[229] さずけて慶幸日天! 第8話 「汝昴 対 翔子 ? 後編」
投稿者名: 汝昴待遇向上委員会 委員長 (ホームページ)
投稿日時: 2001年8月14日 13時17分
「ところでさ、あたしも聞きたいことがあるんだけど」 「なにかしら?」 「さっき、ほら店員に追いかけられてたときのアレ、アレは一体なんなんだ?あの時は「中国四千年の神秘」とか言って煙にまかれたけど」 「ああ、それね?」 「そうそう」 翔子は興味津々で聞きたくてしょうがないと言った感じだ。 「順序立てて説明するわよ。いいわね?」 「うんうん」 「まず、私は最近中国からこの国にやってきたわ。まぁ「狼少年」とか知らないのはそのせいよ」 彼女の言う事は、あながち嘘でもなかった。 「へぇ、そうなんだ。でも、これは国柄はあんまり関係ないと思うぞ」 「うるさいわね。話ここで止めちゃうわよ?」 「いやぁ、悪い悪い。続けて続けて」 眉根をよせて、不機嫌そうな顔をするルーアン。翔子はパタパタと手を振って続きを促した。 「あれは『陽天心召来』って言ってね。私の特技なの」 「へぇ、特技ねぇ。で、どんなことが出来るんだ?」 翔子は「特技」の一言で片付けて良いのかとの疑問に思いつつも、続きを促した。 「日頃意思を表に現せない者達が、自らの意思で自由に動き出せるようになるわ」 「・・・・・!?」 数秒沈黙、翔子理解完了 「ちょっとまて! 特技とかいうレベルじゃないぞ!? それじゃまるで手品か魔法だ」 「うふふふふ(ハートマーク)」 ルーアンは翔子の驚いた顔に満足そうな笑みで答えた。 「あんた一体何者なんだ?」 「知りたい?」 「うん。知りたい」 翔子の目は期待に満ちていた。 「ひ・み・つ」 「だぁ〜」 焦らされた翔子はへなへなと力が抜けるかのようにテーブルにこけた。 「別に必ず秘密って訳じゃないけど、人に言ったらあの人に怒られそうだから・・・・でも一人くらいならいいかなぁ?」 ルーアンはこけてる翔子に言葉をかける訳でもなく、独り言を口にしていた。 「貴方、絶対人に喋らないって約束できる?」 「ああ、喋らない、喋らない、約束するよ」 殆ど聞きたいが為の口約束である。 「嘘くさいわねぇ」 翔子は一瞬ギクッっとしたが、務めてポーカーフェイスだった。 「けど・・・まぁ、いいわ。聞いて驚きなさい。私は『慶幸日天』太陽の精霊よ」 「・・・・・」 翔子は呆れた顔をしている、いうなれば「言うに事欠いて太陽の精霊か・・・」と言った感じだ。 「あっ、その顔は信じてないわね! だからあんまり言いたくなかったのよ」 ルーアンは頬をぶぅっと膨らませてぶーぶー文句を言った。 「いきなり太陽の精霊とか言われてもねぇ」 今度は翔子が疑わしい眼差しで、ルーアンを見ている。 「そういうこと言う? ならば信じさせてあげるわよ」
『陽天心召来!』
ルーアンの黒天筒が光を放つ。 「うわっ、な、なんだ!?」 突然翔子が座ったまま椅子ごと飛びはね始めた。いや正確には、翔子の座っていた椅子が自らの意思を持ち動き始めたのだった。
ビヨ〜ン、ビヨ〜ン
と跳ね廻る椅子。翔子は放り出されないように捕まってる。 「どう? これでもまだ信じない?」 「し、信じるからこいつを止めてくれ・・・・・・・・なぁんて、このあたしが言うと思ったかい?(ニヤリ)この椅子なかなか面白いじゃないか、あっはっはっはっはっは!」 ルーアンの頭の中では【陽天心に驚いて「止めてくれ」と懇願する翔子→ルーアンは満足そうに頷き陽天心を解く】ということになるはずだったが、翔子の予想の枠の遥か彼方のリアクションにルーアンは少々肝を潰した。周りに居た幾人かの客は特にこの情景に対して疑問を持ったが彼女達に声を掛ける者はなかった。恐らくショーか何かの類かと思ったのだろう。最も椅子が勝手に動き出すような事態には自ら関わろうとは思わないだけかも知れないが。暫くして陽天心を解くルーアン。 「なんだ、もう終り?」 「私は貴方を喜ばせるために陽天心を使った訳じゃないんだけど・・・・」 「え? ああ、そういえばそうだったな。そうそう、信じるよ。精霊だって話、ありゃ完全に人間技じゃないもんな」 翔子はかなり良い笑顔で笑っていた。
「ちょっと、いいかしら?」 「なに?」 「少し気になったんだけどね」 「だからなんだよ?」 「余計な御世話かも知れないけど、もう少し言葉遣いとかを直せないかしら? 貴方、折角可愛い顔してるのに、それじゃ少し勿体無いわよ?」 「ホント余計な御世話だな・・・どうせあたしは捻くれ者だよ♪」 悪戯っぽく、べーっと舌を出す 「親の顔が見てみたいわね」(嫌味) 翔子はほんの一瞬眉をひそめたが、すぐに普段の表情に戻って軽口を叩く 「あたしも今度、じっくり見てみたいもんだね」 ルーアンは翔子の表情から垣間見た一瞬のささくれた表情と、反対におどけた言葉の内容から、自分の何気ない言葉が翔子を傷つけたことに気が付いた。 「・・・・ごめんなさいね」 「・・・・」 沈黙 「・・・・なんで謝るんだよ!?」 「私が悪いと思ったからよ」 翔子はなんだかカチンときた。 「・・・・」 険しい表情で立ち上がり、その場を後にすべく踵を返そうとした。 「何処へ行く気?」 少し大きな声で、翔子に問うルーアン 「何処でもいいだろ?」 「貴方、またさっきの「万引き」とかそういうのを繰り返す気なの? さまざまものと引き換えに刹那的な一瞬の興奮を得ようとするの? それで貴方は幸せなの? 貴方はそれで本当にいいの?」
沈黙。一瞬その場は音が一切無くなったのかのようにも思えた。
「・・・・・」
「・・・けないだろ」
「・・・・そんなわけないだろ」
「・・・あたしだってそんなことしたって楽しくなんかないよ・・・・幸せな訳無いじゃんか・・・・あたしは、あたしの格好とか喋り方とかで、周りのヤツがあたしがどういう人間か決めつけるような気がしたらから・・・・」 「それで、その通りにしてやろうって、こんなことしてる訳?」 翔子は無言でコクリと頷く。 「・・・・バカね・・・」 ルーアンの言葉は諭すような暖かな含みをもっていた。 「・・・・・・そうかもな」 翔子は何処か遠くを見るような目で答えた。もしかしたらそういう言葉を誰かから掛けてもらうことを心の何処かで無意識に期待していたのかも知れない。 「・・・・でもさ、本当にあたしの気持ちがわかるやつなんて、ひとりも居やしないよ」 翔子は肩を竦め何処か諦めたかのように、そして吐き捨てるかのように言った。 「確かに今は居ないわね。でも、貴方を理解しとうとしてるひとなら居るわよ」 「え?」 思わず聞き返す翔子。 「ここにね♪」 そういってルーアンは自分自身を親指で指しニッと笑った。 「・・・・・・そうだな」 翔子は嬉しいような恥かしいような少し困ったような、いろいろなものが入り混じった表情で目を細めて笑っていた。
「でもさ、あんた気にかけ過ぎだよ。あたしの親でもこんなに心配してないぜ」 「ほんと、どうしてかしらね?」 「でも・・・ありがとな」 翔子は柔らかく優しい笑顔で笑って礼を言った。これは翔子の素の笑顔なのだろう。しかしその顔は何処か寂しさを抱えたような。儚げな微笑みだった。そしてルーアンは気が付いた。この何処かわれものめいた、素手そのまま無神経に触ると崩れていまいそうな笑顔。そう、あの人、ルーアンの主たる七梨太助をと印象が重なるのだ。ルーアン「ああ」と声をあげ、軽く握った拳でポンっと手の平を叩き納得の表情をしていた。 「道理で気になると思ったら・・・・似てたからなのね。性格は全然だけど、そうね、今にたいに時々見せる何処か寂しげなところ、その瞳に湛えた見え隠れする寂しさの影とかね。そこなんかほんとそっくりね」 一人で勝手に納得してるルーアンに、翔子は不満の声を上げる。 「一体なんなんだよ。一人で勝手に納得しちゃってさ」 「私の主様たる、’あの人’に貴方がちょっと似ててねから、だから貴方のことが気になったんだって納得してたのよ」 「へぇ。主ねぇ。で? どんなヤツなんだ?」 「気になるの?」 「そりゃあ、あたしに似てるって言われたヤツだからね」 「心が清くて優しい人よ。優しすぎてこっちの胸が痛くなるくらいの」 語るルーアンのその表情から、翔子はルーアンの言う’あの人’に少し興味をおぼえた。 「ふーん。やっぱりそいつも、何処かであたしみたいな・・・・その・・・」 翔子は自分の胸の内を吐露してよいか迷ったが、 「・・・・一人で・・・寂しい思いとかしてたって訳?」 どこかおそるおそると言った感じで翔子は聞いた。 「・・・・・そうね。私があの人に仕えるまでは、あの人は広いお家に一人切りで暮らして居たわ。まだ子供なのに何年も前からね。家族にもまだ少しくらいは甘えてもいい歳頃なのに・・・・」 「・・・・」 翔子は黙って聞いていた。そして彼女の中に沸いた印象は「自分とそいつの境遇は少し似ている」と 「そんな中で、いつも家に居ない家族に口では文句を言ってたけど、心の底からは決して怨んではいないわね。きっと。あの人は物判りが良過ぎるのよ」 「へぇ、あたしとはえらい違いだな」 翔子かは肩を竦めた。 「でも、そいつ良いヤツそうだな。今度紹介してくれよ」 翔子の口がら意外な言葉が出た。 「別に、いいわよ。でもわざわざ紹介するまでもないかもね」 「?」 その時、二人近づく者の影があった。 「ルーアン、こんな所に居たのか、探したんだぞ」 七梨太助だった。 「あら、たー様。よくここがわかったわね」 「ルーアン陽天心使ったろ? 床が勝手に動くとか、飛び跳ねる椅子とか聞いて来てみたら、案の定だったな」 太助はやや呆れ気味に言った。 「七梨太助!?」 太助は自分の名前を驚き共に上げた声の主を見た。 「山野辺翔子!?」 太助もつられて? 驚きの声を上げた。 「はいはい。二人でお互い驚いて漏り上がるのはいいんだけどさ。私にも少しは喋らせてよ」 そこに自己主張とばかりに水を指すルーアン。 「ああ」 「わりぃ」 ルーアンは太助と翔子の同じよう表情での同じようなリアクションにクスッと小さく笑い、笑顔でこう言った。
「たー様、紹介するわ。私の『この時代でのはじめての友達』山野辺翔子ちゃんよ!」
第9話へ続く
あとがき 今回も前回に引き続き、これ以上無いってほどのパラレルワールドっぷりを発揮してますね(笑) 翔子様がニセモノっぽくなってる節がありますが、私の中では大体こんな感じです。 無事に翔子様登場編が終りました。今回はわりとキチンと(?)原作第3話をパクリましたね(笑) 自分的にも翔子様のポジションについて悩みましたが、結局「ルーアンの友達」という原作ではまずありえない、この作品ならではのポジションとあいなりました。
どうにか、夏のうちにここまで来れました・・・・次回は原作第4話のパロディで『海』に行きます!! しかもあの3人で!!(多分) 一体どうなるんだ? 私にも想像つかん・・・・書く前から心配になってきた(オイオイ) さまざまな(書く上での)不安材料を残しながら今回は終わります。
2001年8月9日 ふぉうりん |
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