321 | Reply | 『プールでGo?』 | ふぉうりん | URL | 2003/10/24 01:57 | |
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8月も終わろうとしていたある日の午後。まだまだ夏は終わらないとばかりにセミ達がうるさいくらいに泣き声を響かせる。七梨家の面々は遅めの朝ご飯を食べ終わってくつろいでいた。 「暑いな…」 「溶けてしまいそうだ。」 「大袈裟だな。」 と太助はキリュウの言葉に苦笑する 「宿題も片付いたし、プールにでも行くか?」 「プールですか? いいですね。」 後片付けの終わったシャオが、キッチンから顔を出して話に加わった。 「学校のぷーるとやらは、今日は解放日ではないはずだが?」 「市民プールに行くんだよ」 「市民ぷーる? そうか、公共のものがあったのか。」 「そっかしばらく行ってなかったもんな。キリュウも来る?」 「行きたいのはやまやまだが、わたしは水着を持ってなくてな」 「そうかそうか、それはいいこと聞いちゃったなぁ♪」 「那奈姉。」 「那奈殿。」 ふたりの言葉には、警戒色が多分に含まれていた。 「今からだと、水着買いに行ってる暇はないなぁ。でも、キリュウもプールには行きたいだろう?」 「そりゃあ、まぁ。暑さが凌げるのならば…。」 「そうだよな。幾ら精霊でも少しくらいは遊びたいもんだしなぁ。」 「那奈殿。別にわたしは遊びたいわけでは…。」 那奈はキリュウの言葉を聞いているようには見えなかったが、そこで何か思いついたらしくポンと手のひらの上に拳を軽く乗せた。 「よーし、いいこと考えた。」 那奈の『いいこと』は、大抵誰かが振り回されるようなことなのが常だ。太助もキリュウも嫌な予感がしたが、つっこめなかった。口を挟んだが最後、もれなくそこから巻き込まれかねないからだ。ふたりはそこまで思い至って何もいえなでいる自分達の小賢しさにお互い肩を竦めた。 「シャオ。」 「はい。なんでしょう?」 「シャオの星神使って、キリュウの水着を見繕ってやろう! そっちの方が時間掛からないしな。」 「なんと!?」 「シャオ、いい?」 「ええ、喜んで♪」 「あたしが良いのを見繕ってやるよ。」 「おねーさま。あたしも、お手伝いしますわ!」 これまで沈黙を保っていたルーアンが絶好のタイミングとばかりに那奈の言葉の尻馬に乗ってきた。 「おっ、ルーアンも乗り気だね?」 「だって、せっかくキリュウが女の子への道を踏み出そうとしてるのよ?(違います)あたしとしては心ばかりの手伝いをしてあげたい訳よ。」 「ルーアン友達想いだな。」 「あら、おねーさまだって、家族想いですわよ。」 「家族想い…そうか? キリュウが家族ね・・・ふふっ、家族か。う〜ん、良い響きだねぇ。」 はっはっはっはとふたりで白々しい笑い声を上げる。 「違う! 絶対違う! あなたたちは面白がってやってるだけだ!」 「どっちでもいいじゃん。」 「どっちでもいいじないのよ。」 ふたりが同時に答える。どうやらこでれが本心らしい。面白半分で着せ替え人形にされてはキリュウとしてもたまったものではない。 「あ、主殿!! た、助けてくれ!」 キリュウは、那奈とルーアンに左右から両腕をがっしりとつかまれ、リビングから引きずられるようにして連れ去られようとしている。彼女は懸命に自由の利かない腕を伸ばして助けを求めた。そうまでされてしまうと、太助も安に見送るわけにもいかず、一応無駄だと思っても、彼女の名前を呼び手を伸ばす。あと一歩というところで手が重なりあおうというところで引きはなされ、どんどんふたりの距離は遠く引き離されていく。そしてとうとうお互いの手が重なり合うことはかなかった。 「キリュウ!」 「主殿!」 どこか映画がかなにかのワンシーンを彷彿させるものあるが、そんなことをしてしまっては、大喜びで悪乗りする連中がこの家に居るのは、分かりきっていることなのだが。それを分かっていてもやってしまうあたり、芸人気質なのか、それともただの天然なのかそれは謎である。 「たー様。残念だけど、キリュウは貰っていくわ。」 「返して欲しくば、キリュウの部屋まで助けにくることだね。」 そんな台詞のあと、ふたりは示し合わせたかのように高笑いで締める。案の定の展開に太助は頭痛を覚えた。ほらね。いわんこっちゃない。太助はキリュウにあわせたつもりなのに、要らない大量の油を火に向かってぶちまけて、もはや鎮火不可能なくらい轟々を燃え上がらせてしまった。悪気はないのだがどこか後ろめたい気持ちなった。 「面白そうだね。」 「フェイ?」 「フェイちゃん?」 「行こうよ。シャオ。シャオが居ないとはじまらないよ?」 「え、ええ。」 フェイはシャオの背中を押してリビングから出て行ったと思いきや、廊下から顔だけ出して太助に向かってこう言った。 「太助。あとで呼びに来るから。それまで来ちゃ駄目だよ。」 「え?」 「なに? 太助はキリュウの着替えを覗く気? それとも見たいの?」 「うえぇっ!?」 太助はフェイの不意打ちに奇妙な声を上げてしまった。 「じゃ、そういうことだから。」 パタンとドアを閉めてフェイ達が階段を登る足音が遠くなっていくのを聞いた。 「………オレは、一体どうすればよかったんだ?」 取り残された太助は、ひとりぼやくしか出来なかった。 「おねーさま、これなんかどうかしら?」 ルーアンは何処からもってきたのか、今年の水着のカタログを広げて、那奈とふたりで吟味していた。 「そうだな。まっ、一応これで行ってみるか?」 キリュウとしてもここまで来ては無駄な抵抗だろうと、腹をくくって大人しくしていた。 「キリュウ。怒ってる?」 「…いや。」 もちろん嘘である。 「でも顔が怒ってるよ?」 「ならば少し怒ってるんだろうな。」 投げやりな声でキリュウは言った。 「少しなの?」 「まぁな。」 フェイに問われた。キリュウは、面白半分とはいえ、自分のためにこうして時間を割いてくれていること。なによりキリュウのためを思ってやっているに違いないということは分かっていたので、腹を立てて露骨に嫌がることも出来なかった。だから、ほんの少し嫌な顔して『本当は少し怒ってます』って主張することでささやかな抵抗をした。もちろん今回の首謀者どもにそれが通用するような道理一切ないのだが。 「よし、シャオ頼む。」 「はい。いきます。来々! 女御!」 シャオが支天輪を構え、女御を呼び出す。彼女の呪言とともに、支天輪が輝きを放ち、その内側より幾本の光の束とともに、女御が姿をあらわした。 シャオは女御に向かってテキパキと指示を出す。 「ええ、これよ。お願いね。」 女御達は頷き、くるくるとキリュウの周りを回りはじめる。 「…っ!」 分かっているのだが、女御で着替えるということは一瞬裸に見えて(なってるのか?)しまうことだろう。同姓しかこの場に居ないとはいえ、強制的に裸にされてしまうのは、あまり気分の良いものではないといえよう。そんな訳で変身完了である。 キリュウの格好は、那奈がシャオに見せた水着のカタログにある。今年の最新モデルだった。 「おっ、いいじゃん♪」 「なかなか似合っててよ。キリュウ。」 「キリュウさん。可愛いですよ。ねぇ? フェイちゃん。」 「うん。そうだね。」 キリュウの水着姿は那奈たちにはなかなか好評だった。 「なぁ、那奈殿。大体水着なんてものは濡れても平気な繊維で体が覆われていれば何だって構わないだろ?」 「駄目でしょ。キリュウ。そういう枯れ果てた考え方は。」 「か、枯れ果てた!?」 「そうだぞ。キリュウにだってめかしこんだ水着姿を見せたいようなヤツの一人やふたりくらいいるもんだろう?」 「………」 不覚にもキリュウはこのとき、太助の顔を思い浮かべてしまった。『そんな者などいない』とすぐに返事が返ってくるものかと思っていた那奈達は「微妙な沈黙と共に眉をひそめて少し困ったようなむずかかゆそうな顔色」というあまりにも予想外の反応に沸きあがった。 「なになになになになに? 居るの? キリュウってば、『可愛い』って言って欲しいヤツが居るの!?」 一同意外そうな声を次々と上げ、その次に来る言葉「誰なんだ?」の質問攻めである。さすがにそこから先はシャオの手前、口が裂けても言えるはずがなかった。 「それだけは口が裂けても言えぬ。後生だから勘弁してくれ!」 「そんなこと言うんだ。ふーん。」 那奈が口の端を吊り上げてニヤリを笑い、パチンと指を鳴らすと、まるで打ち合わせをでもしていかのように、ルーアンがキリュウを羽交い締めにした。 「キリュウ。覚悟なさい。」 「ルーアン殿!?」 「ごめんなさい。キリュウさん。」 「キリュウごめんね。」 「シャオ殿にフェイ殿まで!?」 「や、やめてくれ!」 「あはははは!!!」 「そこは、勘弁…」 こうしてくすぐりの刑(?)が実行されるがそれでもキリュウは口を割らなかった。さすが試練を課す大地の精霊、万難地天。忍耐力と確かな我慢強さを見せた。 「か、勘弁してくれ…。」 とはいうものの息も絶え絶えでボロボロなのだが。 「那奈さん。ルーアンさん。キリュウさんが可哀相です。」 「そうだよな。ここまでやって吐かないんだから、そろそろ見逃してやるか。」 「そうね。あんまりいじめちゃうとかわいそうだしね。」 十分いじめすぎである。 「楽しかった。」 「フェイ!?」 「フェイちゃん!?」 フェイの言葉に彼女の行く末に不安を覚える。那奈とシャオだった。 「これは少し肌の露出多くないか?」 「そうかしら?」 「少しくらいすくなくてもいいのよ。減るものじゃないし。」 「そういう問題ではないだろうに…じゃ、どういう問題?」 「私が恥ずかしい…」 「やっぱりそこかぁ、それじゃ、次。」 あまりにあっさり引き下がる那奈達にキリュウは逆に拍子ぬけしたので、どうしてかと聞いてみると、まだまだ、沢山着せるんだから、どんどん次にいこうということらしい。当然その言葉を聞いたキリュウは諦め混じりのため息をつくことになる。 「次これなんかどうかしら?」 「これですか?」 「でもこれってキリュウよりもルーアンって感じだよな?」 「そう?」 その水着はヒョウ柄ならぬ。虎柄だった。そんでもって、ハイレグ。 「こ、これはその勘弁してくれ…。」 流石にキリュウも顔を赤らめていた。 「やっぱりあんたじゃ、あんまり似合わないわね。」 「こんな恥ずかしい格好勘弁してくれ。」 「今なんつったぁ!?」 「まぁまぁ、抑えて抑えて。キリュウも悪気があって言ったんじゃないんだからさ。」 とルーアンをなだめる那奈。 「悪気があたら、尚悪いわよ!」 もとっもな言葉だった。 ビキニ、ワンピース。きわどいものに、セクシーなもの、はたしてこれで何着目だろうか…。キリュウはいいかげんうんざりしていた。 そんななか、キリュウ自身の趣にも合うもので、なおかつ那奈たちを納得させるものをどうにか見つけた。 「いいんじゃないか? 良く似合ってる。」 「そうね。やっぱりキリュウには、地味っていうか落ち着いた感じの方が似合うものね。」 そんな訳でお披露目タイム。キリュウの部屋へ呼ばれた。 「はいはい。それでは、ごたいめーん♪」 那奈が勢い良くドアをあける。 その先に頬を染めて、伏目がちにうつむいている水着姿のキリュウが立っていた。 「どうだ? 太助。」 キリュウは最終的に黒のワンピースの水着姿だった。因みにスクール水着ではない。シンプルで飾り気があまり無く、それで頑丈で体の動きを阻害しないように工夫されているようで、見栄えよりも機能性を重視している点が、非常にキリュウらしかった。 「ん? 似合ってて、良いんじゃないの?」 何の気無しの太助のしれっとした反応にキリュウは内心密かにがっかりしていた。まぁ、所詮はこんなものか…と。 「太助、お前・・・ほんーっと気の利かない男だな。お前は女心をわかってないね。」 「たー様。それじゃ全然駄目よ。」 「…太助。」 「…太助様。」 女性陣の皆様に次々に非難の言葉(シャオにまで!!)と、わざとらしい咳払いを浴びる。太助は、仕方なく(本当に気の利かない男だな)言葉を選び直す。 「その…よく似合ってるんじゃないかな。…良いと思うよ。 」 今度と太助の言葉に十分気持ちがこもっていたが、キリュウは小さくため息をひとつ吐き。 「…無理して、誉めなくても良いぞ。主殿。」 「え?」 「主殿は、これが私に似合ってるというのだろう?」 「あ、ああ。」 生返事でうなずく太助。 「そうか。ならそれで十分だ。」 「あら〜キリュウたっら意味深な発言ねぇ。」 「そうか? この家には男性は主殿しか居ないではないか。私が気に入って、那奈殿達が、これが似合ってると言って、主殿がこれで良いといえば、十分ではないか?」 「確かに、それもそうだね。」 「なーんだ。あたしはてっきり。」 「てっきりなんだというのだ?」 「うわっ、キリュウ恐い顔しないでよ。」 「せっかく可愛い水着を着てるのに、そんな顔したら台無しよ?」 「か、可愛いっ!?」 「ふふ、そんな風に照れたりする所なんて、初々しくてもっと可愛いわよ。思わずいじめたくなっちゃうわ。」 ルーアンの問題発言(?)にたじろくキリュウ。 「ルーアン。それってちょっとあぶないよ…。」 「気持ちは分からなくもないけど・・・」 とニヤリと笑うフェイ。 「フェイ殿まで・・・(汗汗)」 「キリュウさん可愛いですよ(はーと)」 シャオは故意とか他意とかなしに、素直に言っているのだろう。今ここにいる連中のなかでもっとも頭の中が平和だった。 「さて、準備が整ったね。いこうか?」 「って、那奈姉も?」 「そうだよ。あたしがきちゃ悪いのかい!?」 「いや、そんなことはないけど。」 「それじゃあ、行きましょうか。」 「楽しみだね。」 「そうだ。翔子たちも誘うか?」 「いいですね。」 わいわいと騒ぎながら、外へ出て行く七梨家一行。 ギィィィイ、パタン。 閉まる扉。少しずつ遠くに聞こえていく足音と楽しそうな声達。 『あら、いけないわ。戸締り忘れるところでしたわ!』 たったったった、と駆け足の音が近づいてきて、ガチャっと外から鍵が閉める。それじゃあ、いってきまーす! の元気な声と共に、また駆け足の音が遠のいていった。 今日は楽しい思い出が作れそうだ。 おしまい あとがき どうも、ふぉうりん です。本当は夏に終わっていないといけない話だったのですが、いつのまにか、秋の深まる頃まで放置となってしまいました。m(_ _)m 個人としてはキリュウの水着ネタが書けてほくほくですが、読者様方にも楽しんでいただけたら幸いです。 那奈姉に毒されて(?)シャオとフェイまで悪ノリしている節もありますが、これもイベントってことで、ちょっとハメ外してます(笑) ではではこれにて 2003年10月23日 ふぉうりん ちょっとぼやき、今自分のサイトのサーバーがメンテナンス中なんで、更新できないのよ… |
323 | Reply | Re:『プールでGo?』 | Foolis | 2003/10/24 19:36 | ||
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家のパソコンが電源入らない状態のFoolisです(←対抗(苦笑 水着に着替えるときにテレまくっているキリュウがいい感じですね。 キリュウ萌えの私にとってはとくに(苦笑 太助にかわいいといってもらいたいキリュウもいい感じですしね。 よかったです では |
324 | Reply | プールには… | 空理空論 | URL | 2003/10/27 00:55 | |
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プールよりも水着がメインな今日この頃の話ですが(謎爆) キリュウと太助君が微妙な被害者に見えて仕方ないです。 とはいえ…なんだかんだで楽しんでたようにも見えます。 (くすぐり地獄はどうだかしんないけど<笑) しっかしなんちゅうか、夏になるたびこんなイベントやってそうですね、七梨家(爆) 「キリュウ、去年の水着も飽きただろ?新しいのを選んでやるよ」 「いや、別に飽きるほど着ては…」 「だぁめだめ。流行を追わないと!」 とかって(強引な理由をつけて) 結局大変そうだわ(爆) |
331 | Reply | ドナドナ〜 | よしむら | 2003/11/12 08:49 | ||
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キリュウが連れて行かれるシーンで何故か 頭の中でドナドナが流れました(笑) 何故だかキリュウはこういうネタが似合いますね。 けっこう可愛く見えましたし。 なんだかんだで人気者だなぁ、キリュウ。 |
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