スレッド No.219


[219] さずけて慶幸日天! 第7話 「汝昴 対 翔子 ? 前編」
投稿者名: 汝昴待遇向上委員会 委員長 (ホームページ)
投稿日時: 2001年8月5日 15時42分
「ふーん、あの子もう2、3年もしたら結構美人になるわよ」
「へぇ」
「遠くからみても目を引くその容貌、その素質十分有りね」
 ルーアンの言葉もなんだか自身あり気だ。
「・・・そうなんだ」
 その太助の一歩引いたような、そのどことなく腫れ物にでも触るような態度にルーアンは疑念を覚えた。
「たー様?」
 太助も彼女のその声音で、自分になにか言いたい事があるのも解った。そして、目を逸らすように目線をルーアンから外し、先ほどまでいたクラスメートの方に戻すといつのまにか彼女はそこから居なくなっていた。


 ここは公園、買い物とは言っても殆どその辺をぶらぶらしていただけだが、それなりに歩いていた。二人はベンチに腰を下ろしくつろいでいた。
「さっきのヤツは山野辺翔子、クラスじゃ不良だって言われてるよ」
「言われてる?」
「ああ、人聞きでしかないんだけどね。俺も特に付き合いがあるわけじゃないからなぁ、でも周りからは良い噂を聞かないよ・・・・」
「・・・・そう」
 そこまで聞いたルーアンの声は少し、寂しげに聞こえたのは太助の気のせいだろうか?
「それで?」
「それで?」
 太助はルーアンの言葉をオウム返し聞き返す
「それで貴方も噂や憶測、上辺だけでその人のことを判断しちゃうの? 今の世の中の人達って皆そんな風なの?」
 太助はギクリとした。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・わからない」
 太助は言い淀みながらこの言葉を出すのが精一杯だった。
「そう・・・でも、悲しいわね」
「・・・・・」
 胸が痛んだ。そして返す言葉も無かった。太助はその時、自分が汚れた人間に思えてしょうがなかった。そして口をついてこんな言葉が出た。
「・・・・ごめん」
「どうしてあたしに謝るのよ? 謝るなら本人に直接言いなさいよ。でも安心したわ。私がちょっと言ったら素直にそういう言葉が貴方から出てきて」
「・・・・・」
「ね?」
「・・・・ありがとう」
 太助はルーアンに体を少し寄せて軽く体重をあずける。ルーアンは太助の頭を優しく撫でた。 


 太助は「買いたい物がある」と言ってデパートの本屋のコーナーにルーアンを連れて来た。この本屋はデパート内にある店舗ではそれなりに大きく、文具屋も兼ねていた。
「買ってくるから、その辺で適当立ち読みでもして時間を潰しててくれ」
「わかったわ」
 太助は目的の本を探しに実用書のコーナーへ姿を消した。
「あれは何かしら?」
 ルーアンはたまたま目に付いた本のタイトルに吸い寄せられるようにふらふらとその本に近づいて行った。因みにタイトルは「幸せを授ける本」と書いてある。ルーアンがそのタイトルに親近感を感じて吸い寄せられたのだろう。しかし彼女にしては珍しく、視野にはその本にか入ってなかった。そしてその本は棚の高い位置に納められていた。つまりは今現在彼女は視野は本しか入っておらず、注意力散漫なのである。すぐ傍に人が居ても彼女の視界には入って居ない。そして彼女は案の定、誰かとぶつかった。

どんっ、どさどさ

 ぶつかる音と、なにか物が落ちる音が幾つかした。
「あっ」
 ぶつかったことと、そこで上がった声にルーアンが我に返ると、目の前には先ほど遠目で見掛けた山野辺翔子が舌打ちをしていた。彼女の周りには筆箱やノートやシャープペンやらの文房具が散らばっていた。ルーアンには何があったのかさっぱりだった。
「あっ、ちょっと君達!!」
 という店員声が翔子の後ろから聞こえてきた。
「やべぇ!!」
 翔子はいきなり彼女の手を取って駆け出した。
「ちょっ、ちょっとなんなのよ?」
 翔子はルーアンの手を引きそのまま本屋飛び出した。


「お待たせって、あれ? 居ない。この辺に居ると思ったんだけどなぁ・・・・」
 太助はルーアンが居ないか周りを見廻した。
「あれ? ルーアン??・・・・しょうがないなぁ」
 太助はルーアンの姿は見当たらなかったが、
「ま、ゆっくり探すかな?」
 と世渡り上手な彼女のことだからと、あまり心配はしていなかった。


「ちょっと、いつまで走らせる気?」
「あいつが追ってこなくなるまでだよ!」
 翔子は思わず連れてきてしまった、ルーアンを置いていけば逃げ切れる自信はあったのだが、決してそうしようとは思わなかった。
「追って来なくなれば、走らなくてもいいの?」
「そうだよ!」
「なんだ、簡単じゃないの」
「え?」
 因みにこれは走りながら行われて居る会話である。

「日天に順(したが)う者は存し、日天に逆らう者は亡ばん。意思無き者我力を持って目覚めよ!!」

『陽天心召来!!』

 ルーアンは走りながら黒天筒を構え呪言は唱える。黒天筒から放たれた光は彼女の足元、詰り床に向って放たれる。
「わっ!? なんだこれは?」
 翔子は店員の狼狽する声が聞こえて来た。みれ見れば彼の足元がジョギングマシンのように彼の行きたい方向とは反対側に動いていた。
「なんだあれは!?」
 一瞬立ち止まり、翔子も驚きの声を上げる。
「これで暫く平気な筈よ。私達を見失えばもう追ってはこれないでしょう?」
「ああ、そうだな」
 と半分上の空で返す翔子。そして再び二人は走り出す。
「一体どんな手品を使ったんだ?」
「中国四千年の神秘よ♪」
 そう言ってルーアンは悪戯っぽく笑った。
「へぇ。なんかおもしろそうだな」
 翔子は興味深々に答えた。


 ここはデパートの屋上。そこには屋外軽食屋が何軒かあり、ルーアンと翔子は同じテーブルについていた。
「はいよ。走ってのどかわいたろ?」
 そう言って翔子は手にしたジュースをルーアンに手渡す。
「ありがと」
「とこでさ、さっきあれ一体なんだったんだよ?」
 さっきのあれとは勿論「陽天心」のことである。
「その前に、私の方が聞きたいことが山ほどあるわよ」
 説明が面倒なのもあるが、彼女にしてみればこんなことになった原因の大元のほうが知りたかったし、ものの順序としてはそれが正しかった。
「言われてみれば、それもそうだな」
 翔子もルーアンの主張の正当性を認めた。
「でしょ? 先に説明してちょうだい」
「ああ、いいよ。さっきのあれ、アンタあそこにあのまま居たら、いろいろ面倒なことになってたぜ?」
「へぇ、それって私を助けてくれたの?」
 ルーアンの問いに、一瞬翔子は固まる
「いや〜、はっはっはっはっは」
 頭かきながら照れ笑いのをする翔子。ルーアンはふと思った、このやりとりはどことなくかおかしい、翔子のリアクションで彼女は微妙な何かに気が付いた・・・あの時起きた事を整理してよく振り返って思い出してみる
「・・・・もしかして、私って、貴方がやろうとしたことに巻き込まれた?」
「あははははは〜」
 翔子は目線を宙に漂わせる。さっきの笑い声は、何処か乾いたものに変化した。どうやら正解だったらしい。
「・・・・・これって、私共犯者?」
 ルーアンが沈痛な面持ちで額を軽くおさえた。
「そうそう、これであんたも万引きの共犯者」
 そう言って翔子は良い笑顔で返す。
「万引き!・・・・ってなに?」
 ズルっとこけそうになる。
「なんだ? 万引きもしらないのか? いい大人なのに」
「・・・ああ、さっき貴方がやろうとしてたこと?」
 いい大人なのにを黙殺しつつ、聞き返すルーアン。
「そうそう」
「盗みは子供といえども罪が重いわよ。禁固刑三日間ってとろかしら?」
「随分厳しいな、どこの国の話だよ」
「昔の中国よ」
 きっぱりと即答するルーアン。
「・・・・」
 あまりにきっぱり言われたので翔子はちょっと目が点になった。
「どうしたの?」
「・・・・くっくくっくっくっくっくく、あっはっははっはは・・・普通そういうこと本気で言うか? あんた面白いなぁ」
「???」
 ルーアンにしてみれば、これまで居た環境について至極当たり前の事を言っただけなのだが、翔子にはそれが笑いのネタとしか思えなかった。


「おっと、そう言えば自己紹介がまだだったな。あたしの名前は」
「山野辺翔子、でしょ?」
「え? どうしてあたしの名前を?」
「山野辺翔子と言えば、鶴ヶ丘中学でその名を知らぬ者は無い、百戦錬磨の女頭領ってもっぱらの噂よ」
「ほ、ほんとか!?」
 そんなバカな、と思いつつも思わずこう聞き返さずには居られなかった。
「・・・・」
 ルーアンは無言だ、翔子はそれを無言の肯定と判断した。
「噂に尾ひれ背鰭がついてどんどん大きくなるって聞いたけどまさか、ここまでのことになるとは・・・・」
 自分でも信じられないと言った感じである
「・・・・・嘘よ」
 そしてルーアンはニヤリと笑い翔子はずるっと、前のめりこけた。
「騙したな・・・・」
 翔子は恨めしそうにルーアンを睨みつけた。
「あら、今の貴方、良い顔してるわよ」
「ほっとけ」
「これで、万引きに巻き込まれたことはチャラにしてあげるわよ」
 ルーアンの勝ち誇った笑みに翔子は少し悔しかった。
「くっそ〜。おぼえてろよ」
 負い目のある翔子には毒づくしことしか出来なかった。


「私の名前は瑠安慶子、ルーアンとでも呼んでちょうだい」
「わかった、嘘吐きルーアン」
「ちょっと、それはないんじゃないの?」
「じゃあ、狼少年ルーアン」
「ちょっと、私は狼でも少年でもないわよ」
「って突っ込むとこが違うってば、なんだ? 狼少年も知らないのか?」
「知らないわよ。悪かったわね。ところでその狼少年ってどういう意味なのよ?」
「教えないよ〜だ♪」
 むかっと、露骨に嫌そうな顔をするルーアン。対照的翔子はかなり良い笑顔で笑っていた。これも彼女の人柄の成せるわざなのか、こんな馬鹿話をしている内に、なんだか二人は打ち解けていた。


続く


あとがき
まずプロット中にこんな誤字
○『店員に見つかり追い掛けられる』
×『天陰に見つかり追いかけられる』

意味的にはOKですが、なんだかえらいことになってしまう(汗)
(ウチのPCには星神の名前を辞書登録してます(^^;)
「『てんいん』には違いないけど、こっちからは多分逃げられねぇ」って(笑)
勿論この誤字をだした直後は暫く「笑いの世界」の言う名の別世界へ頭が飛んでましたが(爆)

なんだか、ルー姉様と翔子様が仲良しさんになってしまったぞ!?
自分でもびっくりだよ(笑)
彼女達はこのままホントに仲良しさんになれるでしょうか?

[220] すっかり仲良しさん…
投稿者名: 空理空論 (ホームページ)
投稿日時: 2001年8月6日 01時02分
…なんてタイトルつけると内容がバレてしまいそうですが(爆)
前半部分の太助とルーアンのかけあいが、情緒溢れて好きですが、
後半部分の翔子とルーアンのかけあいも、親近感たっぷりで好きです。
原作ではこういうツーショットはまず見られないでしょうね。
とってもいい味出してる二人が素敵です。
(“嘘”を巧みに使ってる辺りとか、素晴らしいです♪)

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