言える木であり、それ以前にこの町のシンボルでもある。 背も高いのだが、それ以上に横に広く、太陽の強い日等はよくこの下で休んでいる人を見かける。この町ができるはるか昔からあり続ける、一種の御神木だ。様々なところが変わっていく世の中で、今だその流れを受けず、昔からの姿を残し続ける。その姿は、雨に霞んですらその存在を主張し続ける。その存在感に時々僕は意思を感じる事がある。 ふと思い立って、僕は校舎の中に戻った。靴を履いたまま、あの木の下に濡れずに行く方法があるからだ。この学校は、あの御神木に重きを置いている。だから、朝礼には必ず御神木に祈り……というか、挨拶をしに行くし、雨が降っていても、校長や先生、生徒から何名かは必ず挨拶に来る。その為か、枝葉が届く程度の場所まで、歩いていけるように屋根のついた道がある。どうせ雨宿りするならこの御神木の下がいいと思ったんだ。僕は道を通り、木の近くまで歩む。屋根が切れても、枝葉が屋根代わりになってずぶ濡れになる事なんてめったにない。案の定、大して濡れる事無く、木の根元まで来る事ができた。見上げると、幾重にも枝葉が重なり、空を仰ぐ事なんて到底できっこない。僕も、小さい頃はこの木に登って遊んだものだ。……最も、結局降りられなくなって助けてもらったんだけど。……よし、久しぶりに登ってみるかな。暇だし。 荷物を決して濡れない場所に置いて、木に登ろうと手をかける。そして、上を仰ぐ。すると、目の前には何かが落ちてきていて……え? 「むぐっ!?」 顔全体に何か柔らかい感触、同時に上半身に何かの重量が集中し、体全体が仰け反る形になる。……まて、ちょっとまて、そうすると必然的に僕は……!? ――ゴスッ ……後頭部を地面に強打する事となり、それを確認すると同時に激痛。そして、僕の意識は闇に溶け永遠の眠りに………… 「ついてたまるかっ!!」 自分の思考に突っ込みを入れつつ、突っ込みの反動で無理やり起き上がり、ついでに何かも弾き飛ばす。 「あう……いたい……」 ……何やら、誰かが悲鳴?を上げているけれど、もしかして……そう思い、僕は何かを弾き飛ばしたと思われる方向に眼を向ける。 そこには、女の子がしりもちをついていた。 「あの、大丈夫……?」 立ち上がって、僕はその子に向かって手を差し出した。女の子は、何やら僕を品定めするかのように見てくる。僕も、軽く女の子を見てみた。柔らかそうな黒いショートヘアー。押さない顔立ちで、軽いつり目は綺麗な紅い瞳だった。服装は、実用一点張りなのか。黒いタンクトップに黒のアーミーパンツ。更に同色のコンバットブーツ。年の頃14,5の華奢な女の子だ。 彼女は、1分程時間を置いて、僕の手を握ってきた。……って、なんか女の子らしからぬ力で握られてるんですけど……。とりあえずそれは置いといて彼女を引き起こした。引き起こした感触から見ると、体重もかなり軽そうだ。 「……ありがと。」 ゆっくりとたどたどしく、だがはっきりとした口調で礼を言う。 「いや、気にしないでいいよ。」 とりあえず笑顔でそういう僕。半ば条件反射というのは秘密だけど。そんな僕を本当に気にせず、彼女はお尻についた土を払っていた。 いや、別にいいんだけどね……。 そんな時、上からがさがさ音がする。何事かと空を仰ぐと、木の枝の上に一匹の猫がいた。体の要所が機械化された、白い子猫だ。だけど、最初からその子猫の為に作られていたかのように、機械化されていながらも違和感が無く、可愛らしさを失っていない。それどころか、それがアクセントとなっていて、逆に可愛らしく見える。もしかしたら子猫型のペットロイドかもしれない。 「秋ちゃん、にゃに木の枝から落ちてるの?」 そして、その子猫が、やたらと人間臭く言葉を紡いだ。 「……むぅ。居眠りしたんだよ。」 秋ちゃんと呼ばれた女の子が、見ると僕と同じように猫を見上げていた。すかさず、子猫が枝から飛び降りて、女の子の頭の上に飛び乗る。何やら見ていて微笑ましい組み合わせではある。 「えっと、君達も雨宿り?」 僕が聞くと、二人は顔を見合わせて、それから同時に首を横に振った。 「じゃあ何してるの、こんな所で。」 どうせ暇なので、この子達と話でもする事にした。どうせ雨止むまでやる事ないし。 僕の問いに、女の子があっさりと答えてくる。 「人を、探してるの。」 相変わらず、ゆっくりとたどたどしい口調で答えてくる。 「人を探してるって事は、もしかしてこの学校の人?」 今度は首を縦に振って答えてくれる。……まぁ、この学校以外の人間を探しているのなら、こんな所にはいないか。 「そうにゃんですよ。でも、秋ちゃん疲れてたから居眠りしちゃって、学校の下校時間過ぎちゃったんですよ〜。」 「……むぅ。」 子猫にからかわれて、女の子、秋ちゃんは何か鳴き声?をあげてるし。多分照れ隠しとかそんなんだろう。 「ん〜、僕も学校の人間だから、手伝えるんじゃないかな。記憶力いいから、殆どの人間の顔と名前覚えてるし。」 予断だけど、僕は暗算や記憶速度が桁外れて速い。一度見た事は殆ど忘れないし、普通の計算なら瞬き一つの時間もかからない。まぁ、ただの自慢話だけど。 僕が手伝うって言うと、二人とも顔を見合わせて、目で会話をしてる。まぁ、実際は埋め込み式の無線やらなんやらで話してるんだろうけど。秋ちゃんの首筋にプラグを挿すジャックがあったし。多分、頭に機械を埋め込んでるんだろうな。ちなみに僕は生身だけどね。 「……まぁ、どしようかって、思ってたとこだから……。」 「お願いしますにゃ。」 おずおずと、二人そろって頼んでくれる。何と無くうれしい。 「任せてよ。それじゃ、その探し人の名前とか教えてよ。」 とりあえず、記憶の中を整理して、簡単な名簿を作っておく。さて、こんな子に探されるやつは誰かなっと。 「了解ですにゃ。にゃまえはですね……」 「……千流寺、飛鳥(せんりゅうじ あすか)って言うの。」 ふんふん、千流寺飛鳥ね……。ん? ちょっとまてよ。 「あのー……。」 僕が、おずおずと言葉を紡ぐ。 「にゃんですか、もしかしてもうわかりみゃした?」 「……わかったの?」 二人に逆に問いかけられ、僕は頷く。 それを聞いて子猫はうれしそう。秋ちゃんも表情あんまり変わってないけど、うれしそうだ。だけどねぇ……。 「……で、どこにいるの?」 秋ちゃんが聞いてくる。それに対して、半ば呆然としつつ答えようとする。 「千流寺飛鳥はね……。」 「どこですかにゃ?」 「……どこ?」 二人は乗り出すように僕に詰め寄って来る。 僕は、大きくため息をついて答えた。 「千流寺飛鳥って、僕だよ……。」 それを聞いて、二人は硬直した。ぽりぽりと頭をかく僕。そして、目の前の二人に僕になんの用か、聞こうとした……が、それより先に、二人が口を開いた。 「千流寺飛鳥さん、私達の仲間になって下さい!」 「……というか、ちからを貸して。」 ……とりあえず二人の言葉を聴いて、僕が吐き出せた言葉は一つだけだった。 「……はいっ?」 |
385 | Reply | そして… | 空理空論 | URL | 2004/08/06 23:47 | |
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出会い、と(なんだこの感想の始まり) いきなり設定が物凄いながらも、普通に学校生活があるのが(いやまあ、普通学校くらいはあるものですが)なんかこう、昔ながらの形っていうんですか、 そういうのを失ってない世界なんだなあと、妙なとこでしみじみしてます。 機械真っ只中…かと思えばご神木なんぞあったり、そこで雨宿りしたりと、 なんとも風流な雰囲気が居心地いいですね…。 ペットロイドって言葉には、ああなるほど納得、です。 |
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