106 Reply さずけて慶幸日天! 第十話 海に行こう!? 後編 ふぉうりん MAIL URL 2002/02/09 03:16
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さずけて慶幸日天! 第十話 海に行こう!? 後編

 
「あら、たー様お目覚め?」

 太助の意識が戻り、ゆっくりと瞼(まぶた)を開いた。

「ん、ここは?」

 との太助の言葉に、翔子はわざと人の悪い笑顔で問い掛けた。

「どこだと思う? 七梨?」

 問われた太助は、寝起きの頭で状況把握を行ってみた。まず、気を失った原因は・・・思い出してまた顔が熱くなる。ってそんなことしてる場合じゃなかったと、太助は懸命に、頭の中身を切り替えた。自分の顔を覗き込むように喋るルーアンと山野辺、どうやら自分は寝かされているようだ。そこまではいい。さて、それはどこか・・・なんか、頭の下が柔らかい・・・・こ、これは膝枕というやつでは!?

「え!? これって?」

 太助は赤い顔でルーアンに聞いた。

「しょうがないじゃない。枕になりそうなものがなかったんだから。」

 さも、当然とばかりに答えるルーアン。

「・・・・・」

 太助は、照れと嬉しさと恥ずかしさが入り混じった複雑な表情になった。

「良い夢は見れたかい? 七梨。」

 翔子はニヤリと笑って太助を冷やかした。

「なんだよ。山野辺まで・・・・。」

 太助は言い返せなかった。うーむ。それにしても恥ずかしいところを見られたなぁっと、内心嘆息した。

 そんな様子を見てルーアンはクスッ笑い出した。それは翔子が不器用ながら太助と関わりと持とうと一歩踏み出しているのだから、それが解ってしまったルーアンには、その翔子の姿が可笑しくて可愛らしくてしょうがなかった。

 翔子が『バラすんじゃねぇ!』と凄みの効かせた声が聞こえてきそうな程ルーアンを睨みつける。ルーアンは翔子の睨みを平然を受け流しつつ、目で『ごめんなさいね。』謝った。そしてそれを太助に悟られないように、ルーアンは話を逸らした。

「たー様、いつまでもこうしてる?」

 太助は、はっとなり、起き上がる。

「私は何時まででも一向に構わないわよ(ハート)」






「それにしてもお腹がすいたわねぇ。」

「いわれてみれば・・・。そうかも。」

 と、太助も自分の腹のあたりをさすってみて、ルーアンの意見に同意した。

「そうだな。昼はとっくに過ぎちまっているからなぁ。だれかさんが気絶しててせいでな。」

「まだそういうこというか? 山野辺。」 

 と、太助がすかさず翔子を睨む。

「いやー、わりぃ。わざとだ。」

「後でおぼえてろよ。」

 太助は悔しかったが、ろくに言い返せなかったので、使い古された捨て台詞で締めくくるしか手段がなかった。

 と、いうわけで太助達は遅い昼食をとることとなった。




 海の家では、豪快に昼食を摂っているルーアンの姿が、店中の目を引いた。

 がつがつがつがつがつ。

 一つ又一つと、空になったどんぶりが太助達の前に積み上げられていった。

「あの、ルーアンさん?」

 はたして太助の声が彼女に届いているのかいないのか。それは誰にもわからない。太助はメニューとにらめっこしながら、注文いかに絞ろうかと迷っているルーアンに、つい口を滑らせて『遠慮するなよ。好きなもん食べていいよ。』と言ってしまったことを心底後悔した。

 がつがつがつがつがつがつ。

 途方にくれる太助の肩を翔子は、労わるように軽く叩いた。

「七梨。足りなくなった時は、貸してやるよ。」

「すまん。山野辺・・・。」


30分後

「あー。食べた食べた♪」

 幸せそうに微笑むルーアン。

「そりゃ、あれだけ食べりゃあねぇ。」

 翔子は呆れ気味で返事を返つつも、支払いに行った太助のことが少し気になった。

「うーん。腹八分目ってところかしら?」

「え!?」

 翔子驚き、露骨に嫌そうな顔をした。『人に優しく財布に厳しい慶幸日天』などと謎の言葉まで浮かんで来る始末だった。そこへ払いを済ませた太助が戻って来た。

「どうだった?」

 心配そうに聞く翔子。

「ああ。なんとかぎりぎり足りた。」

「そうか。」

 完全に他人事なのに何故か安心する翔子。

「でもな。」

 と太助が暗い声音で

「でも?」

「その、帰りの電車賃が・・・。」

「わかった。わかったから、みなまで言うな、七梨。帰りの電車賃くらいあたしがおごってやる。」

「すまない。山野辺。恩に着る。」

「もともと誘ったのは、あたしだからな。気にするな。」

 ふと、ふたりは、このやりとりにルーアンが参加してこないことに疑問を覚えた。

「ルーアン?」

 太助がルーアンの方に向き直ると、彼女はお腹の辺りを押さえてうずくまっていた。

「「ルーアン!」」

 太助と翔子の声が重なる。

「お腹が痛い。」

「おい。大丈夫か?」

「ルーアン。しっかりしろ。」

「もう。駄目。」

「ルーアン?」

 心配する太助と翔子を跳ね除けるように立ち上がり、海の家に駆け込んだ。慌ててそのあとを追いかける太助達。

「すいません。さっき、物凄い勢いで女の人が入ってきませんでしたか?」

 ちょうど入り口に居た店のおばさんに、ルーアンのことを尋ねてみると。

「ああ、さっきの女の人かい? それならお手洗いの場所を聞いて、一目散に駆け込んで行ったよ。」

「へ?」

「お手洗い?」

 もっと深刻な事態に陥ったと思っていたふたりは、安堵の息を漏らし安心した。

「なんだ。」

「驚かせやがって・・・・。」

 落ち着いたらなんだか急に可笑しくなった。

「あんた達。よっぽどさっきの人が大事なんだね。お姉さんかい?」

 ふたりは、おばさんに言われた言葉にどきっとした。




 結局ふたりは適当に飲み物でも飲みながら、店の中でルーアンを待つことにした。そして先ほど店のおばさんに言われた言葉を再び思い返してみた。

「『大事』か・・・。」

 思わず太助の口から言葉が漏れる。

「なんだ。七梨もさっき言われたこと考えてたのか。」

「ああ。まあね。」

「ところでさぁ。七梨ってルーアンのことどう思ってるんだ?」

「どうって、言われても。なぁ・・・・。」

 話の流れから行けば自然な展開なのだが、太助は言葉に詰まってお茶を濁すことしかできなかった。

「あたしは、さっき言われて『ああ。そうなんだ。』ってホント思ったよ。」

「あたしにとってはルーアンは『大事な友達』だってな。」

「七梨、お前はどうなんだ?」

 太助は自分に投げかけられた言葉をまっすぐに受け止める。

 太助の中でいろいろなことが思い出される。一人寂しく暮らしていたところに突如現れたルーアン。楽しくて、いっしょにいるとあっというまに時間が経ってしまう。彼女のおかげで家に帰るのが苦じゃなくなった。そして彼女は言った。姉にでも母親代わりにも・・・家族になってくれると言った。


「そうだな。いろいろありすぎて上手くはいえないけど。俺にとってルーアンは『大事な家族』・・・・なんだと思う。」 

「何がいろいろあるのかなぁ?」

 翔子は半ば冷やかすように、

「いろいろあって男心は複雑なんだよ。」

「七梨。安易に『男心』とかいう言葉をつかうなよ。気色悪い。」

「そうか? 山野辺。お前が『乙女心を語る』よりは、マシだと思うぞ。」

「失礼なヤツだな。」

「お互い様だろ?」

「それもそうか。」

 と太助と翔子はふたりで笑いあった。

「あらあら。随分と楽しそうね?」

「あっ、ルーアン。」

「もう、お腹は平気なの?」

「ええ、おかげさまでね。」

「ねぇねぇ。ところでふたりでいったいなんの話で盛り上がってたの?」

「ちょっと恥ずかしくてルーアンには言えない。な? 七梨。」

「ごめん。ルーアン。こればっかりはちょっと・・・。」

「あっ、酷い。そうやってルーアンをのけものにするのね。」

 と、みえみえの嘘泣きをした。





 夕刻

「いやー。今日は楽しかった。楽しかった。」

「ああ。そうだな。」

 結局あのあと、散々遊び倒した。

「それにしても、良かったな七梨。ルーアンの水着姿が見れて。」

「ああ(即答)って何言わせるんだよ!」

「正直で結構、結構。」

「くそ。はめられた。」

 ぶーぶー文句を翔子に言う太助。そんなふたりのやりとりを、少し思案顔で眺めていたルーアンだった。

 そっか。たまーにだったら、ああいう風なのでもいいのね? うふふ。

 と自己解釈をして、何かをたくらんでいた。 
 
「そうそう、ルーアン。男は狼だから気をつけろよ?」(ニヤリと悪人笑い)

「山野辺!」
 
 顔どころか耳まで真赤にして叫ぶ太助。ルーアンはフッと笑って。

「あら、私は、たー様にだったら喰べられちゃっても全然OKよ。」

「「ぶっ!」」(太助と翔子同時に吹く)

 したり顔で笑うルーアンと、ぎょっとして顔を見合わせる太助と翔子の姿がそこにはあった。


 続く




あとがき
どうも、ふぉうりん です。うーむ、二ヶ月以上もサボってこの出来。最悪だなぁ、私。筋は結構前からまとまってたんですけどねぇ。行動に移すのが遅すぎ・・・・。おかげで年越しちゃったし。クリスマスも初詣も流れました。季節ものは難しいですね。ホント。(それは、私は駄目駄目なだけですが・・・)

2002年1月22日 ふぉうりん
2002年2月8日 修正
107 Reply Re:さずけて慶幸日天! 第十話 海に行こう!? 後編 グE 2002/02/13 16:36
cc9999
海でのルーアンと太助とのやりとりがほのぼのしていて良いですね。
見ていてほほえましかったです。
太助の中でルーアンという存在が大きくなっているんだなぁ
と感じました。
(まぁ母性に近いものでしょうね)
翔子と太助もなんか言い感じで良かったです。

> 「あら、私は、たー様にだったら喰べられちゃっても全然OKよ。」
>
> 「「ぶっ!」」(太助と翔子同時に吹く)
ここがルーアンとシャオの違いですね(笑)

あとがきより
>季節もの
私はさいきん季節なんか気にしなくても良いじゃないかぁ
と思い始めてます…(爆)

では
112 Reply 美しきかな 空理空論 MAIL URL 2002/02/18 23:00
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ほのぼのあり、心の交流あり。
私的にやはり、とっても好きな作品です。
所々にある、からかいを含めた彼女らの面白いやりとりは、
見ていて実に飽きないですね。
グEさんも書いてらっしゃいますが、
ルーアンの存在が、いかに太助と翔子にとって大きくなっているか。
そこがとても伝わってきます。
114 Reply アウチ、第10話になってる・・・ ふぉうりん MAIL URL 2002/02/23 22:13
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大チョンボ、11話なのに、10話ってなによ?
お陰で、すぐ傍にある12話との違和感が・・・(爆)
しくしくしく・・・・(涙)
115 Reply 太陽のぬくもり 須坂稔 2002/02/24 11:21
cc9999
 空理さんやグEさんも仰っているように、ルーちゃんの存在が2人にとって大きな存在であることがよく伝わってきます。
 さすがは太陽の精霊。(根拠不明)
全体的に流れよくまとまっていると思いました。
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