248 Reply さずけて 慶幸日天! 第16話 ふぉうりん MAIL URL 2003/02/16 01:08
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さずけて 慶幸日天!
第16話 『…………召来!?』(後編)


 太助はルーアンの不在と、その彼女らしくない置手紙の内容から、妙な胸騒ぎがした。どこへ行くわけでもなく、ほとんどなんとなくなで外に出てみることにした。ドアを開けたそのとき、公園のある方角で何かが光ったような気がした。一瞬まさかと思いったが、結局のところ太助は公園へ向かってみることにした、どうも気持ちと体がバラバラのようで、気が付いたら公園へむけて駆け出した。どうやら太助は、自分が思っている以上に心のどこかで焦っているらしかった。その焦りの正体は太助自身に問いただしても答えは出来そうになかった。



『はじめまして御主人様!』


 その輪っかから現れた少女は、開口一番翔子に向かって元気にそう言った。

「おわっ!?」

 翔子は目の前で起きたあまりに常軌を逸したこの出来事に驚きの声を上げ、思わずしりもちをついた。

「うそ!?」

 ルーアンも自分の予想を遥かに上回るこの出来事に驚きの声を上げることしかできなかった。多分これが翔子でなく太助だったら、彼女はそれなりの動きできたのであろう。この場合翔子は彼女の主ではないので、慶幸日天失格ではないが、太助の友達にして自分の親友である翔子に起きたこの非常事態に対しての初動がとれなかったということとしては、少々問題があるかも知れなかった。これはある意味有事だ。決して平時の事態ではないだろう。ルーアンは即座に行動へ移ることが出来なかったのだ。ある意味これは不意を突かれた形になる。そしてその原因の一端の『その輪を勝手に持ち出す』ということをやってしまった彼女なのだから、やはりこれは彼女の責任である部分が多くを占めることだろう。

「ご主人様、何を驚かれているのですか? まさか刺客が!?」

 出てきて早速これである。この素敵しぎる彼女のアクションに、ルーアンの先ほどまでの苦悩が幾らかはわかろうものだが、それを今の翔子に求めるのは酷なことだ。読者と著者が心の中で労ってやるくらいしかない。本当にご愁傷様である。そして巻き込まれた翔子へも同様かもしれない。(なんか凄いこと言ってますね。私。全国のファンを敵に回すつもりなんて無いんですよ。私も彼女好きですから)
 翔子は『あんたに驚いたんだ!』と大声で言ってやりたかったのだが、それよりも早く反射的に指の方が動いてしまった。それが更に事態をややこしくする、その指先は少女の方を指していたのだが(実際翔子はそのつもりだったのだが)なにを思ったのか彼女は自分のこととは少しも思わず、自分の後ろに何かあると判断し振り返る。そしてその先に居たのは…。

「ルーアンさん!?」

 そう、先ほどその輪を取り落とし、立ち上がってというか、ある意味立ち尽くしていたルーアンがそこには居た。

「まさかルーアンさん。また私の御主人様のお命を狙って・・・?!」

「ちょ、ちょっと? シャオリン。」

「ご主人様、私が来たからにはもう安心です。この命に代えても貴方の御身をお守りいたします!」

「おい、ちょっとあんた。」

 ルーアンにシャオリンと呼ばれた少女の耳には、彼女達の言葉は届かなかった。それどころか既に戦闘モードに切り替わっているようだった。彼女はその可愛らしい顔でそんなことするのは勿体無いくらいの鋭い眼光でルーアンを睨みつけ、己が出てきた輪を構えてた。翔子に彼女が背中を向けている為、ちゃんと見ることができなかったが、背中越しにその気迫というか鬼気迫るものは感じていた。


『天明らかにして星来たれ・・・来々『車騎』!!』
 

 シャオリンは構えた八角形の輪から、ふたりの小人が乗った戦車のような物を呼び出した。

「車騎、ルーアンさんを大人しくさせて!」

『アイアイサー!』(この辺りはTV版の影響である)

「ちょっと待ちなさいよ、シャオリン!」

 車騎はルーアンに照準を合わせ問答無用で彼女に向かって発砲する。

 ズドン!

「ちょっと! 危ないじゃないのよ! 当たったらどうすんよ!」

 ルーアンこれを紙一重え避け、大声で非難の声を挙げるが、当のシャオリンはしれっと答える。

「当てるつもりで撃ったんです! おとなしく当たってください!」

 とんでもなく物騒なことを言う。どうやら彼女の目的はまずはルーアンに一撃与えて戦意喪失させるつもりらしい。目標とされたルーアン自身に戦意は・・・無いこともないか。少なくともシャオリンの暴走とも言えるのこ行動をどうにかしようとはしていた。

「なにを無茶苦茶なことを…。仕方が無いわね。降りかかる火の粉は払うのみ。言って聞かないのなら、こっちも力ずくしかないじゃないのよ!」

 そう言ってルーアンは黒天筒を構え、臨戦体制をとった。

 あーあ、言っちゃった。詰まりは宣戦布告、もとい、戦闘に応じると宣言してしまったのである。もしかしたらもう少し友好的で穏便な解決方法もあったかも知れなかったが、この一言で全ては白紙である。いや、ある意味白紙よりも状況が悪くなり、結局シャオリン対ルーアンの構図が出来上がってしまった。彼女の言う通り『降りかかる火の粉は払う』自体はまったくもって正しいのだが、この場合この後に起きたある事柄により、ルーアンはこの言葉が自分の今回の事態での最大の失言であると後々深く反省することになる。

「それにしても早速物騒な星神を出してきたわねぇ。あんたとの付き合いも長いんだから、そいつの能力も弱点もわかってるんだからね。」

『日天に従うものは存し、日天に逆らうものは亡ばん。意思無きもの我が力を持って目覚めよ。陽天心召来!』

 ピカー!

 ルーアンの陽天心召来の光が車騎の足とも、つまり地面にかかる。車騎が2発目を発砲しようとした、まさにそのときであった。陽天心の掛かった地面が揺らぎ、車騎の狙いは定まらない、しかし一度発砲しようとしたものはそう簡単には止められなかった。

 ズドン!

 車騎の放った砲弾は、ルーアンの居るほうとは全然違う、あさっての方向へ飛んで行った。つまりは暴発の一種である。しかし、なんと間の悪いことか、それとも彼にはその手の運命は悪く回るように出来ているのか、車騎の暴発した砲弾の射線上には、丁度ルーアンを探し通りから出てきた太助の姿があった。

「あっ、ルーアン。」

 ルーアンの姿を見つけた太助は、手を振って彼女を呼ぼうとしたのだが、

 どっかん!!

 車騎の放った砲撃に巻き込まれ、太助は風に吹かれた木の葉のように吹き飛ばされた。合掌。

「うわぁー!!」

「たー様!」

「七梨!」

「まぁ、大変!」

 それぞれの叫びと悲鳴が公園に響く。最早戦闘どころの騒ぎではない。ルーアンはシャオリンのことなど捨て置き、太助に向かって駆け寄ろうとする。

「ルーアンさんなんてことをしてくれたんですか!? 関係ない人をまきこんじゃったじゃないですか!」

 シャオリンがルーアンを非難するが、あなたも十分無茶苦茶やっているでしょうに・・・、当然ルーアンはそんなシャオリンの言葉なんてまったく耳に入っていない。

 シャオリンの脇をなにやら叫びながら、血相変えた翔子が駆け抜けて行った。このときになってようやく彼女は、自分が何をやってしまったのか理解に至った。

「あのっ! 大丈夫ですか!?」

 彼女達が駆け寄り助け起こそうとした時、彼はものの見事に気絶していた。直接の原因になったシャオリンを物凄い形相でルーアンと翔子が睨みつけた。滅茶苦茶怖かった。というか守護月天なのに自らの生命の危機を感じた。シャオリンは真っ青な顔をしながら、いちもにもなく何度も彼女達に頭を下げた。





 ここは七梨家リビング。部屋までソファに寝かされる太助。長沙と呼ばれる小人、もといシャオリンが支天輪より呼び出した星神に看病されていた。もともとシャオリンに主因があったのだからと彼女がどうしてもと志願した。ルーアンと翔子も、彼女が猛烈に反省しているのはわかったし、ルーアンは素人なんかが看病するよりも、数段便りになる星神の存在も知っていたので、彼女に任せることにした。なんだかんだ言ってもシャオリンも基本的に良いひとなのである。しかし、その様子を客観的に見るとえらく間抜けな状況にも見えた。実際の手当て、看病は『星神 長沙』の仕事である。その小さな体に似合わないほど迅速で手際が良く、動きに一切の無駄が無かった。そんな長沙の仕事振りに下手に素人が手を出そうものなら、逆に足手まといになりかねない。ルーアンと翔子はシャオリンとその星神に太助の看病は任せたので、太助が意識を取り戻したときに、お茶か水でも呑んでもらおうかと、簡単な準備をしていたのだが、その間シャオリンは心配して長沙の看病を見守っているだけである。意地悪な見方をすれば、なんだかひとりだけ仕事してないようにも見ることが出来た。 ルーアンも翔子も太助が心配なのは同じなんだからさ。

 長沙の働きのかいあって、かどうにか太助は意識を取り戻した。

「あれ? ここは? どうして俺は・・・。」

「ごめんなさい。本当にごめんなさい。」

 太助が状況把握の間もへったくれもなく、いきなり何度も何度も頭を下げるシャオリン。

「太助さんごめんなさい。本当にごめんなさい。私が勘違いしてしまったばっかりに…。翔子様の大切なお友達を傷つけてしまいました。私、守護月天失格です。」

 まくし立てるように泣きそうな顔をしながら謝りつづける彼女。太助としてはどうしたものかと困ってしまった。ルーアンとしては、事の流れを太助に説明すべきだったのだが、困った太助が少しはなのした伸ばしたようなちょっとだらしのない顔をしたのでカチン来た。カチンと来たついでに、思わずシャオリンいじめるような言葉が出てしまった。しかし、最終的に余計に太助を良くも悪くも困らせることになってしまったので、結局彼女の自爆である。

「そーよ。そーよ。あんたが早とちりしなければ。たー様は怪我しないで済んだんだからね!」

 しゅーんといじけて、

「すみません・・・。」

 と、これ以上無いほど気落ちして、俯きながら今にも消え入りそうな声で謝るシャオリン。ルーアンってば、本当はシャオリンにちょっとやきもちやいて、意地悪な言葉が出ちゃったんだけど。流石に翔子もそれに追い討ちをかける気にもならず、フォローの言葉が出た。もっとも、先に翔子がシャオリンを非難していたら、ルーアンが彼女のフォローに回っていたに違いない。

「ほらほらルーアン。この子だって悪気があってやったんじゃないんだしさ。」

「当然よ! 悪気があってやったんだったら、なおのこと赦さないわよ!!」

 ルーアンの言葉はもっともである。結局その怒声を引き金にとうとうシャオリンはしゃくりあげて泣き出してしまった。

「うぅ・・・本当にごめんなさいぃ・・・ひっく・・・。」

 目の前で訳も判らずいきなり自分に向かって謝りだした見知らぬ超絶に可愛い美少女がルーアンに責められて泣き出してしまった。理由はどうあれ、太助としては、見てられない光景で、正直出来れば泣き止んで欲しかった、詳しい状況はさっぱりだが、恐らく自分が気を失ったの原因であろうことは十分すぎるほどわかっていたのだから。

「あっ、ほら、泣かないでさ。ね? あっ、そうだ。これで涙を拭いてさ。」

 太助はポケットからハンカチを出して、その子の頬にあてがおうとした。えぐえぐと泣いていたシャオリンは目の前に突然差し出されたハンカチに目をパチパクリさせ、おっかなびっくりな感じで上目使いに太助の顔を伺い見る。なんか殆ど反則的行為である(笑)

「・・・。」

「・・・。」

(なんか滅茶苦茶可愛いんですけど、この子)

 太助がシャオリンを、シャオリンが太助を、お互いがお互いを見詰め合う。少なくとも本人達にその気がなくても周りからはそう見えてしまうのだから仕方が無い。ルーアンと翔子にしてみれば『なんなんでしょう? この間は』である。

(嗚呼、なんて心の優しい方なんでしょう・・・)

 とシャオリンは無言の間、太助の言葉に胸を打たれ感動していた。

 で、結局のところ泣いていて昂ぶった気持ちにそんなことをされてしまってますます抑えがきかなくなって、太助の胸に頭を預けてワンワンと声を上げて泣き出してしう始末だった。太助としては胸中

(なんかおいしいなぁ)

 と顔を赤らめるが、そんな状況は当然ルーアンと翔子には面白い訳はなく、ルーアンが物凄い形相で睨んでいたので太助は正気に戻り(別にシャオリンに酔ってた訳でない・・・と信じたい)背中にまで回そうとしていた手を止めたというか止めざるを得なかった。そのときの太助の判断は正しかったと言えよう。
 ルーアンが怖くてシャオリンには『すいません。怖いお姉さんがこっち睨んでます。お願いですから、早く泣き止んでください。』な状態で太助はルーアンという名の針のむしろに座らされている気分だった。もちろん錘(おもり)はシャオリンである。なんか幸せな錘だな。そんな気持ち良いんだか怖いだかどっちもどっちな状況なので太助は翔子の方には気が回らなかったのだが、翔子は翔子で微妙に複雑そうな顔していたのだが、なんとなく体ごと太助達から顔を逸らていたので太助にその表情を見られることは無かった。どっちにしてもそっち見てる余裕は太助自身にはなかったのだが。


 シャオリンが泣き止むのを待ち、太助にとっては至福と恐怖がブレンドされた奇妙で不思議な時間は過ぎ去り、翔子は前もって準備していたお茶を人数分いれ、今日のことの流れをルーアンが中心となって話し始めた。そのときのお茶菓子は、翔子が買ってきたものを開けていた。

 太助の父、太郎助から届いた包みを出し、その包みが破けて支天輪が飛び出したこと、思わずその先を杞憂に思い持ち出してしまったこと、その辺りの気持ちは微妙に伏せながらを謝罪した。そして公園のこと、ルーアンは事の起きた順番の通りに太助達に説明した。なので翔子のことを『御主人様』としているシャオリンの扱いについてどうしようかということになった。

「そっか、この子が出てきた『支天輪』って七梨の親父さんが送ってきたのか・・・。」

「そういうこと、で、どうするの? たー様。」

「え? どうするって言ったって、山野辺を主にしてるんだろ? だったら無理にウチに居てもらう必要ないんじゃないか?」

「つまり『支天輪』を翔子ちゃんにあげちゃってもいいってとよね?」

 太助はルーアンの言葉に頷いた。

「翔子ちゃんもそれでいい?」

 それは翔子も同意を持って頷いた。

「で、翔子ちゃんの家は大丈夫なの?」

「ああ、多分、ちゃんと事情を説明してやれば、平気だと思うよ。多分ウチの両親がこの子のことを知るのは大分先になりそうだけどね。」

 その言葉にはここには居ない彼女の両親への嫌味と皮肉がたっぷり入っていた。どうやら翔子の家も両親不在が多いらしい。これでシャオリンの身請け先(書き方悪いなぁ)が決まった。

「じゃあ、私は翔子様のお屋敷に住まわせていただけるのですね?」

 シャオリンにしてみれば、主の住まうところは『お屋敷』と称するのだが、事実山野辺家は『お屋敷』と呼ぶにふさわしいものだったので、ここでの彼女の素のボケは誰にも気づかれることなく流された。

「そういうこと。よろしくなシャオリン。」

「ええ、こちらこそ。翔子様。」

 二人は握手を交わした。

「これで一応は片は付いたわね。」

 さて、これでようやく一安心である。

「じゃ、シャオリン、たー様達に自己紹介でもしちゃえば?」

「そうですね。」

 シャオリンはソファから立ち上がるり。みんなに向かって自己紹介をはじめた。

『みなさん。改めまして、自己紹介させてもらいます。私は守護月天シャオリンと申します。』

「守護月天とは、天に浮かぶ月のように、主から離れることなく守りつづける者という意味です。名前はシャオリンと言います。シャオとお呼びください。」

「この子結構凄いのよ。一応あたしの『黒天筒』とこの子の『支天輪』ってさ、対になってる訳。太陽と月でしょ。だからこの子の『守護月天』の肩書きにも結構伝説とか言い伝えとかあって『支天輪を覗けるし者、あらゆる災難をはねのける『守護月天』の守りを授かるであろう』ってのがあるくらいだからね。」

「「へぇ。」」

 太助と翔子は感心の声をあげ、シャオは少し戸惑いながらも照れていた。多分こうやって誉められる機会が少ないのであろう。

「なにが出来るかは、見ての通りよ。」

「はい。この『支天輪』から星神を呼び出して、御主人様をお守り致します。」

「守るどころか、勘違いしてあたしの友達のルーアンに攻撃した挙句に七梨まで打っちまったけどな。」

「翔子様〜。」

 またまた泣きそうである。翔子としては、このくらいの軽い(?)嫌味の一つでも言っても、多分罰はあたらないだろう。結局その場で助けてくれそうなのは太助くらいしか居ないので、シャオは太助に助けを求めるように涙目で向き直る。当の太助も車騎に打たれて痛かったし、下手に庇おうものならもっと怖いことになりそうだので(その判断は正しいです)庇うに庇えず困っていた。

「ところでさ、シャオ。その『翔子様』っていうのなんとかならない?」

 あんまりいじめてもかわいそうだったので話題を変えることにした。

「え? でも、御主人様は翔子様ですし、翔子様は翔子様ですよ。」

 言っていることは分らなくも無いが、ちょっと無茶苦茶である。

「なんかさ『様付け』で呼ばれるのってちょっと恥ずかしいんだよね。・・・誰かさんと違って・・・。」

 そういっては翔子は太助をちらりと見る。

「・・・。あれはルーアンが言っても聞かなかったからか…。」

 太助は渋々言い訳をしたが、そんなものには誰も耳を傾けず話は進む(かわいそうに・・・)

 シャオはほんの数秒、俯き加減で考え込むような仕草をし眉をハの字に寄せて頭を捻っていた。

「・・・じゃあ『翔子さん』とお呼びしても宜しいですか?」

 恐る恐るだったが彼女の出した結論だった。

「うん。いいよ。それで、別に呼び捨てでもあたしは構わないんだけどね。」

 翔子は即答するようにそんなことを言ったら、シャオは『とんでもない!』とか『恐れ多い』とか何度も言って仕切り首を横に振っていた。

「それにさ、別に守ってもわらないといけないような物騒な世の中じゃないからね。あたしとしてはどっちでも良いんだ。あんたの好きにしなよ。」

「翔子さん? それはどういうことでしょう?」

「言葉とおりの意味なんだけどなぁ。」

 またまたシャオは頭を悩ませていた。どうやら、今の時代はこれまで主に仕えていた時代と相当勝手が違うらしい。ルーアンは彼女の性格のせいもあって割とすんなり納得したが、シャオはルーアンに比べると、良く言うと真面目で、悪くいうと堅物者なのだろう。

「まっ、先のことはあたしんちでゆっくり考えなよ。多分ここには、それが出来るだけの『時間』と『自由』があるだろうからさ。」

 翔子は決してシャオのこれまでの経歴を知っていてこんな言葉を出したのではなく、あんまり思いつめているように見えた少女の肩の荷を少しでも軽くしてやろうと思ってあまり考えずに口にした言葉だった。もちろんそれもシャオにいままで掛けられたことのない言葉だった。彼女は当惑し、上手く言い表せない気持ちでいっぱいになった。それでも黙っているわけにもいかないので、短く「・・・はい。」と返事をした。

 次に、太助や翔子がシャオに自己紹介を行った。

「あたしは山野辺翔子。って名前は会ったときに言ったよな。まぁ、あとは見ての通りだ。これから一緒に暮らすんだから、追い追いあたしのことはわかるだろ? 今いちいち全部説明するのは面倒だからその都度聞いてくれ。」

「はい。」

「んじゃ、次、七梨。」

「なんだ? 随分いい加減な自己紹介だな。」

「別にいいだろ、短くて『時は金なり』ってね。」

 この場合短いことが何の得に繋がるかは謎だったのだが、

「まぁ、いいや。俺の名前は七梨太助。一応ルーアンの主ってことになってる。この家は今ルーアンと俺の二人で住んでて、他の家族は旅行とかで世界中飛びまわってる。よろしくな。」

「七梨太助さんですね? 『太助さん』で宜しいですか?」

「ん? 別にいいけど。」

「じゃあ、次は私ね。自己紹介じゃなくて、現状(いま)の説明みたいなもんだけど。聞いての通り、私の主様はたー様。それで翔子ちゃんは私の友達であり、たー様のお友達。わかった?」

「はい。」

「そんでもって、シャオリンとあたしは千と六百五十二年来の付き合い、とどのつまりは腐れ縁って訳ね。」

 ここではあえて『今まで敵同士が殆どだった』ということは伏せておいた。余計な事を言って余計な心配を太助達にさせることもなかったし、あとでゆっくり話しても問題は無いと判断したからだ。

「じゃ、最後に、面白いからたー様のお父様のお手紙をみんなで読みましょう♪」

 ルーアンが太郎助のある意味達筆な手紙を読み上げる。太助はある意味さらし者(笑)

『ニーハオ!! 太助。 また骨董屋で『支天輪』とかいう凄そうな物を見つけたので送る。』

 雰囲気と芝居っ気たっぷりでルーアンはここまでを読んだ。そう、そこまではまだ良かった。

『この『支天輪』なんでも以前送った『黒天筒』と同様に『心の清い者』が覗けば何かがみえるらしい・・・。』

 ルーアンはわざとらしく、そこで一端手紙を読むのを止めた。

「は!?」

「なに!!?」

 声は違えど、太助と翔子は同時に驚きの声をあげた。それもそのはず『心の清い者』にしか『守護月天』は呼び出せないのだ。

「ちょっとまてよ。それってなにかの間違いじゃないのか?」

 当の翔子がそんな様子である。

「オイオイ。マジかよ?」

 太助君それはちょっと失礼だってばさ。

「??」

 シャオが状況が飲み込めずしきりに可愛く首をかしげている。

「「あたし(山野辺)って心清かったんだな。」」

 とふたり声を合わせて言った。

「シャオが出てきたことよりも、そっちの方が今日一番の驚きだよな。」

「うんうん。」

 同意する太助。そこを突っ込まないのも翔子らしいのだが。

「俺に山野辺かぁ・・・。なぁ、ルーアン『心の清さ』の基準って一体なんなんだ?」

「さぁ? 私は呼ばれれば出てくるだけだしね。シャオリンあんた分かる?」

「すいません。私にもちょっと・・・。」

 当の精霊達もこのありさまである。もはや『心の清さ』の基準なんて誰も分かったものじゃなかった。最早結果論である。

「でも、翔子さんも太助さんも心のお優しい方だってことは判りますよ。」

 なんてことをシャオ独特のおっとりした声で、にっこりと満面の笑顔で言われてしまったので、ふたりは顔を真っ赤にして照れてしまった。恐るべきはシャオの笑顔と言葉の破壊力(笑)

 

 結局結構良い時間になっていたので(とっくの昔に日は落ちていた)翔子達は七梨家で夕食にすることにした。(太郎助の手紙は結局あのあと放置である。哀れ)なんと発案者はルーアンである。しかも本人はあまり作る気は無いらしい。というかシャオが「今日の埋め合わせに私のお夕飯を作らせてください!」と言ったのである。これが最初から狙いだったようだ。決して自分がシャオの料理にありつきたいだけという訳ではなく、シャオに名誉挽回の機会を設ける為でもあった。ついでに言うとルーアンの考えをそこまで汲み取った者は残念ながらその場には居なかった。中学生の彼等のそこまで求めるのは酷だろうし、シャオにしたってたまたま降って沸いてきた機会程度に感謝こそすれど、ルーアンが最初からそこまで考えていたとは思いもよらなかった。そのあたりを自ら誇らないのもルーアンの『大人』たる所以なのだが。結局、著者と読者の皆様で彼女へ拍手を送ってやるくらいしかないだろう。

 シャオの作った中華料理は本格的で、その見た目もさることながら、味も絶品だった。キッチンの材料はたかが知れていたので、太助としては一体どうやってここまでのものをあり合せで作ったのか謎でしょうがなかった。シャオの料理に太助達は舌鼓を打った。

「ルーアンがシャオみたいに料理が上手かったらなぁ。」

 大暴言だった。言った太助自身も本人も口にした直後に『不味い』と思ったようだったがそれはもう手遅れだった。

 からん。からん

 テーブルの上をに箸が転がる乾いた音がキッチンに響いた。勿論音の発信源はルーアンの箸である。しかしながら一端口にしてしまったものはそう簡単に取り消せない。ルーアンはショックを受けて数秒固まった後、とても悲しそうな顔をして俯き加減で太助達から顔をそらした。半分本気で半分冗談。太助と翔子はそれはわかっているのだが、太助としては、自らが撒いた種なので、刈り取らねばならない。まさに自業自得である。なので慰めない訳にはいかない。

「な、料理なんて上手くなくっても、ルーアンが居ればいいんだからさ。」

 泥沼である。というか太助君。君、言葉を間違えてるよ。

「どうせ。どうせ。ルーアンなんて、ただの大飯食らいの居候ですよぉだ。」

 ますます彼女の御機嫌急降下。結局この後、彼女の機嫌を取るのに太助は一苦労なのだが、完全に第三者の翔子は彼等を指差して腹を抱えて笑っていた。シャオは自分は全然悪くないのに「自分のせいかな?」と困った顔をしてその様子を心配そうに眺めつつ、

「あの? 私のせいでしょうか?」

 と翔子に尋ねてみたりしていた。

「いいって、いいって。別にシャオが心配するようなことじゃないしさ。それに、あいつら結構楽しんでやってるから、放っておきなって。」

「はぁ。」

 とシャオはいまいち判っているのかいないのか、生返事を翔子に返した。


 とまぁ、なかなか愉快で楽しい夕食を彼等は過ごしたのだった。


 そして帰り道。太助とルーアンは玄関まで翔子達を見送って、もとい『女の子の夜道は危ないから』と、山野辺家前まで談笑しながら4人で歩いていった。シャオが『夜道が危険でしたら』と星神を呼ぼうとしていたのだが、ルーアンが「こういうのも大切なのよ。たー様達にも、そして、貴方にも私にもね♪」とウィンクしてこっそりと太助達に気が付かれないようにその手を止めさせたのは隠れた敢闘賞だろう。


 翔子達を送った帰り道。

「ねぇ、たー様。」

「なに?」

「シャオリンって、見ての通りの子でね。色んな意味でとっても強烈な子だから気をつけてね。」

 何をどう気をつけるのかはさっぱりだが、ルーアンの言うと通り色んな意味で強烈なだったのは確かだった。太助本人も今日は一発貰ってるわけだし(一発どころか二、三発貰ってるという噂もあるが)ある意味危険を匂わせるほどの攻撃力だった。

「ああ。」

 と返事をするが、自分にどうせよとルーアンが言っているかは太助には窺い知れなかった。

『明日から大変よ。頑張りましょう。』

 とルーアンが言っていたがやっぱりこれも今の太助には理解できなかった。そしてその言葉の真の意味を知ることになるのは明日の話である。
 

続く

さずけて 慶幸日天! 第16話
『守護月天召来!?』おしまい




あとがき
どうも、ふぉうりん です。まだ誤字脱字の修正入れてません(爆)ほんと書きたてほやほやです。何とかシャオリンさんがこの『さずけて 慶幸日天!』の世界に無事登場することができました。ルーアンさん、太助君、翔子様、シャオリンさんお疲れ様、ついでに自分にご苦労さんって感じです(^^)
 流れ的には初期のプロットそのまんま、細かい部分の演出にいくらかボリュームがあるせいで長めのお話になってしまいました。まったくもって、私の執筆はその時期読んでたもんの影響を思いっきり受けているので、前の15話と雰囲気が全然違うような気がしてます。多分良くなっている・・・と個人としては信じたいです(笑)
 この後のお話は、暫くは『さずけて 慶幸日天!』なのに、とても『守護月天』的な流れかも知れません(笑)というか、この先数話はシャオと翔子様が中心で・・・もとい、彼女達ふたりが大暴れして話が進んでいくような気がします(確信犯)ゆくゆくはそこに出雲お兄さんが絡んで・・・ってちょっとまて、出雲お兄さん、このまんまルーアン狙いでいいのか? こまったなぁ。先が楽しみなことには読者様も私にも違いありませんな。とはいえ、最近の私の身辺状況だと、毎月は無理ですな。てなわけで過剰な期待はしないで、忘れられない程度のサイクルで次回の話をお送りしたいと思います。

ではではこれにて

2003年2月15日 ふぉうりん
(ここでバレンタインの話はどうした? って突っ込みはご勘弁を(苦笑))
250 Reply 当たってください! 空理空論 MAIL URL 2003/02/18 02:50
7b68ee
最初に、思わず笑ってしまった箇所はここです(笑)
シャオリンさん危険人物まっしぐらに見えて仕方が無いんですが…気のせい?
でもって、説明書き(いやさ、情景文?)に第三者ならず第四者もいるような。
…うーん、のっけから飛ばしてるって印象バリバリです。
それだけ筆がノったってことでしょうかね(笑)

早くも“守護月天失格”とかって言葉も飛び出してるし(まあまあシャオリンさん、ちょい待ってよ)
哀れにも太助君は一撃くらうし(意識があったら、“ああ、俺ってやっぱり不幸…”
とかって言葉が…飛び出してたのかも?なんて)

結局は丸く仲良く、そして微妙な関係もちらほらと見え始め、
なーんて先が楽しみなんざましょ(誰だよ)という印象ですが…
やっぱりシャオが出てくるとルーアンさんの影がゆらいじゃいますね(正味の話)
仕方ないとは思うんですけどね。やっぱりシャオは存在感強いから。

それにしても…翔子様、ではなくなってしまったのですねぇ。
堂々と存分に表記し続けるのかなとか思ってたんですが(爆)

次回も楽しみにしてます。
262 Reply ルーアンはこれから大丈夫だろうか Foolis MAIL 2003/02/26 05:53
cc9999
いや、大丈夫じゃないと困るんですけど。(苦笑)
シャオがついに出てきてしまいましたね。太助も結構気に入っているみたいだし。
これから先、ルーアンがちゃんと出番があることを祈ります。
でも、よく考えれば、今の原作の状態より、色恋沙汰に関しては話が進めやすいですよね。翔子の近くにいつもシャオがいるわけだし。

これからの展開が楽しみです。

では

PS
ところどころにルーアンの魅力について書いてあるのがいいと思いました。
267 Reply 遅れてきたヒロイン よしむら MAIL 2003/03/03 11:04
ff6666
ついに出ましたか。
やっぱりシャオの存在感は強烈ですな。
前の二人も書いてますがルーアンの出番が減らない事を祈ります(笑)
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