[28] Looking For(短編その3)
投稿者名: 空理空論 (ホームページ)
投稿日時: 2000年11月16日 17時40分
『炉端』 ※膝を凍えさせ着いた人には 火が必要だ 山々をこえてきた人には 食べ物と衣服が必要だ
それはすごく寒い、雪が激しく降っているある日の事だった。 当然客なんてこんな日に来るはずも無く(いや、少しは来ていたが) 俺は店の奥に座って、魚達に囲まれながら外の景色をじっと見ていた。 「はあ、こんな日に店を開けてるのって俺くらいのもんかなあ。 ま、年中無休だけは破るわけにはいかないからな。」 実は台風が来た時にも無理に店を・・・なんて事はさすがにしなかったが、 よほどの事が無い限りは魚屋は営業中だという事にしている。 なんつっても体は丈夫だしな。魚を求めてくる客に少しでも・・・ 「おっと、そうこうしているうちに来た来た。 いらっしゃい!・・・ってなんだ、師走に智子ちゃんじゃねーか。」 頭に雪を積もらせている状態で、二人はやってきた。 相変わらず師走の奴が智子ちゃんを引っ張りまわしてるみたいだな。 やれやれ、彼女ももうちっと他にやりたい事があるだろうに。御苦労だねえ。 「こ、こここ、こんにちわ、霜月さん。」 「おう、こんにちは。なんだ、その様子だと買い物に来たわけじゃ無さそうだな。」 「そ、そ、そう、なん、だよ。す、すす、すこ、し、あ、あったまらせてくれ、くれ、ない、かな、って。」 がたがた震えてるのか、二人とも喋り方が変だ。 なるほど、この寒さで凍えそうだって事だな。早速中へ入れてやらないと。 「ほら、こっちきなよ。あったかい場所へ案内するから。」 店の奥へと招き入れると、ふたりは膝をがくがくさせながら歩いてきた。 やれやれ、相当震えてるみたいだな。 けれども、部屋の中まで来ると震えは止まってきだしたようだった。 二人でなにやら話を始めている。 「まったく、とんだ無駄足だったじゃないですか。」 「まあたまにはそういうこともあるさ。」 「しょっちゅうじゃないですか。それに・・・。」 ちらりと智子ちゃんが俺のほうを見る。そして師走の方を・・・ 「ああっ!気付かなかったけど、お前びしょ濡れじゃないか!!」 「まあな。」 「まあなじゃねーだろ!着替えがいるな、部屋の外で待ってろ。」 「そうそう、霜月さんの言う通り。このままだと部屋の中まで濡れちゃうでしょ。」 えらく冷めた智子ちゃんの声が聞こえてきた。 やれやれ、冬だからってきつくなってねーか?しかも、濡れてるの知ってたなら最初に言ってくれよ。 変に捻じ曲がってろくでもない大人になってくれるのは困るんだが。 ともかく、素早く着替えを用意。ついでに風呂にも入ってもらった。 しっかし何をやってたんだか。それになんで俺の家に?理由を尋ねると・・・ 「「近かったから。」」 だとさ。けっ、単純な理由だな。 ストーブにあたっている二人を呆れて見ていると、智子ちゃんの方から“ぐう〜”という腹の虫の声が。 「お腹が減ったのかい?」 「あ、は、はい・・・。」 「だそうだ、霜月。頼むぞ。」 「・・・・・・。」 顔を赤らめている智子ちゃんとは対称的に、師走はなんだか偉そうだ。 「お前よお、ここは俺の家だぞ?」 「細かい事は気にするなよ。大事なお姫様がお腹を空かせておられるんだ。」 何を訳のわかんない事言ってやがんだこいつは。 この寒さで頭がどっかおかしくなったんじゃねーのか? 「まあいいさ。店の方も暇だし、何か作ってやる。 客が来たらちゃんと知らせてくれよ。」 「おっけい!」 びしっと片手を挙げて答えた師走。前から変だったが、今日はますます変だ。 さあてと、何を作るかな・・・よし、この前仕入れたばかりの、 とっておきのサーモンを料理してやるとするか。 それもとびっきり豪快なのをな!
<おしまい>
○後書き:三つ目にして、早くも辛くなって来ました。 箴言に合わせて話を作るなんて、もはや無理です。 それ以前に、炉端なんて一切出て無いし・・・(自爆) というわけで、あくまでも様相だけって事に。 ま、もともと気楽に作るつもりだったし、それでいいかな。 しっかし、二人は一体何をして来たんだろう・・・。 |
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