[49] 授けて慶幸日天! 第二話「陽天心招来!」
投稿者名: 汝昴待遇向上委員会(この名前は一回限りかも・・・(爆)) (ホームページ)
投稿日時: 2001年1月23日 01時48分
「まあいいわ、そのうち見つかるでしょ?」
なんともいい加減だが、彼女の言うことも最もだった。考えても出てこないものは仕方が無い。 ルーアン(以下 ル)「それにしても、貴方、本当に欲が無いわねぇ」 その言葉はややあきれ気味だった。 太助「なあ、ルーアンそれは誉めてるのか? それともけなしてるのか?」 ちょっと意地悪かもしれないが、太助は気になったので本心を言ってみた。 ル 「・・・どっちもよ」 こともなげにさらっと言うルーアン。 太助「・・・・」 返す言葉を失う太助。気を取り直して話題を切り替えようと思ったとき。
ぐぅ〜、ぎゅるるるる〜
地の底から、響く様な音が七梨家のリビングに響いた。
・・・・・今のは俺じゃないぞ・・・太助は心の中でつぶやく・・・ということは・・・ ル 「あらやだ、恥ずかしい」 両手を頬に当てポッと顔を桜色を染めるルーアン。見た目は十分過ぎる位大人の容姿の彼女の子供のような動きとのギャップに太助はなんだか急に可笑(おか)しくなった。 太助「・・・ぷっ、くっくっくっくっく、あっはっはっは!」 とうとう堪えきれなくなり笑い出す太助。 ル 「失礼ね」 桜色の顔でぷぅっと、ふてくされるだけだった。
そんな流れで七梨家の遅め昼食となる訳だが(腹が鳴れば当然か・・・) 太助「なあ、ルーアン何が食べたい?」 太助は久々の一人ぼっちではない食事に少し嬉しかったのだろう。太助の声は心持ち陽気であった。 ル 「うーん。そうね。なるべくならこの時代ならではの食べ物がいいわね」 ルーアンにしてみれば最もな意見だ。 ル 「・・・でも、なるべく早く食べられる物がいいわ」 先程のこともあって、やや控えめにしおらしく発言するルーアン。やはり、太助は先程の事を思い出し。笑い出しそうになる。しかし、ここでまた笑ってしまうのはちょっと可哀想だ。頑張って太助は笑いを堪えた。 太助「・・・・・・」 太助の顔は少し引きつってしまったが、それをごまかすように、立ちあがってくるりと振り返り、ルーアンに背を向けキッチンへと向かう太助。 太助「と、とりあえず、早けりゃいいんだな?」 その声は若干震え気味だった。太助の笑いの波はまだ収まっていないようだった。キッチンでガサゴソと何かを取り出す音がした。暫くすると太助はポットを片手に何かを持って帰ってきた。そして、それは彼女の前に出された。 ル 「なにこれ?」 彼女にしてみれば当然の疑問だった。 太助「この時代ならではものって言ったろ? これぞ20世紀を代表する食べ物の一つ、庶民の味方「カップラーメン」さ。大したもんじゃないけどね」 ル 「カップラーメン?」 太助「そう、カップラーメン。一種の保存食、こうやってお湯を注いで、フタをして、三分待てば食べられるようになる。ただし、ルーアンの口に合うかはわからないよ」 ル 「ふーん。便利な世の中になったわね。私の知っている時代の保存食なんていったら、乾物とか漬物くらいしかなかったわよ」 太助「じゃあ、缶詰も知らないんだな? 今、持ってきてやるよ」 トタトタとキッチンへと戻る太助。そして幾つか缶詰を持って戻ってきた。 太助「はい、これが缶詰」 そういってルーアンに缶詰の一つを差し出す。 ル 「ねえ、たー様、これどうやって食べるの?」 ルーアンは缶詰をじっと眺めてから、叩いてみたり指で突付いて見たりしている。 太助「それを食べるのは、ラーメンを食べてからだ。それ一応デザートだからな。そろそろ三分経ったぞ」 そう言って太助は手馴れた手付きでカップメンのフタを開けた。ルーアンもそれに習ってフタを開ける。そして、両手を合わせて、 太助・ルーアン「「いただきます」」
ズルズルズル・・・ゴクゴクゴク
ル 「ご馳走様」 太助「早っ」 太助はまだ半分も食べていない。 ル 「ねえ、たー様」 太助「何?」 ル 「これ、不思議な味ね。それに何だか少し舌がピリピリするわ」 太助「そうか?」 どうやら、ルーアンは化学調味料を敏感に感じ取ったらしい。 太助「缶詰開ける?」 なんだかルーアンを待たせてしまうのは、ちょっと申し訳ないかなぁ? と思う太助のちょっとした気配りに。 ル 「まだ、いいわよ別に。ゆっくり食べてて、私はこうやって たー様がカップラーメン食べてるのを眺めてるから」 そう言って頬杖とついて太助の食べてる姿を、いとおしそう眺めるルーアン。一方太助は器越しに食べ難いなぁと苦笑いを浮かべていた。
デザートにと準備した果物の缶詰もルーアンがあっさり食べてしまった。太助は結構多めに出したつもりだったが、ルーアンの食欲には驚きを隠せなかった。 ル 「ご馳走様。さて、お腹にもそれなりに入ったし、そろそろ私の特技でも・・・」 ルーアンの「それなり」というセリフに少々突っ込みたくなったが、 太助「え? 特技は早食いじゃなかったのか?」 少し意地悪な言葉が出てしまった。 ル 「失礼ね。ちゃんと精霊としての力はあるわよ。よーく見てなさいよ」 ルーアンは真顔になって立ちあがり、黒天筒を構えた。もともと整った顔立ちのルーアンの真面目な表情は迫力があった。そして、力ある言葉を詠唱する。 ル 「日天に順(したが)う者は存し、日天に逆らう者は亡ばん。意思無き者我力を持って目覚めよ。陽天心召来!」 黒天筒をバトンのように回転させ、美しい舞を舞っているかのように振りかざす。太助は思わず見とれそうになった。
ピカー!
黒天筒から、放たれた光線(?)は中身の半分以上無くなった、太助の湯のみに命中した。太助が湯のみに注目すると、湯のみはカタカタと振動し、太助を一瞬たじろかせる。そして、横線が三本浮き上がり、それぞれが、目と口になる。パチッっと湯のみの目が開く、湯のみとそれを注目していた太助と目が合った。 太助「・・・・・」 湯のみ「・・・・・」ポッッ 湯のみが頬(?)を赤くして、恥ずかしそうに目を逸らした。そしていつの間にか生えた手足を器用に使って立ちあがり。ぴょんとルーアンの肩に飛び乗り、ルーアンに耳打ちする。そして、ルーアンは何やらうんうんと頷き。 太助「・・・・」 ル 「たー様、この子(湯のみ)が、何時も大切に使ってくれてありがとう だって」 太助「そ、それはどうも、こちらこそ」 突然目の前に起きた異常事態のせいか、太助の返答はなんとなく上の空で、間抜けに聞こえた。
ル 「今のが「陽天心招来」意思無き者に命を与える私の得意技よ」 太助「へえー」 ル 「ただね、これが主様の幸せに直接結びついたなんて事は、そうそうないのよね。一応こういう事が出来るって所かしら」 太助「あとは何ができるんだ?」 ルーアンはその言葉を待ってましたと言わんばかり、得意げな表情とポーズで、 ル 「あ・と・は・この美貌と体を駆使して、貴方を幸せに(はーと)」 太助「・・・・・マジ?」 ル 「あら? 私は大真面目よ」 聞き返した太助とそれに即答するルーアン、お互い目が合った。ルーアンの目が真剣だ。どうやら本気らしい。そして、目線を合わせたまま、なんのとなく睨み合いになってしまった。 太助「・・・・」 ル 「・・・・」 何秒続いたのだろう? 不意にルーアンの手が動き、自らの顔をおかしな形に歪める。太助は急激に笑いがこみ上げてきて耐え切れなくなり。 太助「ぶはははは」 と腹を抱えて笑っていた。 ル 「勝利!!」 親指を立てて、勝利宣言をするルーアン(誰に向かってだか・・・)どうやら、彼女はにらめっこのつもりだったらしい。
ひとしきり笑ったあと「片付けでもするか」と、食器を流しで片付ける太助、ルーアンは自分がやると申し出たが、やんわりと太助に断られてしまった。なんだか今日は驚いたり、笑ったり、忙しい日だなと太助は思った。そして不意にこんな言葉が出てしまった。 太助「なんだか今日は久しぶりに、家で思いっきり笑ったような気がする」 太助はしみじみと少し嬉しそうに誰にともなく言ったが、その声にはわずかに哀愁が漂っていた。ルーアンはその声音を聞き逃さなかった。そして彼女は理解した。彼に今なにが必要かを。彼女は突然立ち上がり、太助の後ろから、そっと抱きつく。 太助「ル・ルーアン!?」 彼女は慌てる太助に、優しく囁くきかける。 ル 「じゃあ、貴方がそんな悲しい笑顔を、これからしないように・・・私は貴方の家族になったげる。これからは、この広い家に貴方一人でいる必要はないわ。貴方が迷惑じゃなければ、私は貴方の姉にでも母親代わりにでもなるわ」 と、彼女は言葉を紡ぐと太助をギュッと抱きしめた。 太助「ルーアン・・・・」 太助は一言、彼女の名前を口にするのが精一杯だった。それしか言葉に出来なかった。それを遥かに上回る気持ちの奔流が太助の中に溢れ出してきた。 ル 「・・・・こういう時はね、男の子でも泣いてもいいのよ」 その言葉を引き金に太助の目から涙が溢れ出した。この少年には何年ぶりかの人前での涙だった。
続く
ここまであとがき どうも、今回から『汝昴待遇向上委員会』を名乗る事にしました。 何処の誰だか、バレバレですが(笑) 「授けて 慶幸日天!」の第二話でございます。 今回のネタの出所 ラストが原作1話の後半部分のアレンジです。 私の頭の中の ルー姉さん(ルーアンのこと)は、ああいうことを言います。 「カップメン」は、缶詰がOVAに少し出てきたのでなんとなく缶詰とワンセットで、 「にらめっこ」は、私の友人の間が持たなくなったり、不意に目が合ってしまった時に使う技です。結構使える技だと私は思っています(ただし、相手が異性じゃないと結構辛いかも・・・) コメディ色を期待した方々には本当に申し訳ありません。深くお詫び申し上げます。 なんだか、ルー姉さんは私の中では、相当都合良く美化されているようです。 「これ本当にルーアンか!? 偽者じゃん!」と突っ込まれても私には責任を負い兼ねます(爆) 一応まだ、続く予定です。次は誰が出てくるのだろうか? それとも学校か!? 本当にこの先はまだ未定です。答えられるかは解りませんが、読者の皆様の希望を聞いてみたいなぁと、わがままを言ってみたりします。
ではっ! |
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