197 Reply 魔人戦記A よしむら MAIL 2002/10/06 09:44
003300
「謎の放火再び…物騒だなぁ…」
少年は新聞の朝刊を眺めながら
誰に言うわけでもなくつぶやいた。
「そろそろ出発しないと、学校遅刻するわよ?」
「はーい」
母親に急かされ、少年はカバンを持ち出発の準備を整えた。
「じゃ、いってきまーす」
そう言って少年は元気に学校へと出掛けていった。
少年の名は一野詠輔(いちの えいすけ)。
高校2年生のごく普通の少年だった。


「一野くーんおはよーう」
登校途中の詠輔の元に一人の女生徒が話しかけてきた。
「あぁ、柏さんおはよ」
詠輔も慣れた様子で相手の女生徒に挨拶をかわした。
「へへ、今日も一緒だね」
「そりゃまぁ、家が近くだしね」
「うー…」
詠輔のそっけない反応に柏はやや不満そうだが
めげずに新たに会話を繋げた。
「そういえばまたあったみたいね、例の放火事件」
「みたいだね、今朝の新聞にも載ってた」
「あれってなんだか近くの街ばかりよね…
もしかしたらそのうちこのへんにも来るんじゃないかしら…
怖いわねー…」
「まぁ警察も捜査してるし、そのうち捕まるんじゃない?」
「うーん、そうだよね」
そうこうしてるうちに二人は学校に到着。
ちなみに二人はクラスも同じである。

1時間目。
この日の最初の授業は国語の現代文。
女の先生が教壇に立ってまずは挨拶から始まった。
「はい、みんなおはよう。授業を始める前にこの前出した課題、
出席番号順に提出してもらえるかな」
という先生の声に従って出席番号1番の詠輔がまず提出。
その後、他の生徒達も各自、やってきた課題を教壇に置いていった。
ただ一人を除いて。
「あら…火野山君、あなた課題は?」
火野山と呼ばれた男子生徒はめんどくさそうに答えた。
「忘れた…」
「火野山君、あなた最近全然まともに課題提出してないじゃない。
ダメよそんなことじゃ、遅れてでもちゃんと提出するのよ?」
「ちっ…」
火野山は小さく舌打ちしてそのままそっぽを向いてしまった。
「それじゃ…授業始めるわね」
そうしてしばらくは普通に授業が進んでいった。
だが十分をすぎたあたりで先生が火野山の席の前に立った。
「火野山君…起きなさい…」
困ったことに、火野山は授業中に熟睡していたのである。
「起きなさい火野山君!」
さすがに少し怒った先生が火野山を怒鳴り起こした。
「んん…」
火野山は不機嫌な顔をして先生を見た。
「んだよ…こっちは寝不足だっつーのに…」
「だからって授業中寝る事はないでしょ!
課題の事といい、最近あなただらしないわよ、
もっとしっかりしなさい!」
「くっ…」
先生に叱られた火野山の顔に反省の色は見えず、
あるのはただ憎むようにぎらついた目だった。


時は流れて放課後。
早いと思うかもしれんが一般的な光景故
特筆すべき事がなかったと解釈してほしい。
「では今日の授業はこれで終わりだ。
知ってると思うが最近この近辺の街で
放火事件が多発している。各自気を付けて帰って、
夜はあまり出歩かんようにな。以上」
担任の先生(国語の先生とは別人)の話が終わって
ホームルーム終了。
詠輔もさっさと帰り支度をして教室を出ていこうとした所に
柏が駆け寄ってきた。
「あっ、一野君もう帰るの?」
「うん、特に部活も入ってないし」
「そっか…帰ったらどうするの?」
「いや…特にする事もないよ。
適当に本読んだりゲームしたり…そんなとこだよ」
「ふーん…でもそれって少し退屈じゃないの?」
「少しね、でもいいじゃない。平和な証拠だよ」
「そんなもんかな…あ、私はこれから部活だから。
じゃ一野君バイバイ」
「うん、じゃあね」
それだけ言って帰っていった一野の背中を
柏はただぼーっと眺めていた。


その日の深夜。
「はぁー…私の意気地なし…」
柏は自宅で明日の準備をしながら溜め息をついていた。
「一野君とは付き合い長いから…いまだに友達って雰囲気なんだよね…」
と、ぼやきながらカバンを整理していた時、
「あっ、これって…いけない、先生に本借りてたんだ」
カバンの中から国語の先生に借りていた物を見つけ出した。
借りっぱなしだったのをすっかり忘れていたのだ。
「先生の自宅ってこの近くだよね…返しに行こうか」
そう思った柏は本を持って深夜の町へと出掛けていった。

「えっと…この辺だったよね」
真っ暗な夜道を柏は一人歩いて先生の自宅へと向かっていた。
その歩くペースは少し早めだ。
「最近物騒だしさっさと返して帰ろうっと…あった、あれだわ」
ようやく視界に目的の家をとらえた柏は
やや小走りにその家へと向かっていった。
その時だった。

ボワァッ!!

「えっ!?」
突然、先生の家が巨大な炎に包まれたのだ。
「ど、どういうこと!?まさかっ!?」
柏は連続放火事件の事を思い浮かべた。
しかし妙だ、いくらなんでも火のまわりが早すぎる。
というか一瞬にして家全体が炎に包まれる事ってあるのだろうか?
「あ…」
不意に、柏は燃えさかる家の前に一人の男が立っているのを見つけた。
男は柏の方を振り向き――目があった。
「…見たな」
その男は、間違いなく火野山だった。

「ちょっと大変よ!この近くで火事だって!」
部屋でくつろいでいた詠輔の元に母親が慌てて乗り込んできた。
「うっそ、マジで!?」
すぐさま窓を開けて外を見てみると
向こうの方が赤く光っているのが見える。
「例の放火事件がついにここまで来たのか!?」
それを見た詠輔はこの時、直感で何かを感じ取った。
(なんだろう…何か嫌な予感がする…)
「あっ、詠輔どこ行くの!?」
母親の止めるのも聞かず詠輔は慌てて
外に飛び出していった。

外はけっこうな騒ぎになっていた。
現場近くに行くにつれ、火事を見に来た野次馬であふれていく。
詠輔は人混みの中で辺りを注意深く見回していた。
(くそっ…何かよくわかんないけど胸騒ぎがする!一体何なんだ!?)
やがて詠輔は人混みを外れた路地裏に入っていった。
「こっちか!?」

「はぁ、はぁ」
柏は必死に逃げ回っていた。
そしてその後を冷たい表情をした火野山が追いかけていた。
「ちっ、逃げ足だけは早いな」
柏をなかなか捕らえられない火野山は少し苛立っていた。
「これでもくらえっ!」
そう叫んだ火野山が手の平を前に突き出すと、
ボワァッ!
手の平から炎が噴き出して柏を襲った!
「きゃっ!」
幸い直撃はしなかったが炎が足をかすめて軽く火傷を負ってしまった。
「い、痛いよ…」
それでもなんとか逃げ続けたが痛めた足では思うように走れず、
いつしか柏は町外れの広場でとうとう追いつめられてしまった。
「もう逃げられないぜ…」
「なんで…なんで火野山君がこんな事を…」
「へへ…恨むんなら自分の運のなさを恨むんだな。
見られちまったからには生かしておけないんでな」
「い、いや…助けて…助けてぇーっ!」

「柏さんっ!?」

柏が悲痛な叫びをあげた時、
広場に走ってきた詠輔が現れた。
「火野山…?なんでここに…」
「一野君!火野山君が先生の家に火をつけたの!」
「えぇっ!?」
柏の発言に驚いた詠輔は火野山を見つめた。
「柏ぁ…お前もひどいヤツだなぁ…
もう一人始末しなきゃいけなくなったじゃないか…」
にやりと笑った火野山はその手の平を詠輔に向けた。
「一野君っ!」
ボワァッ!
火野山が手から噴き出した炎は確かに詠輔を狙ったが
足を負傷しているとは思えないスピードで慌てて駆け寄った柏が
かばって突き飛ばしたためなんとか直撃は避けられた。
「大丈夫!?」
「なんとか…それより、今のは一体…」
詠輔はついさっき火野山の手から炎が噴き出してきたのを見て
やや混乱していた。
明らかにアレは人間業ではない。
「信じられないって顔だな…まぁこれ見ろや」
そう言って火野山は自分の左手の甲を二人に見せた。
そこには『F』の文字が浮かんでいる。
「こいつはな、魔人の紋章さ。俺は人間じゃねぇ。
魔人なんだよ」
「魔人…?ふざけた事言うな!?」
「じゃあ俺のこの力をどう説明するんだ?」
嫌味な表情を浮かべたまま火野山は話を続けた。
「俺がこの力に目覚めたのは一月くらい前か…
最初は俺もびびったが慣れていくと
こいつはとても使える力だって気付いた。
俺はこの力でいろんな物を燃やしまくっていたのさ」
「一連の放火事件はお前が犯人か!」
「そうだ!なにしろ火元が現場に残らないからな、
誰も俺の仕業だって気付かないんだ!
柏に現場見られたのは失敗だったけどな」
「なんで!なんでこんな非道い事するの!
死んだ人だっていっぱいいるんだよ!?」
「たいした理由なんてねぇよ。
俺はこの力で好き勝手に遊んでいただけだ。
先公の家燃やしたのは今朝むかつく事言われたんでその仕返しだ」
「なによそれ!?そんなんで何の罪もない人達を何人も…
しかも今朝のそれも完全な逆恨みじゃない!」
「あーうるせーうるせー。どうでもいいだろうが、
これからお前ら死ぬんだしよ」
そう言って手の平を二人に向けた火野山。
「うぅっ…」
先程の炎を思い出し一歩引く詠輔。
だがそこで詠輔は後ろにいる柏の様子に気付いた。
「ど…どうしよう…一野君…」
柏が恐怖でガタガタと震えていた。
付き合いの長い詠輔も柏のこんな姿は初めて見る。
「くっ…」
詠輔はここまで来たのに何も出来ない自分に悔しさを覚えた。
「焼け死ねやぁっ!」
火野山の手から大きな炎が噴き出して二人に向かってきた!
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」
詠輔は無駄だとわかっていながらも
夢中で柏をかばうように立ちはだかった!

バシュッ!

「!?」
思いがけない展開にその場にいる全員は一瞬、我が目を疑った。
詠輔の少し前で炎が弾かれるように拡散して消えたのだ。
「どうなってんだ…」
「一野君!?左手が!」
「ん…?」
柏に言われて詠輔は自らの左手を見てみた。
すると左手の甲に火野山のように文字が浮かび上がって
ぼんやりと輝いていた。
火野山の『F』に対して詠輔は『A』だ。
「なんだこりゃ…」
詠輔は左手に浮かんだ『A』の文字を見つめていた。
同じようにその様子を見た火野山が不敵に笑い出した。
「くくく…なんだ、そうか。お前も俺と同類か」
「同類?どういうことだ?」
「言ったままだ。お前も俺と同じ、魔人なんだよ」
「なっ…ふ、ふざけんな!そんな話あるわけないだろっ!」
「そうか?だが感じねぇか?その紋章から
感じた事もねぇような力が沸いてくるのがよ…」
「くっ…」
認めたくないが、それは正しかった。
左手を中心に不思議な力が自分の中で高まっていくのを
詠輔は確かに感じていた。
「俺にはわかるぜ。そもそもお前がこんな所に現れたのも
魔人の力に呼ばれて来たんだろうなぁ」
それも詠輔には納得できた。
なんとなく感じていた妙な予感はきっとこれだったんだと。
「すげぇ力だろう!?俺はこの力でなんでも出来るようになった!
気にいらねぇヤツはみんなこの力で燃やしてきた!
この俺に説教たれやがった生意気な教師もな!」
そうまくし立てる火野山の目は、邪悪に輝いていた。
魔人に覚醒した火野山は人の心も失ってしまったのだろうか。
「さぁ一野!お前も俺と一緒に暴れまくろうぜ!
その力でくだらねぇもの全て壊しまくるんだ!!」
詠輔に邪悪な誘いをかける火野山。
だが、詠輔の答えは彼の予想されたモノではなかった。
「…いやだ」
「は?」
「いやだ!魔人だかなんだか知らないが
俺は人間の一野詠輔だ!俺はお前みたいにはならない!」
はっきりとそう答えた詠輔に火野山は嫌な笑いを浮かべた。
「おいおい…何おかしな事言ってるんだ?
この力があれば、なんでも好きな事が出来るんだぜ?
くだらねぇ人間のプライドなんて捨てちまえよ」
「黙れ!俺は今まで人間として育ってきたし、
これからもそのつもりだ!火野山!お前だってそうだろう!」
詠輔は何とか説得しようとしたが
火野山は嫌な笑いを浮かべたままこう答えた。
「俺は他の人間がどんな目にあおうが知ったこっちゃねぇ。
むしろ今まで俺を見下してきた連中を
虫みてぇに簡単に殺せるようになったんだ!
俺は今最高の気分だっ!!」
「火野山…」
詠輔は理解した。もう火野山に話し合いなど無意味だと。
「それなら…俺がお前を止める。
俺が力ずくでもこんな事やめさせてやる!」
「ほぉ…やんのか?おもしれぇ、お前の力がどれくらいのもんか
見せてもらおうじゃねぇか!」
火野山の手が光るとそこから真っ赤な炎が噴き出してきた!
「くらえっ!」
「うわっ!」
詠輔は素早い動きでそれをかわした。
簡単に言うがこんな事人間に出来やしない。
詠輔の力だからこそ出来る芸当である。
火野山は連続で炎を噴き出してくるがそれら全てを
詠輔はかわしていく。
「おらどうしたぁ!よけてばっかじゃ何もできねぇぞ!」
確かに火野山の言うとおりだった。
というか詠輔は魔人に覚醒したばっかりで
どうしたら攻撃出来るのかわかっていないのである。
「くそっ、止めるって言ったもののどうしたらいいんだ!?」
「ふん、しかしよけられてばっかりってのも癪だな。
よし、これでどうだ!」
火野山は狙いを柏に定め、炎を噴き出した!
「きゃーっ!」
「柏さんっ!?」
慌てて柏をかばって立ちはだかった詠輔に
炎が襲いかかってくる。
「くっ、思わず出てきたけどどうしようっ!?
えーい、ちくしょう、なんとかなれーっ!」
ボゥンッ!
やけくそ気味に詠輔がパンチを振るうと、
炎が散り散りになって消えていった。
「なにぃっ!?」
「…うそぉん?」
火野山は信じられないといった表情で驚いていたが
実際は詠輔本人が一番驚いていた。
「くそっ、そんなはずがねぇっ!」
再び火野山が炎を噴き出してきたが
やはり詠輔のパンチで消えてしまった。
「…もしかしてホントになんとかなるかも!」
自分の有利を悟った詠輔は一気に火野山に向かって突進した。
「うぉぉぉぉぉぉ!!」
「こ、この野郎っ!」
何度も炎を噴き出して攻撃するが
詠輔には火傷一つ負わす事も出来ず、
あっという間に詠輔は火野山に接近した。
「火野山ぁぁぁぁぁぁ!!」
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
バキィーーーーーッ!!
詠輔のパンチが火野山の顔面にモロに決まって
火野山はそのまま後ろに倒れた。
「悪く思うなよ…今殴ったのはお前が今まで壊したり
殺したりしてきた事に対する…罰みたいなもんだ」
「くっ…」
よろよろとふらつきながら火野山は立ち上がった。
「えらそうな事ぬかしやがって…お前このままで
すむと思うなよ…この借りはいつか絶対返してやるからな!」
「あっ!」
火野山は人間ではありえないジャンプ力でその場から
逃げ去っていってしまった。
「行っちゃった…」
「あぁ…あ、柏さん大丈夫だった?」
「うん、私は平気だよ、一野君が守ってくれたから…ありがと…」
「いや、まぁ…うん、無事でよかったよ」
とりあえず危機は去った事に安堵した詠輔は左手を見た。
ぼんやりと輝いていた『A』の文字はいつの間にか消えていた。
だが詠輔は直感していた。
自分が何か想像もつかない力を持ってしまった事。
そしてこれからもっと大変な事が待ち受けている事を。
「…どうしよう…俺…」



後書き
ひさしぶりのバトルネタ。
だいぶ前から考えていたネタでしたがやっと書けました。
紋章の文字には一応意味があるんですよ。
もし続きが書けたらその辺も書きたいですな。
199 Reply 魔人ってなんでしょうね… 空理空論 MAIL URL 2002/10/12 01:35
cc9999
何気なく思ったのはこのこと。
一体何から生まれ来るものなのか。何をもってそう呼ぶのか…なんて。
突然常識外れの力を持った人間っていうのは、
果たして元の人間でいられるかどうか…というのをよく表した話でしたね。
(やっぱり人は変わりやすいものなのかなぁ)
文字はAQUAとFIREの頭文字ってとこですかね?(なんとなく予想)
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