143 Reply さずけて 慶幸日天! 第13話 とってもキケンな(?)お花見 ふぉうりん MAIL URL 2002/05/19 15:34
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さずけて 慶幸日天! 第13話
とってもキケンな(?)お花見

「ああ、もうすっかり春ねぇ。」

 彼女は誰にともなく一人呟く、そして視界に入ったそれに目をやる。

「・・・・魚。これは随分と綺麗な模様ね。」

 初めて見る綺麗な魚。それは熱帯魚だった。流石に店頭に置いてあるだけに目を引く。そこはペットショップの前であった。

「貴方の方が、何万倍も綺麗ですよ。」

「あら? なにかしら?」

 どうやら彼女には、その声は呼び声程度にしか届いていなかったようだ。せっかくの誉め言葉も相手に聞こえてなければ意味はない。ルーアンに声を掛けた青年は、顔には出さないものの内心には、僅かな落胆があった。

「ミスズリュウキュウスズメですね。」

「スズメ?」

「とはいえ、言葉尻に知った単語が混じってるからって、安易に結びつけるのは、馬鹿の見本よね?」<危険発言

「なにか仰いましたか?」

「いえ、こちらのことよ。気にしないで。」

「そうですか。」

「でもこれは、観賞用よね?」

「そうですよ。」

「私はどちらかというと、食べられる魚の方がいいのよねぇ。」

 ルーアンの言葉に青年は、一瞬言葉を失い。

「ぷっ、くっくっくっく。・・・・これは失礼。」

 彼女のぶっ飛んだ発言に吹き出していた。 

「ホント、失礼よ。あなた。」

 言葉の割には、特に腹を立てた様子も無く彼女は言った。

「いやいや、ペットショップの前で言うセリフではありませんよ。」

 『ペットショップ』という言葉自体は、いまいち理解し損ねたが、店の中を覗き見て、そこが動物を愛玩用に売る店だと理解した。

「・・・・それもそうかもね。」

「食べると言えば、神社の桜が見頃ですよ。屋台も出ていることでしょうし。」

「花見!? 屋台!?」

「もし、貴方がよろしければ・・・。」

「こうしちゃいられない! たー様に教えてあげなきゃ!」

「たー様?」

 青年が彼女の言葉に疑問を憶えたが、ルーアンは言うが早いとばかりに、大急ぎで七梨家へダッシュで帰っていった。

「・・・・・・・。」

 台風が過ぎ去った後のような静けさがどこなく漂う中、一人取り残された青年は、

「随分と風変わりで、面白そうな方ですね。」

 と、誰にとも無く呟いた。



〜七梨家〜

 太助は、ソファに寄りかかりながら宙を仰ぎ見た。そして、口をついてこんな言葉が出た。

「そう言えば、桜が咲いていたなぁ。」

 先ほどニュースで、桜の咲き誇る映像を見たばかりだった。

「ねぇ、たー様。」

 いつのまにか帰ってきていたルーアンが、太助に寄ってきた。

「ん?」

「お花見に行かない?」

「えっ?」

 太助は心中を見透かされた気分であった。

「何故それを!?」

 『ルーアンさん。あんた心が読めたんですかい!?』太助のモノローグは思わず敬語になっていた。

「うふふ。ちょっと外で、桜の見頃な場所を教えてもらったのよ。」

「へぇ。」

 表面上はごく普通のやりとりだが、太助は心のどこかで安心していた。どうやらルーアンは人の心が読めるわけではないようだ。

「なんでも、宮内神社ってところらしいけど・・・・。」

「宮内神社か。確かにあそこは、山の上に立ってて、桜のとか咲いてたら、お花見にはもってこいだろうな。」

「それに屋台も沢山出てるんだって!」

「あはは、本命はそっちか。」

 太助は苦笑気味に納得した。

「やっぱりルーアンは、花より団子か?」

「失礼ね。私はお祭りとか賑やかなものが好きなだけよ!」

「はいはい。そういうことにしておこうな。」

「もう。たー様ったら。」

 ルーアンは、ぶーぶー文句をたれた。

「そこまで言うなら私の輝かしい、お祭りの武勇伝を聞かせてあげるわよ。」

「え? それは、また今度な。さて上着、上着っと。」

 太助は上着をとりに行くの口実に、リビングから逃げおおせた。 

「ちぇっ。」

 ルーアンは残念そうに舌打ちをした。




 〜宮内神社境内〜

「すごいもんだな。」

 宮内神社の桜は、その美しさをこれ見よがしといわんばかりに、見事になほど咲き誇っていた。

 が、時は夕方、全てが夕日に染められていて、桜の色と絶妙な色具合に醸し出していた。木も人も屋台も境内もすべてが橙色に染められていた。この時ばかりは、主役の桜も、夕日にその座を譲っていた。

「随分と良い時間に来れたものね。」

「なんだか得した気分だな。」

「そうね。来てよかったわよね。」

「ああ、なんだか来ていきなり。一番良い所見た気分だな。」

「それにしても、凄い人の量よね。」

「けっこう沢山、人身に来てるもんなんだなぁ。」

 名所というのもあながちでたらめではないようだ。それ故、桜を見て賑わおうという者達も大勢居た。

「さてと、屋台〜♪ 屋台〜♪」

「ははは・・・。」

「う〜む、こっちに来てから初めて見る(食べ)ものばっかりだから、目移りしちゃうわね。」

 彼女は、相変わらず色気よりも食い気だった。


 ルーアンは、後ろからぽんぽんと肩を軽く叩かれた。

「あら、あなたは。」

「・・・あのときの親切なお兄さん。」

 青年は『親切なお兄さん』のところでほんの少し、よろめいたような気がしが太助は気にしなかった。その端整な顔立ちには不似合いなわずかな苦笑いを浮かべていた。

「この人は?」

 太助は初めて顔会わせた青年に、ほんの少し警戒心抱きながら、ルーアンに尋ねた。

「この人が、花見の見頃な場所がここだって教えてくれたのよ。」

「ふーん。」

 太助は曖昧な言葉で、納得していた。

「申し遅れましたが、私はここ、宮内神社で神主を務めております。宮内出雲と申します。」

 青い袴の神官服の井出達だった。格好も格好だが、その顔立のせいか青年には異常に存在感があった。

「私は、ルーアン。で、こっちが。」

「七梨太助です。」

「あなたは、ルーアンさんの弟君ですか?」

「弟・・・・。たはは・・・。」

 太助は、ある意味反論できず。やや落胆と苦笑の入り混じった反応をした。

「ふふっ。その辺りは貴方のご想像にお任せするわ。」

 これを大人の余裕というのか、ある意味自信たっぷりなルーアンに。

「これは、これは、随分と面白いことをいわれますね。」

「そうかしら?」

 出雲の言葉に答えるルーアンは、『太陽の精霊』とは程遠い、何処か妖しげな笑みを浮かべた。



「ちょっとその辺見てくるわ。」

 彼女は、お花見自体が懐かしいのか、それとも雰囲気を味わいたいのか・・・はたまた単に屋台の下見がしたいのか、祭りの喧騒の中に姿を消した。



「・・・太助君でしたか?」

「はぁ。」

 太助は曖昧な返事を返す。

「あんまり似てらっしゃらない御姉弟ですね。」

 出雲の言葉は、先ほどルーアンが居た時のような、フレンドリーな雰囲気は一切無く、何処と無くシャープな感じがした。表現を変えて言えば、語調がキツクなったと言うべきか。

 太助は、出雲の急変ぶりに少々驚いた。

「・・・・よく言われますよ。」

 と、表面上は至って平然を装った。

「奇麗なお姉さんですね。」

「そうですか?」

 太助はルーアンが誉められてことに、少し嬉しくなったが、

「それ故に落し甲斐もあるというものです。」

 出雲は太助がぎょっとするような事を、小声で呟くように言っていた。

「えっ!?」

「いえいえ、こちらのことです。お気になさらずに。」

 出雲は余裕しゃくしゃくといわんばかりの笑みを浮かべた。

 そして、わずかに顔を俯き加減で軽く目を伏せ、自慢の前髪を整った指先で、勢いよくかきあげた。


ふぁさぁ

 
 これぞまさしく美形の神主宮内出雲のキメのポーズ! それは、太助が思わず息呑むほど、様になっていた。この手の美男子が好みな女性なら、喜びの悲鳴を上げるに違いない。なぜなら男の太助でさえ、ちょっとドキドキしたのだから。





「ただいま〜。」

 ルーアンが彼ら元に戻ってきた時、出ていく前との空気の違いを微妙に感じた。どことなく、太助と出雲の間に、微妙に火花散ってるようにも思えた。

「?」

 一体なにがあったのかしら? 彼女の心の中の第一声だった。

「・・・一体どうしたの?」

「別に、なんでもありませんよ。」

「そうかしら?」

「・・・・。そうそう。なんでもないよ。」

 太助もそう言っているので、ルーアンは気にしないことにした。

「そうそう。面白そうなのが沢山あったわよ♪」

「よろしければ、ご案内しましょうか?」

「う〜ん。そうね。お願いするわ。」

「じゃ、いきましょ。たー様、じゃなかった。太助君。」

「たー様?」

 うっかり口をすべらせたルーアンに、出雲は聞き返したが、ルーアンは始めから聞こえてないかのように、聞き流した。

「あ、ああ。」

 出雲と一緒ということに、太助はあまり乗り気じゃなかった。

「私はルーアンさんとふたりで(強調)お花見を廻りたいのですが・・・。」

 出雲は太助にしか聞こえない声で、プレッシャーを掛けた。

「ルーアンが言うんだから、しょうがないじゃないですか。」

 太助にしては珍しく、険のある返事を返した。しかし相手は目上、険はあってもしっかり敬語は使っていた。

 そして彼女には、彼らやり取りは聞こえていなかったが、なんだか更に太助達の様子が険悪になったような気がしたことに首を捻った。

 人込みの中は、3人並んで歩く事は出来ない。ルーアンのとなりに出雲、太助はその三歩後ろについて歩いているいった感じだった。

 宮内出雲は、軽そうに見える見た目とは裏腹に博識で、ルーアンの浴びせる質問の嵐に、一つ一つ丁寧に答えていった。太助としても、初めて聞く言葉や、花見や屋台の由来なども聞けて、ある意味面白かった。気がつくと、太助は出雲の巧みな話術を聞き入っていた。本来この場は宮内出雲がルーアンを楽しませるリップサービスなのだが、話上手な上、聞く者を男女問わず飽きさせることがない出雲の喋りに太助は引き込まれていたのだった。それ程彼の話術は卓抜していた。

 我に返った太助は、楽しそう出雲の話を聞いてるルーアンに、少し複雑な感情を抱いた。あまり面白くないような、自分がないがしろにされているような・・・・ふと太助は自分の抱いた感情に気がつく。


 これって、もしかして・・・・・嫉妬なのか!?



 そんな自分自身の抱いた感情に、太助はちょっとびっくりした。


 びっくりついでに、少し呆然とした時、偶然人の波が押し寄せ、太助はルーアン達とはぐれた。

「あーあ、はぐれちまったよ・・・・。でもまぁ、ちょうどいっか。」

 太助としては、頭を冷やすにはちょうどいいと、少し一人で花見を廻ろうかと思った。

「よう。七梨。」

 と、後ろから見知った声を掛けられた。

 太助が声をかけれるまま振り向くと、


むにっ


 指先が太助の頬に突き刺さった。

「あははははははっ。今時こんなのにひっかかる奴がいたんだな。あははははははっ!」

 愉快そうに笑う、山野辺翔子の姿があった。

「うるさいなぁ。今時こんなことやる奴なんで普通居ないぞ。」

「ここに居るぞ。」

「滑った時は『シベリア送り』なるほど寒いぞ。」

「『シベリア送り』ってなんだ?」

「非常にローカルなネタだから気にするな。むしろ解説するのに、苦労しそうだからな。」

「あっそ、じゃあ、別にいいや。」

「ところで、今日は花見か?」

「ああ。ルーアンと一緒に来てたんだけどね。」

「ルーアンなんて、居ないじゃないか。」

「ああ、さっきはぐれた。」

「そっか。」

「俺も子供じゃないから。ルーアンも心配しないと思うけどね。」

「ところで、山野辺は?」

「見てのとおり、的屋あらしだけど。」

 はっきりきっぱりと、ろくでもないことを言う。

「で、成果はどうだ?」

「まぁ、そこそこってことろだね。」

 その表情から察するに。どうやら勝ち越しのようだ。ここで彼女がリヤカーかなにか景品の山積みを引いているというギャグはないようだった。

「そうだ。ルーアンの陽天心を使って、射的とかやるのってどうかな?」

「こらこら。ルーアンの力をそういう風に悪用(?)するなよ。」

「なに、ちょっとしたジョークだよ。」

「ホントか?」

「さぁね。」

「おいおい。」

 太助は苦笑気味に言った。そしてある事実を思い出す。

「あっ。」

「どうした?」

「財布は俺が持ってるから、ルーアンは今一文無しだ。」

「あはははは〜。」(汗)

 乾いた笑い声がふたりの間に飛び交った。

「はぁ〜〜〜〜。」

 とふたり同時に深いため息をついた。

 太助はほんの少しだけ、出雲のことが気の毒に思えた。

「あのお兄さん大丈夫かな?」

「え? 誰? 誰かルーアンと一緒にいるのか?」

「ああ。ここの神主やってるって言ってた、宮内出雲って人。」

 太助の言葉に翔子はニヤリと笑い。

「ほう♪」

 と興味津々と言った感じ、

「そりゃ随分と面白い取り合わせだな。」

 正直な意見を述べた。

「え?」

「なんだ、七梨。知らないのか?」

「なにを?」

 翔子は軽くため息をついて、噂に疎い太助を少し哀れむような目で見た。そんな目で見られた太助は少し不愉快な気分になった。

「もったいぶるなよ。」

「そんなに知りたいなら。教えてやるよ。宮内出雲って言ったら、この町内切ってのプレイボーイ(表現古っ)ってことでかなりの有名人だぜ。」

「ええっ!?」

 大きな声を上げて驚く太助に、翔子はもったいぶっただけに、良いリアクションを返す太助に面白くなった。面白ついでに心のままに、追い討ちをかける。(ひでぇな)

「そんな奴にルーアンも引っ掛かったか。・・・・これは面白そうだ。」

 ろくでもないことを、嬉しそうな顔で言う翔子。

「おいおい。」

 今の太助には、口にして上手く表現することは出来ないが、とにかく胸がわずかにざわめく感じがした。

「なんだ? 七梨。ルーアンが心配か?」

「いや、そんなことは・・・いや・・・多分・・・心配・・・なの・・・かなぁ?」

 翔子は、眉根を寄せて、太助の言葉にわずかな苛立ちを覚え、

「なんだか煮え切らない奴だなぁ。」

 あきれ気味に言った。翔子としては、ルーアン奪回(奪われた訳じゃないんだけど)に燃える太助が、宮内出雲に昔の貴族よろしく手袋でも投げつけて勝負でも決闘でも挑んでくれれば、面白すぎて万々歳なのだが、太助の性格上その可能性は限りなくゼロに近いので、翔子としては、世の為人の為、ルーアンの為、太助の為、本当は自分自身が面白がる為、太助を焚き付けてやることにした。

「行くぞ! 七梨!」

 太助の手を引く翔子。

「あっ! ちょ、ちょっと!?」

「なんだよ。ルーアン探しにいかないのか?」

「わかったから、ひっぱるなってば。」

 祭り喧騒の中、人の波を縫うように、太助の手を引いて軽快に進む翔子と、それに引っ張られながら、転ばぬように懸命に着いて行く太助。見方によっては、年頃の少年少女が、夜桜の中を仲良く手を繋いでいるかのようにも、見えなくも無かった。しかし、彼らはそんなことにとんと気が付くことは無い。

「山野辺はルーアンのことが心配なのか?」

 そんな太助の想いを裏切るような即答を翔子は返す。

「ばーか。面白そうだからに決まってるじゃないか。」

 あまりにも正直すぎる翔子の言葉に、少しでもルーアンのことを心配してるのでは? と気に掛けた自分が馬鹿だと、太助は痛感した。

 はたして、ほんとうのところの、翔子の気持ちはどうなのだろうか。

「へいへい。そうですか。」

 太助は、半目であきれ気味に言った。



 その頃、ルーアン達は、屋台で買ったの食べ物を両手いっぱいに抱えていた。ほくほく顔で嬉しそうなルーアンと、ちょっとトホホなな感じな出雲はとても対照的だった。心なしか彼の自慢の前髪が数本、すだれのようにほつれているようにも見える。

 太助達は、遠目から彼らを見つけることが出来た。そして、ある意味案の定の姿に、太助はほっとした。

「うっひゃ〜。美男美女は遠くから見ても絵になるもんだね。」

 それは目立つこと目立つこと。彼らの姿は遠くからでも目を引く程だった。

「確かに。いろんな意味で 目立ちまくってるな」(苦笑)

 美男美女。そして両手一杯の食べ物。喜ぶ美女とトホホな感じの美形の神主。これで目立つなと言う方がどうかしていると言うものだ。

「でも、なんだかほっとしたなぁ。」

「あたしとしては、あまりにも予想通りでがっかりしたんだけどな。」

 ふと気が付くと彼らの周りには誰も人が居なかった。彼らは気がつかなったが、そこには『立ち入り禁止』の札と緩んだロープが張っていた。そして彼らは内その側に居た。

 太助は、ほっと一息と、そばにあった無人の屋台に手をついた。

ぎしっ

 その時、ふたりのそばの無人の屋台が、軋んだ音を立てた。木材に軋む音を聞いた瞬間。ふたりは、嫌な予感とともに、背筋に冷たいものが走ったような気がした。


どんがらがっしゃ−ん


 その屋台は盛大な音を立てて崩れ始めた。

『うわぁ〜!!』

 悲鳴に叫び声、崩れる屋台。土煙と木片が飛び散り、その一帯は騒ぎに包まれた。




 少し離れたところから大きな音が聞こえてきた。その喧騒にまぎれてこんな声が聞こえてきた。

 おい! 大変だ! 向こうで痛んでた屋台が崩れたんだって!

 子供が巻き込まれたらしいぞ!

 
 ルーアンはそのとき直感で嫌な予感を感じた。どうして太助と離れても、放っておいたのだろうかと、自分の行いに後悔した。しかし、今は悔いている場合ではない。そんな余計なものは金繰り捨ててしまわないと、ことは一刻を争うかも知れないのだから。

 両手の食べ物を放り出し、ルーアンはその場に都合よく置いてあった竹箒(たけぼうき)を拝借し、呪言を唱える


『陽天心召来!』

 
 意思得たほうきは、そのよろこびをあらわすかのように、その身と共に大気を震わせた。

ぐおん。

 浮き上がりホバリングするほうきに、ルーアンはまたがり、騒ぎの中心地に向かってほうきを走らせる。

「どわっ。ちょ、ちょっと!?」

 突然飛び上がったほうきにかろうじて宮内出雲つかまっていた。

「貴方は何者なんですか? 魔女ですか?」

「まぁ、そんなもんよ。ついてくるならしっかりつかまってなさいよ!」

 ルーアンは、ほうきを全速力で飛ばし、人の波を縫うように陽天心ほうきを低空で滑らせた。

「あれね!」

 彼女は目的の物を見つけると、

「もういっちょ! 陽天心召来!」

 びかか! と黒点筒から光を放つ。

 崩れた屋台に陽天心が掛かり、ビル解体映像の巻き戻し映像よろしく、屋台が持ち上がり復活した。


「「おおおお!」」


 周りの野次馬達は、ルーアンの陽天心をアトラクションか何かと勘違いし拍手を送った。

「子供は!?」

 復活した屋台には誰も居なかった。

「あら? なんで? どうして? 間違い?」

 ルーアンは次々と上がる疑問をそのまま口にした。そんな中、宮内出雲は、少々混乱するルーアンの肩に軽く手を置き、野次馬の口にした言葉に耳を傾け周りの状況把握に務めた、それを元に彼の導き出した推測を彼女に告げた。

「どうやら、誤報のようですよ。」

 宮内出雲の落ち着いた言葉、彼女を落ち着かせるには、十分な説得力を秘めていた。

「・・・・そう。それはよかったわ。結局誰も巻き込まれてないみたいね。」

 誤報で、結局のところ骨折り損なのだが、太助が巻き込まれた訳ではなかったことにルーアンは心底安心した。

「私から、ここの屋台の持ち主によく注意しておくことにしましょう。」

 出雲は、この神社を預かる神主らしく真面目な面持ちで言った。

「そうね。危ないしね。」

 ルーアンもそれに頷いた。

「よっ。ルーアン。大活躍じゃないか。」

「あら、翔子ちゃん。」

「ルーアン。お疲れさん。」

 人ごみのなかから、彼女達に声を掛けたのは太助と翔子だった。

「たー様! 無事だったのね!」

 彼女は無事な姿の太助を確認すると、彼を力一杯抱きしめた。 

「うわっ!? ルーアン!?」

「・・・その、服とか汚れちゃうよ。」

 太助達は、崩壊する屋台から無事に逃げおおせたのだが、その余波で少々顔や手に少しほこりを被っていた。

「そんなの構いやしないわよ!」

「往来の前でよくやるねぇ。」

 翔子が冷やかすように、呆れ気味に言うと、太助は恥ずかしさから、ルーアンから逃れようともがいた。

 そして、ようやく太助がルーアンから開放されたころ。きちんとその様子を見計らった出雲が、

「ところで、ルーアンさん。貴方・・・。」

 ルーアンは、心の準備をしてはいたのだが正直『来たか』と思った。

「ここは少し騒がしいわね。場所を変えない?」

「・・・・そうですね。私としたことが、これは失礼いたしました。後で静かな場所へご案内いたしましょう。」





 出雲は騒ぎを一通り収めた後(神社敷地内で起きたのだから、事後処理は彼の仕事だ。それに太助達はタオルを借りてほこりなどを軽く落とした)3人は出雲に案内され(結局翔子もついてきた)やってきたのは、境内の裏手の奥まったところだった。ここまでは流石に花見客は来ておらず、とても静かだった。それはこれから語られる内容の似合いの場所だっだ。

 太助達は静かに息を飲み、ルーアン達の言葉を待った。

「ルーアンさん。貴方は一体なにものなんですか?」

 出雲は真面目な口調で尋ねたが、それは相手を追求するような含みは無く、むしろ、優しく問うているようにも聞こえた。

「私は慶幸日天・・・・。太陽の精霊。だからあんな力が使えるの。あなたの思う通り、人間ではないわ。」

 いつもと違う、ルーアンらしくない影のある感じのどこか否定的な言葉。人間は、その人知を超えるものを恐れ、忌み嫌うものなのだから・・・ルーアンも、そういった世界の歴史を超えて今の世界にいるのだから・・・。太助はそんな彼女の歴史の影の一端を垣間見たような気がした。

「そうですか。正直に答えていただけて、私は嬉しいですよ。」

「そんな人ならざる私を、貴方は一体どうするつもり?」

 ルーアンの問いに答える出雲の言葉に、太助達は注目した。

「どうもしませんよ。」

「「え?!」」

 出雲の言葉に、ルーアンのみならず、太助や翔子も驚きの声を上げた。

「姿形が同じなら、人と人ならざる者の違いなんて、大したものではないしょう?」



 この時代は本当に不思議。主をはじめとしてこの時代の者たちは、自分の力を恐れず、それでいて普通に接してくる。本当は嬉しいことなのだが、正直戸惑うこともある。これまでとあまりにも違いすぎる。どうしてかしら?



「悲しいことに、今の世の中、見た目さえちゃんとしてれば、そんなこと意に介さない人間なんて五万と居ますよ。」

 とても神主とは思えない、ものすごい物言いに、思わず吹き出すルーアン。

「ふっ、あんた、ぶっ飛んでるわね。」

「そうですか? あなたほどではないとは思いますけど。」

 出雲は至って真面目な顔で答えた。

「あら、私は人知を超えた伝説の精霊『慶幸日天』だもの、人間の常識に当てはめられちゃ、困るわよ。」

「胃袋も人知を超えてるしな。」

「ちょっと、翔子ちゃん!」

 緊張した空気から一転して、明るい雰囲気の笑いが飛び交う中、ただ一人。太助は、宮内出雲の言葉とその存在に複雑な想いを抱えるのであった。

「おや? 太助君、浮かない顔されてどうされました?」

「別に! なんでもありませんよ!」

 語調を荒げて不遜としてる太助、そんな太助の反応に少し困った顔をした出雲、そんなやりとりを見てニヤリとひとの悪い笑みを浮かべる翔子。まさか自分と中心に微妙な人間関係が渦巻いているとは、とんと気がつかないルーアン。それぞれがバラバラの表情をしていた。


さてはて、これからどうなることやら。


続く



あとがき
どうも、ふぉうりん です。約二月程お休みしましたが、一応書きあがりました。しかし、5月も半ばで『花見ネタ』とは(苦笑)あいかわらず季節ものには、間に合わない体たらくぶり。一応出雲お兄さんは、今後レギュラーとしてお話に絡んできます。ルー姉さんに一体どんなアプローチをかけるのだか? 書いてる私にも、あんまり想像がつきません(苦笑)

さーて次回はどうしようかな?

2002年5月19日 ふぉうりん
145 Reply Re:さずけて 慶幸日天! 第13話 とってもキケンな(?)お花見 グE 2002/06/03 13:36
cc9999
出雲ってやっぱり美人なら年なんて関係ないんでしょうね(笑)

ルーアンに言い寄ってくる出雲にやきもちを焼く
太助がいい感じでよかったです。
はてさていったいどうなるのか見ものです。


続きがんばってください

では
147 Reply 武勇伝 空理空論 MAIL URL 2002/06/03 23:49
7b68ee
・・・とは、やはりお祭りの屋台をすべて食い尽くしてしまった、
ということなのでしょうか(おいおい)

原作的雰囲気そのままに、出雲にーさんが登場していたのがよいです。
いやほんと、太助と出雲はなんかびみょーにきみょーな関係になりそう(笑)
原作よりは棘が少ないとは思いますけどね。
(原作でもそんなに棘が多いわけではないけど)

それにしても・・・シベリア送りのあたりだけなんか別世界気分(爆)
148 Reply ロリコン改め 須坂稔 2002/06/13 21:53
7b68ee
 ロリコンでははなく年上好み(?)に転職した出雲。
彼の活躍に期待でしょうか。(でもストーカー気質は変わっていなさそう・・・)

個人的にはルーちゃんの武勇伝の方が・・・
174 Reply 花見編 よしむら MAIL 2002/09/11 20:22
cc9999
しばらく来ない間にいつのまに新作が(汗)
ちゅうわけで遅すぎるレス返すハメになりました。
ルーアンの大人の余裕っぷりがナイスでした。
このあたりシャオとはひと味違って面白かったですよ。
出雲は原作通り「嫌味なヤツ」でしたね。
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