202 Reply さずけて 慶幸日天! 第15話 ふぉうりん MAIL URL 2002/10/23 11:54
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「あら? なにか届いてるわね?」

 ルーアンはポストからおもむろにそれをとりだした。

「たー様宛てね。差出人は…『七梨太郎助』っと、あら? たー様のお父様からだわ。」

 ルーアンは無意識のうちに送り先を目で追っていた。

「これ、中国からじゃないの? お父様ったら、まだ中国にいらしたのね。」

 ルーアンは自分自身『中国』という単語を口にして、ふと思った。自分の『黒天筒』も中国から太郎助の手によって、ここ七梨家に送られてきたのである。一度あることが二度あったってそれほど驚くようなことではない。まさか思いルーアンは中身を確かめてみたい衝動に駆られたが、さすがに太助宛に太郎助から届いた物をおいそれと開ける訳にはいかなかった。

「中身は気になるけど、たー様が帰ってきてからにしましょ。」

 ルーアンは、中身が気になる自分自身の気持ちを言い聞かせて抑える為、わざと口に出してそういった。とはいうものの『我慢しよう』と思えば思うほど中身が気になる。それは人の性というものだが、人ならざる彼女にも当てはまることだった。

 玄関の扉を開けようとドアノブをにぎり再び荷物に目をやる。ばかばかしいことだが、中身が透けて見えないものか? と思わず高く掲げて日に透かしてみる。

「なんか、ばかばかしいと思っても気になっちゃうのよね。」

 形だけはうっすらと影になって浮かび上がった。

「!!!」

 その形、そして自分自身の左手が感じている質量感、ルーアンには非常に心当たりがあった。『まさか…そんな馬鹿な…』と、ルーアンは荷物を持った左手を日に向かって掲げたまま硬直した。しかし、すぐに『そうそうこんなことはあるはずが無い』と沸き上がった懸念を打ち消した。

「そうそう。あれがそうそう簡単にここに届いてたまるもんですか、ルーアンたら心配性なんだから♪」

 懸念ごとを振り払うかのように、務めて明るくおどけてみた。荷物はリビングにでも置いて太助が帰ってくるのでも待とうかと玄関で履物を脱ぎ、改めて荷物に目をやる。

「あら、この包み端っこが少し破けてるわね。」

 ルーアンも持ち方が悪かったのか、包みの端が少し破けていた。そしてそこから荷物の中身がその姿を僅かに覗かせていた。

「!!!!」

 彼女は先程の嫌な予感が的中していたこと実感した。そのまま呆然としていると、破けた包みがその中身の重さに耐え切れず、びりびりと破け、それが床に転がった。

 キン! カラカラカラカラカラ……

 正体不明の金属で出来たそれは、金属特有の高い音を立てて廊下を転がった。




「ただいまぁ。」

 太助は学校から帰宅した。玄関に鍵が掛かっていたので、ルーアンは外出中だということはわかった。太助は学生服から私服に着替え、リビングに入るとテーブルの上にルーアンの書いた、書きおきがあるのを見つけた。


『ちょっと野暮用が出来たので出かけます。ルーアン』


 行き先が書いてなかった、ルーアンのことだから、商店街か山野辺のところか、なにかの気まぐれで宮内神社に行くくらいしか、太助には行き先が思い浮かばなかった。どうせ心配はする必要は無いのだからあまり深くは考えなかった。『どうせだったら、帰りに夕飯の買い物でもしてくきてくれればいいのに。』などと都合の良いことを思いつつも、テレビをつけ、ろくに見る番組がやっていないことを確認すると、とっとと家の仕事でもかたずけようと太助は掃除機を取りにリビングを出た。




 翔子はひとりでぶらぶらしていた。学校帰りに足の向くまま気の向くままに商店街に寄り、気に入ったアーティストの新譜でも出ていないかと、久々にCD屋に足を運んだ。思いもよらない収穫を得て、ご機嫌でCD屋を後にし、少し小腹が空いたので、適当に買い食いでもすること適当にうろつき、よさそうなものを見つけたが、友達連れで楽しそうにおしゃべりしながら、食べている同年代の子達を見てしまうと、一人で食べるのはなんだか少し寂しいような気がする。こんなときにふと頭をよぎるのは、いつも明るく元気な『太陽の精霊たる彼女』とそんな彼女に苦笑しながら振り回されながらも楽しそうにしている『クラスメート』の顔だった。

「……。」

「いらっしゃいませ。お客様、今日は当店でお召し上がりでしょうか? それともお持ち帰りでしょうか?」

 店の店員がスマイルで翔子の注文を伺った。

「…えっと、持ち帰りで。」

「お持ち帰りですね? テイクアウトでオーダー入ります!」

 店員は、てきぱきと慣れた手つきで翔子の注文を取った。

(きっと、ひとりで食べるよりも、あいつらと一緒に食べた方が楽しいよな?)




「お待たせ致しました。暖かいうちにお召し上がりください。またのお越しをお待ちしております!」

 翔子は商品を受け取ると、冷めないうちにと少し急ぎ足で店を後にした。





 彼女は公園のベンチの腰をかけてた。

「はぁ〜。」

 普段の彼女からは程遠い深いため息をついていた。

「どうしようかしら? これ。」

 包みから飛び出したそれをおもわず家から持ち出してきてしまった。良くないことだとは判っていても、この先どうなるかなんとなく判っている事態をどうにか好転させようと頭を捻っていた。

「あの子のことは嫌いじゃないのよ。嫌いじゃないけど、あの家に来るってことになると、ちょっとねぇ。」

 言い訳がましいことを口して、また深いため息をついた。

「あぁ、きっとややこしいことになるわ。でもこれをたー様に渡さないの訳にもいかないし、どうしようかしら? いっそのことそこら辺にでも埋めてきちゃおうかしら?」

 思わず自分の都合でよからぬ考えを連発するルーアン。

「まったく、よりによってどうしてこんなものがウチに届くのかしら?」

 彼女はそれを軽く掲げて覗き込んだ。 

「やっぱり私が覗き込んでもただのガラクタよね。」

(ガラクタなんて酷いです!)

 などと聞き慣れた声の幻聴が頭をかすめたような気がした。

「出てきてもないのに、声が聞こえるなんて末期症状ね私も。」

 彼女はまた苦笑し、今日で何度目なるか判らないため息をついた。




「あれ? あれってルーアンじゃないか?」

 公園を通りかかった翔子は、遠目でも一目でわかる特徴的な髪型と美しい赤い髪を持つルーアンの姿を見つけた。

「あんなところでなにやってるんだろ?」

 もともと七梨家にお茶菓子持参で遊びに行こうと思っていたので、丁度良いと彼女のところに近寄っていった。

 翔子はルーアンにそばまで歩いていくと、いつまでもうつむき加減でいるルーアンの姿に、なんだか様子がいつも違うように感じた。

「おーい。ルーアン!」

 いつもより少し大きめの声で彼女に声をかける。翔子の接近に全く気がつかなかったルーアンはその声に驚いて、思わず手にしていたそれを取り落とした。

 カラン、カラカラカラカラ……

 
 それは翔子の靴先にぶつかり、表を思われる模様が彫ってある面を上に向けて転がるのをやめた。

「なにこれ?」

 翔子がルーアンが取り落とした『輪』を拾おうと膝を折って身を屈める。普通、人は物を拾う時はその対象物を見る、勿論翔子も例外ではなかった。

「ん? なんだこれ? 輪っか?」

 拾い上げるついでに思わず覗き込んでしまう翔子。

「翔子ちゃん。それは!」

「輪っかのなのに、向こうが見えないよ。これ?」

「!?」

 ルーアンは翔子の言葉に声を失い愕然とした。翔子はそのとき初めてルーアンここまで取り乱した顔を見た。


 カッ!


 翔子の手にして輪から光が放たれる!


「うわっ!」

 翔子はまぶしさのあまり思わず輪を落とす。昼間なので、それほど目立たないがこれが夜であったら、空に向かって光の柱が伸びていたであろう程の光だった。

 光の中から人の形を成した何かが現れてこう言った。


『はじめまして御主人様!』


「おわっ!?」

 翔子は目の前で起きたあまりの出来事に驚きの声を上げることしか出来なかった。

「うそ!?」

 ルーアンも自分の予想を遥かに凌駕する出来事に思わず驚愕の声を上げることしかできなかった。



さずけて 慶幸日天! 第15話
『…………召来!?』(前編)


つづく




あとがき
どうも、ふぉうりん です。とうとうこの物語で、おそらく最大と思われるイベントの一つがやって参りました。めちゃめちゃ何が起きたかは読者の皆様にはバレバレですが(苦笑)
この先一体どうなることなんでしょう? 個人的にはまたも設定を捻じ曲げて遊びまくりなのですが(今回は非常に楽しくかけました(^^)
上手く収まるといいですね(他人事)
あとは彼ら次第ということで、頑張れ頑張れ

と、いんちきなあとがきで幕を閉じます


2002年10月23日 ふぉうりん
204 Reply ついに… グE 2002/10/23 15:11
cc9999
ついにというかやはりというかあの方が登場してしまいましたね。
これからの展開が非常に楽しみです。
というか、太助とルーアンたちが合流したときの話がすでに楽しみだったりします。
ルーアンにもやはり負い目があるだろうし、太助は太助なりにいろいろ考えるだろうし。
ここから先の展開の楽しみには負けますが。(笑)

ところで、第3話の感想で双剣士さんが書かれたような展開には
なりません・・・よね?(笑)

では
206 Reply 来たぜ最終兵器(笑) よしむら MAIL 2002/10/24 10:46
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ついに登場、ですか。
いろいろ設定変わって微妙にギャグ風味になってる
このシリーズでどんな活躍してくれるやら。
楽しみにしてますよ。
224 Reply この先に楽しみ 空理空論 MAIL URL 2002/11/25 00:05
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楽しみは多分読む側も書く側も。
仮に私が某空精霊の似た話をやってた場合は、
間違いなく太助の元なのですが(けど、ルーアンが先に来てたら多分別展開だろうなあ)

とりあえず、ルーアンがどう対応するのか…を、楽しみにしてます。
(他にも要素はたくさんだけれども)
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