113 Reply さずけて慶幸日天! 第12話『バレンタインぱにっく!?』 ふぉうりん MAIL URL 2002/02/23 22:10
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 二月上旬のとある日、スーパームサシで、それは起きていた。

「むっ・・・。」

 なにやら神妙な面持ちで、翔子はそれを手にとるかどうか迷っていた。思わず時の経つのを忘れるくらい迷っている。いや、もしかしたら自分だけ時間が止まっているのではないのかと錯覚していまうほどだ。翔子にはそれほどこの時この時間を長いものに感じた。

「よう。山野辺じゃないか。」

 ビクッ!

 翔子は口から心臓が飛び出さんほど驚き、一瞬の内に数メートル瞬間移動をした。

「な、なんだ七梨か。驚かすなよ。」

 返事を返す翔子の声は、ほんのわずかに震えていた。

「俺は驚かすつもりは無かったんだけどなぁ・・・。それにしても山野辺。いくらなんでも驚きすぎなんじゃないのか?」

 言われた翔子は、ふと自分の行動を振り返ってみる。

「・・・・。ああ。言われて見ればそうかもな。いや、わりぃ。わりぃ。」

 からからと、いつもの調子で笑う翔子の姿に、太助は先ほどの翔子のらしからぬオーバーなリアクションに不信感を感じたが、べつに追求する必要は無いと思い。黙っていることにした。

「山野辺。なにやってたかは知らないけど。世間様に顔見せ出来なくなるようなことだけはすなよ。」

「なんだよ、それ?」

「ルーアンが悲しむからな。それに・・・・。」

「それに?」

 問われた太助は、少し伏せ目がちに翔子からわずかに目を逸らし。

「俺も、ちょっと悲しむかもな。」

 と、小声でぶっきらぼうな口調で付け加えた。そして太助の頬はわずかに染まっていた。

「・・・!!」

 翔子は太助の口から出た予想もしえない言葉に鳩が豆鉄砲をくったような、素っ頓狂(すっとんきょう)な顔をした。

「・・・・俺が山野辺の事を心配するのってそんなに変かな? ・・・・それにほら、その、一応、俺達友達じゃんか。やっぱり友達がそんな風になるのは、俺は悲しい。」

「・・・あぁ。あ、ありがとうな。」

 どこか上の空で、翔子は返事をした。お互いなんとなく言葉が繋がらなくなり沈黙が訪れる。

「・・・・。」

「・・・・。」

「じゃ、俺行くから。じゃあな。」

「あ、ああ。」

 たくさんの食材が入った買い物かご(おそらくルーアンのせいだろう)を腕さげた太助を翔子は見送りった。

「ルーアンの言う通り、あいつやっぱりいいヤツだな。しょうがない、たまにはあいつのために・・・・・。」

 翔子は軽いため息と共に、先ほどまで散々手にとるのを迷っていたそれを、自分の買い物かごに放り込もうとして、また手を止めた。

「・・・・どうせなら、ルーアンの分も。・・・いや、まてよ。失敗することも考えて・・・。」

 そして翔子はふたり分のそれ・・・・もとい、いくらか大目にそれを自分のかごに入れた。



数日後
「よぉ、ルーアン。元気か?」

「私はいつでも、空にサンサンと輝く太陽のように元気よ!」

「結構。結構♪」

「そういえば、もうすぐバレンタインだなぁ。」

「ねぇ。翔子ちゃん。バレンタインってなに?」

 ズルッと翔子はずっこけた。ルーアンはてをパタパタと振りながら

「いえね。チョコレートを人にあげるのは、テレビとか観てわかったんだけどね。どうしてこの日にチョコをあげるのかなぁって、思ってね。」

 ルーアンの疑問は、もっともかもしれなかった。バレンタインの意味と意義なんてものは、翔子もあまり考えたことは無かったが、元々はどこかの国の風習だか、宗教的行事だったか、さすがに細かいことまでは憶えていないが、すこなくともこの国でののバレンタインは、製菓会社の一大商戦としてでっち上げられたようなものだったはず。さすがにそれをそのまま言ってしまうとあまりにも夢がなさすぎる。どうせだったら自分達だけでも夢のある世界(?)に居ても良いのでは無いだろうか?

「そうだな。バレンタインデーっていうのはな、むかしむかしあるところに・・・・。」


以下翔子の『ああ、これがバレンタインデー』語り

むかしむかし、ある所に一人の男に想いをよせる『可憐な乙女』と、呼ぶには少々はばかりのある、やや歳の行った娘がおったとさ。

『嗚呼、タスケード様ぁ。』


ベシッ!(ルーアンが翔子を叩いた音)

「って、なにすんだよ!?」

「なんとなく、カチンときたのよ!(逆ギレ) やや歳の行った娘って誰のことよ!?」

「うるせぇなぁ。ものの例えじゃねぇか。いちいち揚げ足とるなよ!」

「あ! やっぱり『歳の行った娘』ってルーアンのことだったんじゃないの!」

「『やっぱり』って、かまかけやがったのか!? きたねぇぞ!」

ー暫く御待ち下さいー


「・・・・不毛だな。やめないか?」

「・・・それもそうね。」

「話を戻すぞ。いいな?」

「ええ。」


再び語り

 2月14日バレンタインデーに、娘は男に自分の想いを込めたチョコを渡したんだとさ。

『タスケード様ぁ。どうか私のこの熱い想いを受けとってくださいまし。』

『嗚呼、このチョコの甘い味こそ、ルアーヌの甘く切ない、私への想い。』

『ありがとうルアーヌ。』

こうしてタスケードとルアーヌは結ばれたとさ

おしまい


「とまぁ。これがバレンタインデーだ。」

「・・・・。」

「ルーアン?」

「嗚呼っ、たー様。そんな・・・・そこは・・・。」

「オイ!!」

 ばきっ!

 なにやら不埒な妄想を馳せていたルーアンに翔子の拳がめり込んだ。



「いった〜い。」

 頭にでっかいたんこぶを作って。涙目で訴えるルーアン。翔子は溜息をいついた。

「だいたいなぁ『結ばれる』のところだけ、強調して、妄想なんかするからだよ。あんたの頭の中はレディースコミックの世界か?」

「私の妄想が暴走するのと、翔子ちゃんが私を殴る理由とは全然結び付かないじゃないの?」

「いや、あるぞ。」

「なによ?」

「前にも言ったと思うけど、ここは良い子と良い大人が読む、全年齢対象のお話なんだからな。ルーアンの妄想なんか書いたら、あっという間に年齢制限付きになっちまうよ。」

「まぁ、随分と失礼ねぇ。・・・別に否定はしないけど・・・。」

「おいコラ! まて!」

 再び翔子はルーアンにツッコミを入れた。




山野辺家キッチン

「で、翔子ちゃん。」

「なんだ? ルーアン」

「どうしてこう都合よく、材料とか準備されているのかしら?」

「ん? ああ、それか?」

 翔子は目線を宙に漂わせながらばつが悪そうにあたまをかいて答えた。

「その、なんとなく材料だけ買っちゃてね。あはは。」

「ふーん。そう。」

 とルーアンはなにやら疑いの眼差しで翔子を見た。

「なんだ、その目は?」

「翔子ちゃんチョコをあげる人ってどんな人なのかなぁって思ってねぇ。」

「あたしゃ別に、誰にもあげなくてもいいんだけどね。」

「そうなの?」

「そう。でも一応、今年は七梨にでもくれてやるかなぁって、ちょっと思ってる。」

「どうしてかしら? 翔子ちゃん、まさかたー様に・・・。」

「別に、あいつとは、遊んだり、たまに世話になったりもしてるからなぁ・・・。義理チョコくらいならね。」

「義理チョコ?」

「そう。義理チョコ。『日頃お世話になってます』ってヤツ。」

「へぇ。」


以下翔子の『ああ、これが義理チョコ』語り

「お奉行様、南蛮渡来の『ちょこ』にござりまする。」

「むっ、これは賄賂か?」

「いえいえ。日頃からお世話になっておりまする。『義理』にございます。」

「ほほう。義理か。ならばわしも受け取らねば、『町奉行の七梨は礼儀知らずだ』と笑われていまうのぉ。しかし。義理と言うて、わしに受け取らせるとは。山野辺屋、御主もなかなかの悪よのぉ。」

「いえいえ。七梨殿ほどではございませんよ。」

「「わはっはっはっは。」」

おしまい


 かなり謎が多い語りだったが、あえてルーアンは突っ込まずにいた。

「なら、私も翔子ちゃんに義理チョコをあげなきゃね。」

「っと、ストップ。バレンタインは普通、女から男に渡すものなの。中にはたまに例外もあるみたいだけど・・・。」

「まぁ、いいわ。それじゃ張りきってつくりましょ♪」


 こうして、ルーアンと翔子のチョコレート作りが始まった。ルーアンは家事は下手くそ、翔子もあまり台所仕事はしない。


「うぇ。へんな味がする・・・。分量間違えた。」


「翔子ちゃんこの煙なに?」

「うわっ! 焦げてる焦げてる!」


「zzzz〜。」

「あーあ、居眠りなんかしやがって・・・。あっ! また焦げてるじゃんか・・・。」(トホホ)


「もう、あったまきたわ。『陽天心召来!』」

「うわー! やめろぉ!!」


 もちろん御多分に漏れず悪戦苦闘の連続である。そんなこんなで完成したころには、すっかり夜が明けていた。





「・・・・・あれ? あたし、寝てたのか?」

 テーブルに伏せていた翔子の肩には毛布が掛けられていた。おそらくルーアンが掛けてくれたのだろう。

「おい。ルーアン起きろ。朝だぞ。」

「ああ。もう食べられない・・・。」

 御約束の寝言。

 ぺしっ

「ん? あら、おはよう、翔子ちゃん。どうして翔子ちゃんがいるのかしら?」

 ルーアンは完全に寝ぼけていた。

「ここがあたしんちだからだよ。」

「ああ、そっか。結局あれから力尽きて寝ちゃったのね。」

「ああ。それにても・・・・・・。」

 翔子は言葉を切り、キッチンを見渡す。それは戦場の跡地のように酷いありさまだった。

「・・・・・。か、片付けなきゃな。」

 一応仮眠はとったが翔子はよれよれである。

「学校はいいの?」

「え? もうそんな時間なの?」

 くいっくいっ、とルーアンは壁かかっている時計を指差した。

「げっ。やばい。もう2時間目じゃん。・・・ってあたしは遅刻なんで、どうでも良かったりしてな。あはは。」

「いいから。片付けは私がやるから、翔子ちゃんは学校へ行きなさいよ。」

「ああ、わかったよ。お言葉に甘えて、学校へ行かせてもらうよ。わりぃな、ルーアン。」

 どことなく危なっかしい足取りで翔子はキッチンを後にしようとした。

「翔子ちゃん。」

「なに?」

「忘れ物よ。」

 ルーアンは翔子が作ったチョコを手渡した。

「あっ。」

「頑張って作ったんだから。置いて行っちゃダメでしょう?」

「それもそうだな。」

「私も後片付けが終ったら。必ず行くからね。」

「ああ。」

「じゃ、行ってくる。」

「いってらっしゃい。」


 ぶっちぎりの遅刻をして登校した翔子は結局、午前中の授業をばっちり睡眠に当てた。(オイオイ)



放課後
「ほれ。お前にやるよ。」

 太助に手渡されてそれは、奇麗にラッピングされた。小さな箱だった。

「これは?」

「中を見りゃ、わかるよ。」

「あけていいのか?」

「お前にやったんだ。当然だろ?」

「ははっ、それもそうだな。」

 太助、おもむろにそれを開ける。

「これは? チョコ?」

「ああ。一応今日は、バレンタインだからな。」

「さんきゅ。山野辺。」

 太助は照れたようにそして、嬉しそうに歳相応の少年の笑顔を浮かべた。そんな太助の姿を見て翔子は少し照れた。

「か、勘違いするなよ。義理だからな 義・理!」

「そんなに強調しなくてもいいのに・・・(ちょっとがっかり)でも、これ手作りだろ? ずいぶん手の込んだ義理だな。」

「たまたま暇だったから、ルーアンと作っただけだよ。」

「それでルーアンがお前んちに泊まったのか。」

「そういうこと。」

「しかし、義理でも山野辺からもらえるとは思ってみなかったよ。」

「そんなにあたしからもらえるのが意外か?」

「ああ。とても、すごく・・・。」

「失敬なやつだな。」

「というか、日頃から義理すら受取れる程、お前になにかした憶えはないからなぁ。」

 苦笑気味に言う太助。

「あたしにはあるぞ。日頃か『良いおもちゃ』として、あたしに娯楽と楽しい笑いを提供してくれてるからなぁ。」

 かなりろくでもないことを翔子は良い笑顔で口にした。

「泣くぞ・・・・畜生。」

 どこまで、本気かは判らないが、太助は半分涙目だった。でもそれとこれとは話は別とおもむろにチョコを口にする太助。

「・・・・・。うっ。これは・・・・。」

 太助は、半泣きだった涙目から、涙を流した。翔子は驚いて太助に聞き返す。

「泣くほど美味いのか?」

 ぶんぶんと盛大に首を横に振る。太助はチョコの一欠けらを翔子の口に放り込んだ。

「!! しょっぱい! 塩!?」

 どうやら、繰り返す失敗の中、失敗したチョコをラッピングしてしまったらしい。ということは、上手く行った方はいまごろ『失敗作』として処分されしまったに違いない。

「いや。わりぃわりぃ。来年はきちんと包む前に味見するからさ。勘弁しろ。な? 七梨。」

「来年も期待していいのか?」

「あんたがあたしを楽しませてくれたらね。」

「そりゃねーよ。」

 はっはっはっと二人で笑いあった。



続く


書き零したオチ(あたしの力不足でして・・・)
結局学校に来なかったルーアンを、翔子の家に迎えに行った太助達は、片付いて無い(むしろ器物破損等が増えてる)キッチンを見て呆然。結局三人で片付けるが夜まで掛かってしまった。どうやらルーアンの作ったチョコも、彼女が片付け途中(?)で紛失してしまったらしい。それと、彼女が失敗作を処分(食べてたのね)していたら何故か一つだけ美味しいチョコが混じってたっそうな。


あとがき
どうも、ふぉうりんです。
『さずけて 慶幸日天!』版のバレンタインなお話です。途中話や発言が壊れている節が多々ありますが(苦笑)ついでに時期的にも微妙に過ぎてるし・・・。
ルーアンメインなはずなのに、翔子様メインなお話っぽいし(大汗)
今回のノリだと、ルーアンが更に暴走しそうだったのでつい・・・
日天作品としては、ちょっとヤバイかなぁ

2002年 2月18日 ふぉうりん 
116 Reply 名コンビは今日も暴走(笑) 須坂稔 2002/02/24 11:42
7b68ee
 翔子のバレンタインストーリーとルーアンの名反応、これだけで舞台に立てるのでは。(多分無い)
翔子の太助に対する感謝の気持ちが伝わってきて良かったです。
最後のオチは・・・面白かったです。
117 Reply 翔子さんたらお茶目さん よしむら MAIL 2002/02/27 19:19
003300
翔子の例え話が悪ノリしてて面白かったです。
あと太助、さらっとくさいセリフを言えるあたりさすがです(たぶん自覚無し)
お前はギャルゲーの主人公か(笑)
118 Reply いった〜い!(痛〜い!) ふぉうりん MAIL URL 2002/03/01 03:12
7b68ee
まさか感想にレスを返す羽目になろうとは・・・・

> あと太助、さらっとくさいセリフを言えるあたりさすがです(たぶん自覚無し)
> お前はギャルゲーの主人公か(笑)

言われて胸をえぐられました。イタイイタイ(涙)
う〜ん。ショック
確かに言われてみれば、某藤田君や、某相沢君のキャラが
今回の太助君に入り込んでるかも知れません。
しかし、直で言われると痛いなぁ・・・
119 Reply ああばれんたいん 空理空論 MAIL URL 2002/03/02 09:28
808000
思索する翔子さんが可愛いったら楽しいったら(笑)
バレンタインの意味と意義ってのは、
言葉では簡単に言えるけれども、実際にこうやって行動するとなると、
そりゃあもうたくさんの努力と想いとがあるんだなあと、ひしひしと感じております。
力尽きて寝ちゃってるあたりとか、伝わってきますね。

それにしても…義理チョコ語りはやっぱお気に入りです、はい。
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