201 Reply 授けて慶幸日天! 第14話 ふぉうりん MAIL URL 2002/10/23 11:52
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「たー様。たー様。これなに?」

 それはルーアンが、倉庫から見つけたテニスボールラケットだった。

「あ、それは、確か親父が面白半分で昔買ったラケットとボール。」

「…テニスか、ルーアンやってみる?」

「テニス? なんだかおもしろそうね。」

 しかし、家の前にはなぜか宮内出雲が出待ちもとい、待ち伏せをしていた。まったくもってご苦労なことである。太助としては、出雲が家の前を張っているのは正直気味の良いものではなかった。警察にでも通報して職務質問でもかけてもらおうかと思うほどだった。(それは言いすぎでしょ?) そんな訳で、勝手口あたりから出て行って出雲をやり過ごそうかと太助は思ってみた。

「たー様。どうして勝手口から出て行くの?」

 『宮内出雲が玄関の前で待ちかまえて居るから』とは、太助も格好悪すぎて正直には言えなかった。冷静になってみると、それほど意識をして避けるべき人物なのだろうか? どことなく太助の意思とは関係のない何かが働いているような気がしたが、そのことについてはあまり深く考えないようにする。

 勝手口から出て行くことで、太助は上手く宮内出雲をまいたかと思ったが、彼の胸のポケットからボールが一つこぼれ落ちた。しかし太助はそれにが気がつくことはなかった。

 もしここで、太助がそのことに気がついていれば、今日一日は平穏無事だったに違いない。




 やってきましたテニスコート。
 
 パコーン、パコーン。

 ネットを越えてボールが行き交う

 こういう休日も悪くないなぁ…などと太助はふと思った。

「ねぇ、たーさま。」

「なに?」

 パコーン、パコーン。

「いまって、秋よね?」

「…そうだな。」

 パコーン、パコーン。

「この前って、お花見じゃなかった?」

「ああ、そうだな。」

 パコーン、パコーン。
 
「一学期も中間テストも期末テストも夏休みもすっ飛ばしたな…。」

「以前もこんなことなかったっけ?」

 パコーン、パコーン。

「…そうだな。」

「でも、今回のお話自体は、夏前に手をつけ始めたらしいわよ。」

 パコーン、パコーン。

「でも、オチが弱くてつまらないから、なかなかまとまらなかったって言ってたわ。」

「大変そうだな。」

「そうね。」

 パコーン、パコーン。
 
「それにしても、作品の製作事情の言い訳を登場人物に喋らせるなんて最低よねぇ。」

「そうだな。とんでもない奴だな。」

 パコーン、パコーン。

「でさ、ところでそれって誰の話?」

「さぁ?」

「え?」

 と間の抜けたことを口にしたその時だった。

 スパーン! 

 っと、そこへ剛速球が太助の足元を打ち抜いていった。 

「ぬおっ!?」

 驚き思わずしりもちをつく。そして、ボールを打ち込んだ人物を目にして、太助は更に驚いた。 

「みみみみ・・・。」

「耳?」

 太助は力が入りすぎて、微妙に震える指先で彼を指して言った。

「宮内出雲!?」

「どうも、ルーアンさん。」

 ふぁさっ

「あら、こんにちわ。神主さん。」

 呼ばれざる乱入者は、さも当然のように自分自身の存在をアピールした。そして、その端整な眉をわずかにひそめ、

「困りますねぇ、太助君。仮にも私は目上なんですから、呼び捨てはやめて下さい。」

「つい、本音が。…すいません。」

 そこは礼儀とあってか、ついつい素直に謝ってしまう太助。ルーアンは、その様子にくすくすと笑っていたが、

「そうそう、貴方の家の前にこれが落ちていたので、もしやと思いまして、お届けにあがりました。物は粗末にしてはいけません。と神様もおっしゃってますから。」

 と、さわやかな笑顔で彼は言った。

 太助はちゃっかりボールを手渡すついでに、もといボールを手渡すのを口実に彼女の手を握ろうとしていた宮内出雲から、ボールをひったくるように奪い取った。

「それはどうも。わざわざご親切に!」

「・・・・・。」

「・・・・・。」

 太助と出雲の間に火花が散る。

(この色ボケ神主め、よっくもぬけぬけと・・・)

(相変わらずじゃまな、お子様ですね。さて、どうやってルーアンさんに悟られないように、彼を追い出しましょうか?)
 
 ふたりして腹に黒いものを抱えながら、睨みあっていたが、出雲が一歩引いた大人の余裕を見せ、厳しかった表情を緩め、コホンと軽く咳払いをし、

「そうだ。よろしければ私が教えて差し上げましょうか?」

 怪人20面相も真っ青な変わりっぷりの素敵な笑顔で、出雲はルーアンに話を持ち掛けた。

「こう見えても学生時代は、テニスサークルに入っていたんですよ。」

「夏はテニスサークルで、冬はスキーサークルに変わって、年中ナンパとかしてるサークルですか?」

 すかさず太助は揚げ足をとる。わずかに頬が引きつる出雲、あまりにその通りを言い当てられて少々ばつが悪かった。

「いやぁ、太助君、人聞きの悪いこと言わないでください。」

 しかし、そこは大人、出雲は務めて冷静に太助の言葉を流した。

「私はいつだって真面目やっていたんですよ。」

「ナンパをですか?」

「しつこいですよ!」

「ねぇ。」

「はい?」

「ナンパってなに?」

 あまりに間の抜けたルーアンの疑問の言葉に彼らはふたりして脱力した。



 気を取り直して…
 
「そうね。教えてくれるんだったら、お願いするわ。たー様と一緒に。」

「太助君もですか?」

「俺もですか?」

 と思わずふたりは聞き返した。



 コーチ宮内出雲

「ラケットの握りは…そうです。で、スイングは…ええ、なかなかいい感じですよ。で、足は大体肩幅くらいに開いてですね、ラケットは腕で振るのではなく、肩から腰を使って、体全体で振りぬくような感じで・・・」(著者の適当な知識です。嘘がまじってるかも知れません。あしからず(最悪))

 宮内出雲のコーチはとても的確だったが、ルーアン手やら肩やら腰やら足やらををべたべと触っている姿は、太助にとって面白いものではなかった。

「…で、太助君、聞いてましたか?」

「へ?」

 急に話を振られて思わず聞き返す太助。

「今、私の言った事を聞いていたのですか? と、聞いたのですが。」

 出雲の動きにムカッ腹を立ててた太助は、当然彼の言葉を聞いているわけはなかった。

「…すいません。聞いてませんでした。」

 と出雲は一つ、深いため息をついた。

「太助君。私だって好きであなたに教えている訳じゃないんですから、ルーアンさんが言うから、教えているのに…余計な手間は取らせないでください。」

 物言いには、頭にくるものがあるが、出雲の説明を聞いていなかった自分にも非があるので、太助は、いまいち反論の糸口が見出せなかった。


 30分後

「それにしてもなかなか上達しませんね。」

 出雲は深いため息をついた。はたして今日何度目だろうか?

「そんなこと言ったって、こんな素振りばっかりじゃ、上手くなれるはずないじゃいですか?」

「そうですか?」

 と彼は、離れた場所でひとりもくもくと練習していたルーアンを指差した。するとルーアンは壁に向かって、ものすごいスピードで壁打ちをしていた。

 ルーアンの上達の早さ恐るべし…。

「…。」

 太助は絶句した。

「まぁ、ひとには得手不得手とうものがありますからね。これはしょうがないと思いますよ。」

 出雲にまでフォローされちまった…と、内心どうしようもなく惨めな気持ちになる太助だった。

「あなたは、聞いて教わったりしているより、実践練習の方が向いているかも知れませんね。コートに入ってください。」

(あれ? 宮内出雲って案外良い人かも…)

 と、太助は思ったが、実はそれは、出雲の手のひらの上で踊らされているだけだった。それこそが出雲策略なのだから。

(足腰立たなくなるまで、しごいてあげますよ。太助君。あとは、私がルーアンさんと…ふっふっふ。)

 そんなは腹黒さを微塵も感じさせない好青年の顔で、太助をコートに立たせた。



 最初は普通の球を打ち、序々に厳しいコースに打ち込んで、何度も太助を走らせる魂胆だった。

「どうにか打ち返せはするんだけど…なんかスイングのコツがいまいち…。」

 と、太助が漏らすと、

「こういう時は、わたしの出番ね? ラケットのことはラケットに聞くと良いわよ。」

『日天に従うものは存し、日天に逆らうものは滅ばん。意思無きもの我の力をもって目覚めよ! 陽天心召来!!』

 ルーアンは呪言とともに、黒天筒を振りかざし、太助の握っているラケットに陽天心をかけた。陽天心ラケットのできあがりだ!

 太助は、陽天心ラケットに思いっきり振り回されるが、それでも出雲の注文道理の球は返せている。結局のところ陽天心ラケットに引き回されているだけなので、太助にとっては、スイングのコツを掴むどころではなかった。

「なぁ、ルーアン。」

「なぁに?」

「せっかくの陽天心なんだけどさ。これじゃ、なんだか上手くなれるような気がしないからさ、悪いんだけど元に戻してくれない?」

「あら、やっぱり駄目?」

「ごめん。」

 しぶしぶルーアンは陽天心を解いた。




「なんだか眺めているだけって退屈だわ。」

 ひとりベンチに腰をかけ、足をぷらぷらさせながら退屈そうにぼやくルーアンだった。

「よぉルーアン。こんな所でなにやってるんだ?」

 偶然テニスコートの脇を自転車で通りかかった翔子がルーアンに、声をかけた。

「あら、翔子ちゃん。」

「へぇ。テニスねぇ。ラケット余ってる? あたしはこう見えてもテニスは得意なんだ♪」

「なんだか自身満々ねぇ。残念だけどラケットは、神主さんの入れても3本しかないのよ。」

「そっか。それは残念だな。」

 翔子は残念がったが、その言葉ほど残念といった感じではなかった。

「そっち行っていい?」

「もちろん♪」

 こうして招かざる客がまたひとり、テニスコートに足を踏み入れた。




 ひとしきり太助に出雲は仕込んだ。

「やっぱり貴方は、実技の方が覚えが早いですね。」

「そうですか?」

 相手が誰であれ、誉められる事体が嬉しかったのか、太助少し照れた。

(うーむ。足腰立たなくなるまで、しごき倒そうとしましたが、なかなかどうして体力だけはあるようですね。)

 これは出雲にとってはやや誤算だった。これでは時間がもったいない。出雲は趣向を変えるとしにした。

「太助君。どうですか?」

「なんだかコツがわかっていたような気がします。」

「そうですか。それはなによりです。それでは、ちょっとした賭けをしませんか?」

「賭け?」

「ええ、私が勝ったらルーアンさんと一日デートをさせてもらえませんか?」

 言われて太助はぎょっとした。

「私だったら、一日あればルーアンさんを落とす自身はありますよ。」

 はたしてこの男の自信は一体どこから出てくるのであろうか、過ぎし日のお花見では、散々彼女に奢らされていたではないか。学習能力が乏しいのか、偉大なる忘却力をもっているのか、はたまた前回のお花見でのあれは必要経費の内だったのか? 皆目太助には健闘がつかなかったが、彼が自信満々であることには違いなかった。

「この前は、さんざんルーアンに奢らされてたじゃないですか?」

「うっ! それは…。」

 流石に言葉に詰まる出雲。

「それはそれ、これはこれです。」

 ふぁさ

 数本すだれのように、ほつれている前髪を颯爽とかきあげるが、その姿はいつもの彼の姿よりもいささか精彩を欠いて見えた。

「…そうですか?」

 太助は触れてはいけない物に触れてしまったような罪悪の念に少々駆られた。

「で、出雲さん。もし仮に俺が勝ったときのメリットは?」

「万に一つも無いでしょうけど、今後一切ルーアンさんに、ちょっかい出しませんよ。」

「…そうですか。」

「不満そうですね。」

 太助にとっては、事実その通りだった。

(ルーアンのことだったら、俺なんかが首突っ込まなくても、ルーアン一人で、あしらっちゃいそうだしなぁ…。)

 これが太助の本音である。

「貴方がそこで『うん』と言ってくださらないと。お話が前に進まないんですよ。」

「え?」

「いえいえ、それはこちらの都合です。お気になさらずに。」

「はぁ…。」

 出雲は仕方がなく、賭けの内容を変えることにした。 

「それは、取り下げていいですから、じゃあ、こうしましょう。単純明快に、『勝った者の言うことを聞く』ってのはどうですか?」

「…ええ、いいですよ。」

 少々の打算を働かせながら太助は承諾した。



 そんでもって試合開始

「嗚呼、二人の男が私を巡って争う、嗚呼、ルーアンはなんて罪なお・ん・な(ハート)」

 なぜか妙にノリノリのルーアンは独り自己陶酔の世界に旅立っていた。

「はいはい。ひとりでやっててね・・・。」

 隣りに座っていた翔子は、げんなりしながらも、一応突っ込んでおいた。

「試合開始と行きたいところですが、初心者の太助君にはハンデを差し上げますよ。ハンデの中身はお任せします。」

 どうせ何が来ようとも、出雲は太助には負ける気がしなかった。挑発半分で言われた太助も上手い具合にハンデが浮かばなかったので、1セット目が終わってからハンデを決めさせてもらうことにした。出雲としても、太助から提示されたハンデなんて、もののかずでもないだろうとたかをくくって承諾した。


 1セット目終了


 まったく勝負になっておらず、言うなれば大人と子供ほどの実力差だった。事実彼らは大人と子供なのだが…。

「しっかし、あのお兄さんも大人気ないねぇ。てんで初心者の七梨相手にあそこまでやらなくてもねぇ。」

 と、漏らす翔子。ほとんどサンドバック状態の撃ちっぱなしテニスというか、なんというか…それ程一方的なゲームだった。

「『獅子はウサギを狩るにも全力を尽くす。』戦術としては、悪くはないわね。」

「なに感心してるんだよ。七梨がぼろ負けしてるじゃねぇか。」

「あら、私は神主さんの戦い振りを評価したまでよ。見る側としては、こんな一方的な試合、面白くもなんともないわ。」

「そりゃそーだ。しかし、このまんまだとホントに七梨良いとこ無しだな。」

「陽天心ラケットはさっきやって不評だったし…。」

「やったの?」

「ええ。でも『ラケットに振り回されるって…。』」

「あっはっはっはっは! 七梨が陽天心ラケットに振り回されるとこ見たかったなぁ。もう少し早く通りがかってりゃ良かったなぁ。」

 翔子は心底残念がった。

「ちょっと、翔子ちゃん! そこは笑うところじゃないわよ!」

「悪い悪い。もちろんわざとだ。」

「もうっ。」

 とルーアンは頬を膨らませてむくれたが、

「あっ、そうだ良いこと閃いた!」

「え? なになに?」

 翔子の言葉を聞いた途端に、ルーアンは目を輝かせて彼女の言葉に食いついた。


「なぁ。あたし手伝うのはありかな?」





 そんな訳で…ダブルスVSシングル

「これくらいのハンデがないと駄目でしょ? ねぇ、お兄さん♪」

「別に構いませんよ。」

 相変わらず出雲は自信満々で自慢の前髪を『ふぁさ』とかきあげた。

 そして2セット目が始まるや否や。助っ人の翔子の打ったボールが出雲のコートに綺麗に決まった。

 スコーン、コロコロコロ…。

「すげぇ!」

 太助は正直に感嘆の声を上げた。決められた出雲も驚き、流石のルーアンもまさか翔子がこれほどの実力とは思いも寄らなかったので驚いた。

「そんなに驚かなくても良いんじゃないの?」

 と、得意げに軽く片目を瞑り(ウィンクってやつね)ラケットを肩に担ぎ、空いた方の手は、自分自身を軽く煽るようにひらひらさせて、余裕そうにポーズをとっていた。このとき翔子はこのテニスコートで誰よりも輝いていたに違いない。

(ダブルスを許したのは失敗でしたね。太助くんは軽く捻れますが、翔子さんを侮っていると、このままでは負けてしまうかもしれません。)

 と出雲は気を引き締めたが、

(しかし、一度言ったことを取り下げることを無様なことはありませんからね。ここは2対1でも頑張るとしましょうか。目的までの壁が高いほど私は燃えてくる質なんですよ・・・)

 と出雲は静かな闘志を燃やしていた。

「ふっ、庭にテニスコートがあるくらいの屋敷に住んでるお嬢様を、お舐めになるじゃないよ。」

 翔子はどこか誇らしげにそう呟くと、鋭いサーブを出雲のコートに打ち込んだ。

「なに言ったか? 山野辺。」

「いや、別に…なんにも。」

 嘘だったが、太助にはあまり聞かれたくない呟きだった。

 気合一閃! 翔子のサーブがが唸りを上げて出雲のコートに突き刺さる!

「ふっふっふっふ。ろくに友達が居なかったから、よくひとりで壁打ちをやって鍛えたもんだよ。…ボールは友達。ボールは友達(違う)あたしの思い通りに飛んでいってくれる。おっと、ここで『友達をラケットで打つな』なんて根本的なつっこみはなしだぜ。」

「さっきから、何かぶつぶつ言ってるみたいだけど。」

「なんでもない。こっちのことだ。」

 今日の翔子は何かが降りてきているのではないか? と太助が疑いたくなるほど、いろんな意味で飛ばしすぎて、いやむしろどこか壊れていたような感じもで、むやみやたらとひとりごとやらなにやらにと絶好調だった。

 


 翔子の参加により、出雲対太助翔子ペアの戦いは接戦を繰り広げていた。 そして最終セット。セットカウントは同点、あと2本続けて決めた方の勝利という状態で、とどのつまりは、

「デュースってやつよ。先に2本続けて決めた方の勝ちね。」

 とルーアンは覚えたてのルールを得意げに言った。ルーアン説明台詞ありがとう。それにしても一応主人公なのに、今回はあんまりあんた目立ってなねぇ。

「余計なお世話よ!」

 おっとこれは失礼。

「ルーアン。一体誰と話してるんだ?」

「そうだぞ。ちゃんと審判やってくれよ。」 

「悪かったわね。ちょっとした自己主張の場を得てただけよ。」

「「……。」」

 太助と翔子はふたりしてルーアンの疑わしい眼で見た。

「さぁ、気を取り直して、続きよ続き。」

 そして試合は再開されようとしたとき、太助がこんな言葉を口にした。

「山野辺。手伝ってくれて、ありがとな。」

「なんだ? いきなり。」

「最後くらいは俺一人でやるってことだよ。」

 翔子としてもここまでやっておいていまさらご『苦労さん、もういいよ』なんて言われても納得することは出来なかった。

「ここまで来て、それはないんじゃないか?」

「…。」

 翔子のもっともな抗議の言葉に太助は言葉を詰まらせた。

「それにさ、あたしが思うにそれって負けを覚悟してないか?」

「え?」

「だって、お前はその状況だと、あのお兄さんから、2本続けてとらなきゃいけないんだよ? 勝つつもりなら、自分のアドバンテージの時に言う台詞だぜ?」

「………。」

 翔子の的確な突っ込みに太助は言葉を失った。冷静に考えればここから一人でやったとしても万に一つの勝ち目があるかどうかも分からない。意地とかなんとかで、自ら負けの道を選ぶよりは、例え2対1でも勝つ方を太助は選びたくなった。それに翔子の『ここまで来て、それは無いんじゃないか?』の言葉を太助の気持ちを後押しした。

「ははは…。まだ助っ人頼むわ。」

 太助は苦笑いをしながら言った。

「素直でよろしい♪」

 
 …で、結局。出雲のミスでネット際でボールがあがる。

「チャ〜ンス!! おりゃ!」

 翔子のスマッシュが見事に出雲のコートに突き刺さった。

「は〜い♪ たー様、翔子ちゃんペアの勝ち〜(ハート)」




 罰ゲーム

「勝者特権、言うこと聞いてもらおうか。」

 太助は鬼の首でもとったかのような強気で出雲に言った。

「さて、『勝ったやつ』のいうことを聞くんだったよなぁ。」

 してやったりな顔で翔子は言い放つ。

「「え?」」

 翔子の言葉に、出雲のみならず太助も思わず声を上げた。

「なぁ、ウイニングボールを決めたのは誰だ?」

 言われてみて思い返す。確か最後に決めたのは翔子だった。

「と、いうことは、あたしの言うことを聞くんだよなぁ? さて、どうしてくれようか。ふっふっふっふっふ。」

 翔子はこれ以上ないほど、良い顔でニヤリと笑っていた。

「「えぇ!?」」

 太助と出雲はとても嫌な予感がした。

「俺も勝ったはずなのに…。」

 と太助は主張したが、翔子に『あたしが居なかったら、ボロ負けじゃないか?』と言われて黙らされ、その後コートのすみで『えぐえぐ』泣きながら、いじけていたとかいないとか。







「いやー、山の空気は清清(すがすが)しいなぁ。」

 翔子が上機嫌で山道を歩いていた。

「そうね。紅葉も奇麗だし。」

 ルーアンも笑顔で翔子の声に頷いた。そんな彼女達から数メートル後方、

「太助君。どうして我々は山に来ているんでしょうか?」

「それは、山野辺が『紅葉狩りがしたい』とか、言い出したからだと。」

「どうして、私が運転手にさせられてるんでしょうか。」

「それは、この前の賭けテニスで山野辺が勝ったから・・・。」

「不思議ですね。」

「ほんとに。」

 勝負をしていたのは太助と出雲のはずだった。しかし終わってみれば翔子の一人勝ちという結果だった。

「なんで、こうなったんだろう? でも、これもこれで楽しいから、いいかな? そういうことにしませんか? 出雲さん。」

 つまりは深く考えるなということらしい。

「そうですね。」

 と出雲は苦笑しながら太助の言葉に同意した。

 そしてふたりは「ははははは・・・」と、若干乾いた笑いを浮かべた後「こんなはずでは・・・」と思う気持ちが交錯する空気の中で揃ってため息をついた。




つづく




あとがき
どうも、ふぉうりんです。かれこれ5ヶ月くらいサボってました。ホント駄目駄目です。
冒頭から反則技を使いまくりですし、いやはや、これで許されるとは、これっぽっちも思っておりませんからご安心を。言い訳並べるにも面白い並べ方の方がいいかなぁと、思いまして彼らに喋ってもらいました。次回はもしかすると『あのお方』が登場するかも知れません。

2002年10月22日 ふぉうりん
203 Reply 一番したたかだったのは… グE 2002/10/23 15:05
cc9999
翔子さんだったでしょうね。
二人もまさかこうなるとは思っていなかったでしょう♪
しかし、翔子さんは寂しい過去を過ごしていたみたいですね・・・。

はじめの楽屋ねたが個人的に面白かったです。
それと同時に自分もがんばらなきゃな、とおもったり(汗)

では
205 Reply こんなのもアリですか よしむら MAIL 2002/10/24 10:38
003300
序盤の楽屋ネタと翔子の「ボールは友達」宣言に笑わせてもらいました。
お前はキャ○テン翼か(笑)
翔子宅ならホントにテニスコートくらいありそうだ。
今回翔子以外のメンバーろくに活躍してないな。
223 Reply 見えざる力 空理空論 MAIL URL 2002/11/25 00:04
7b68ee
なんてものがここに働いてる気がしました(謎笑)
やはりというか、冒頭のテニスしながらのやりとりは笑えて
(笑っちゃいけない要素かもしんないけど<爆)
しまいます。パコーンパコーンの効果音と共にあるおかげで更に引き立ってますしね。

負けじと対抗している太助君もなかなかしぶいですが、
やはりというか、この頃の出雲にーさんもなかなか素敵です(笑)
そして翔子さんが美味しいところをもっていくのはさすがでございますわ。
いいオチがついたなと思います。

それにしても…最初から最後まで何かが降りていたような、感じですね(笑)
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