[193] パラレルワールド日記 雛菊編 その2
投稿者名: ふぉうりん (ホームページ)
投稿日時: 2001年7月8日 15時43分
一室を提供された彼女達は、すでに布団の中に居た。 紀柳「・・・・眠れない」 紀柳は誰にとも無く呟く。彼女はいつもと違う枕と、数時間前に見た捕りものの光景と、人様に家なので安心して朝起きる為の仕掛を準備出来無い事が気になって(結構多いなぁ)なかなか寝付く事が出来なかった。 紀柳「なぁ、翔子殿・・・」 紀柳は試しに隣りで寝て居る翔子の名前を呼んでみた。 翔子「スゥー、スゥー」 返事は無かった、その代わりにそんな紀柳の事など知った事じゃないと言わんばかりに無遠慮なほど気持ち良さそうな寝息が聞こえて来た。紀柳はそんな翔子を羨ましく思いつつも、逆恨みだと解っているのだが少々腹が立った。 紀柳は静かに溜息を吐いた。と、その時。
ギシッ
彼女の耳に床が軋む音が聞こえて来た。・・・・この音は・・・誰か居るのか? こんな時間に? もしかしたら・・・・捕り方の家に泥棒などとは、洒落にならない、ここは一宿一飯(飯はご馳走にはなっていないが)の礼があるので、もし泥棒かなにかだったら捕まえようと、紀柳は布団から出た、そして翔子を起さないように、足音を殺して慎重に歩き出す。 縁側に出た紀柳は人影を見つける。そして自分の想いが杞憂に終った事に安堵に息を漏らした。 雛菊「あっ、紀柳さん。起しちゃった? ごめんなさいね」 紀柳「いや、気になさるな雛菊殿。私も丁度眠れなかった所なのだ」 雛菊「そうだったんだ」 紀柳「雛菊殿はなにをしているのだ?」 雛菊「月を眺めていたの、今日の月はなんだかいつもより綺麗に見えたから」 紀柳は雛菊の言葉から、同じような事言いそうな身近な人物を思い出す。 雛菊「? どうしたの紀柳さん? 顔が少し笑っているいけど、私何か変な事言った?」 言われた紀柳は少しドキッっとした。顔に出ていたのかと、思い出し笑いとは我ながら不気味な事をと 紀柳「す、すまない、雛菊殿、私の友達に貴方を同じような事をよく言う者が居てな、ついその者の事を思い出してしまって、どうやら顔に出してしまったようだ。恥ずかしいところを見せてしまったな」 雛菊「ふーん。そうなんだ」 雛菊は大して興味が無さそうに返事をした。 紀柳「ところで、雛菊殿」 紀柳は話題を切りかえようとする。その声は一段トーンを落したまじめな声だった。 雛菊「なにかしら?」 紀柳「石川夢幻斎は、捕まえられそうか?」 突然の紀柳の突飛な問いに雛菊は戸惑った。 雛菊「なっ! それどういう意味よ!」 雛菊は声を荒げる。 紀柳「静かにされよ。声が少し大きいぞ、雛菊殿。寝て居る者達が起きてしまう」 雛菊「・・・ごめん」 紀柳「そうだ、静かにされよ」 雛菊「私が夢幻斎を捕まえられるかって? 当然よ。私は捕り方13代目、如月雛菊よ、石川夢幻斎を捕らえる事が使命なのよ。当然じゃない! 当然よ・・・・」 雛菊の言葉はどこか空元気のようにも聞こえ、語尾の調子がだんだん弱くなっていった。 紀柳「どうされたのだ? 雛菊殿?」 雛菊「・・・なんでもない・・・」 紀柳「そんな様子で何でも無いことはないだろう?」 雛菊「・・・・・今日会ったばっかりの人にこういう事言っていいのかなぁ?」 雛菊が躊躇していると紀柳は 紀柳「雛菊殿、我々が初めて会ったのは昨日だよ。だから気にすることは無い。胸の内に溜めこんでいるよりは口にした方が少しは楽になるかもしれないしな。こんな私で良ければ、話でもなんも聞こうじゃないか」 雛菊「紀柳さん・・・・ありがとう」 改まって面と向かって言われてしまうとやっぱり紀柳は照れていた。 紀柳「い、いや、雛菊殿・・・そう、あ、改まって礼を言うようなことでは・・・・」 雛菊「?? 紀柳さんどうしたの? 顔が赤いわよ?」 紀柳「い、いや、なんでも無い・・・気になさるな。話を続けてくれ」 雛菊「そう? 紀柳さんがそう言うなら・・・・石川夢幻歳って義賊なのよね。初めて会った時に、なんて凄い人なんだろう! って正直思ったわ。捕まえるべき宿敵にも関わらず、不覚にも格好良いとも思ったわ。それでいて、町内の瓦版に、夢幻斎の活躍が書かれると、町の皆は喜ぶの、いまではちょっとした町の人気者。悪い事して皆に喜ばれてるのよ!? ・・・・私達のしようとしている事ってなに? 一体なんなの? 町の人気者を捕まえようとして、でも捕まえられなくて、それでも捕まえなきゃいけなくて・・・・お母さんと約束したから、必ず捕まえるって約束したから・・・」 雛菊はいつの間にか本人も知らないうちに涙を流していた。 紀柳「・・・つらいな・・・雛菊殿・・・」 紀柳は雛菊の頭を抱き寄せて、彼女の頭を優しく撫でた。雛菊の話はまだ続く。 ・ ・ ・ 雛菊「・・・・・・それでね、夢幻斎が現れる時はいっつも剣は居ないのよ! そのせいでもしかしたら、剣が夢幻斎じゃないか? って思った頃もあったわ、もしそうだったら、剣が居なくなっちゃうのよ!? 昔に戻るだけなのに・・それだけなのに、なんだか胸が痛くなって・・・・」 最早夢幻斎の話ではなく剣の話まで入り混じっていたが、紀柳はそれを咎めること無く、静かに聞いていた。 ・ ・ ・ 雛菊は散々喋って、泣きつかれていつしか眠りの淵に落ちていた。紀柳は自分の腕の中で寝息を立てる雛菊に、家族にもなかなか喋れないようなこともあるのだなと思った。 紀柳「・・・・私が聞きたかった事は、個人的感情のことでは無くて、身体能力的な事を聞きたかったのだがな・・・・」 静かに紀柳は苦笑した。
翌日 翔子「オラ! 起きろ! この寝坊助精霊!!」 紀柳を罵倒する翔子の声が如月家に響いた。 紀柳「昨日は遅かったんだ、翔子殿、もう少し・・・」 翔子「そんな事知るか! 雛菊達だって飯食ったら仕事場に行っちゃうんだぞ! 居候のあたし達が最後まで家に居ちゃ流石に不味いだろ?」 大声で翔子は紀柳に当たる。居候のうえに家主に迷惑をかける、不届き千万もいいところだ。 小梅「そのことなら心配いらないよ。今日はわたしが家に居るから」 紀柳「・・・だそうだ、翔子殿私はもう少し眠りたい・・・」 翔子「・・・・ったく、しょうがないなぁ・・・」 翔子は渋々納得した。 小梅「翔子お姉ちゃん。一緒に遊ぼ(は〜と)」
石川夢幻斎対策課 雛菊「〜♪」 椿 「あら、雛菊今日はなんだかご機嫌ね?」 雛菊「そう? そう見える? やっぱり人間なんだかんだって言ったって、溜め込むのは良くないってことよね?」 椿 「?? 言いたい事は判るけど、何かあったの?」 雛菊「ん〜、ちょっとねぇ」 椿 「ふーん」 雛菊「それにしても紀柳さんって良い人ね」 椿は雛菊のこの言葉で、大体なにがあったのか大方の予想がついた。 椿 「それにしても今日の雛菊は本当に良い顔してるわね。剣君も見惚れちゃうかもね?」 雛菊「そう?(ちょっと嬉しそう)・・・なっ! なんでそこで剣の名前が出て来なきゃいけないのよぉ!!」 雛菊は顔を真赤にして叫ぶ。 剣 「あの〜。僕のことがどうかしましたか?」 見計らったかの如くに剣が外から帰ってきた。 椿 「ねえ、剣君」 剣 「はい?」 椿 「今日の雛菊って・・・」 雛菊「うわー! ちょっとやめてよ! お姉ちゃん!!」 今日も石川夢幻歳対策課は平和だった。
続く
ここまでのあとがき このお話を書くのはえらく久しぶりですね(苦笑)サボりまくりです(爆) 一応大筋は決まってますので、また気が向いたら書くでしょうね(笑)
では、そのときまでごきげんよう
2001年7月8日 ふぉうりん |
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