32 Reply LookingFor短編(その12) 空理空論 MAIL URL 2001/10/16 09:31
808000
『飲酒』

※人の子にとって
ビールはそれほどよいものではない
たくさん飲むと
それだけ酷く性根を失うから



「今日はアルコールの成分について調べるとしましょう。」
私の趣味の一つに、成分調査というのがあります。
(別に調査してどうこうするわけでもないですけど)
薬屋という家業をこなしている所為もあるかもしれませんが、
やはり私には研究者という性質があるのでしょうね。
そこで目指すはもちろん長月さんの酒屋店です。
成人は過ぎてますから私でも購入可能。智子ちゃんは無理らしいですが・・・
その辺は葉月さんが協力なさっているようで。いいことです。
(駄菓子の開発を行なうに、たまに必要とする様です。後は料理ですね)
そして店にやってきた私ですが・・・様子が変です。
長月さんと一人の男性・・・お客さんが言い争っています。
・・・いえ、長月さんは喋らないからお客さんが一方的に話しているだけですが。
このままでは目的の買い物も出来ません。
場を静める為にも、私は傍に寄って事情を聞いてみる事にしました。
「どうしたんですか?」
「どうもこうもない!この店主、こちらが金を払ったのにありがとうも言わないんだ!!」
そのお客さんは少し酔っておられるのか、私には酒臭く思えました。
昼から宴会でもなさってるのでしょうか?
・・・などと、人の事情など詮索するものでもないですけど。
「こちらはお金を払いました。何か言う事あるだろう?って言ったんだ。
そしたら、どうも、だってさ。なんでありがとうが言えないんだ。店の人としておかしいだろう!?」
「なるほどねえ、たしかに商売ですからお客さんには愛想が大事です。
私も薬局を経営してますが、ありがとうは必ず言ってますね。」
「だろう!?だのにこのオヤジはちっとも分かっていねえ・・・。」
不機嫌の極み、とまではいきませんがかなり怒ってらっしゃいます。
しかしそこまで怒ることもないのでは・・・。
「まあまあ、長月さんは無口なので仕方ないですよ。こういう店もあるということで。」
「なんだと?ふざけんな!!店出してるからには客に必ずありがとうを言いやがれ!!」
ううーん、それは暴挙というものでしょう。
睦月さんなんて更に言わないですし・・・って、これは関係ないことですかね。
「・・・ふーんそうか、分かったぞ。あんたんとこでも客をないがしろにしてんだろ。」
ついには私に言いがかりをつけてきました。八つ当たりもいいとこです。
話がこじれそうなので、私はゆっくりと話し合いたいと思いました。
しかし其の前にここでの用事、つまりは買い物を済ませておくべきです。
「すみませんがちょっと後で詳しく話をするのでいいですか?
私も客としてここに来たので、先に用事を済ませたいんです。」
「おおいいぜ。飲み比べでもしながらじっくり説教してやる!」
私は飲む気などさらさらないんですが・・・。
“さて”と長月さんへ向きました。当の彼はもちろんずっと無言です。
何を言って良いのやらわからなかったのかもしれませんけどね。
「長月さん、あそこの缶ビールを一本ほどいただけますか。そこのバラ売りのを。」
「・・・ああ。」
名指ししたのをてきぱきと用意して渡してくれました。
それと私のお金とを手渡しで交換します。
「値段は分かっていたのでお釣はいらないようにしてますから。ありがとうございました。」
「・・・いや、どうも。」
取り引き、というか買い物は終了です。
さあて、問題のお客さんと話し合うとしますか。飲み比べはしたくありませんけど・・・。
覚悟を決めて男性の方を向くと、その方はきょとんとしていました。
まるで狐につままれたような表情です。
「あの、どうかされたんですか?」
「・・・なああんた、なんであんたがお礼を言うんだ?」
「は?」
「お礼だよお礼、ありがとうって言ったじゃないか。」
「ああ、そういえば・・・。」
お金を渡す時に私はたしかに言いましたね。“ありがとう”と。
それの事ですか・・・。
「お礼を言うようなことされたか?こっちは客だぞ?」
「商品を渡してくれたじゃないですか。」
さも当然の様に私は告げました。しかし男性は更に疑問の顔です。
「商品を渡してくれた・・・って、金を払っただろ?」
「あのお金は商品の代金でしょう。長月さんが行なってくれた事とは関係ないですよ。」
「あんなのサービスだろうが。」
「サービスって・・・。長月さんが居なければ私は商品を得られないんですよ?」
「それじゃあ勝手に金置いて持っていけばいいだろうが。」
「そういう不安な行為をしなくてもいいから、お礼を言ったんです。
無事に商品を買う事ができました、ありがとう、という意味で。」
「・・・・・・。」
男性は黙り込んでしまいました。
しきりに頭を捻り、首を動かして考えています。
しばらくして、顔をこちらに向けました。
「・・・なるほどな、わかった。悪かったな、くってかかって。」
「え?い、いえ・・・。」
「やられたって感じだよ、ははは。店主、また来る、じゃあな。」
何かを納得したのか、男性は満足の笑みを浮かべて帰っていきました。
私の意図が伝わったという事なのでしょうか?
いや、それは最初長月さんともめていた事柄の解決になっていませんし・・・。
「長月さん、彼はどうして大人しく帰ったんでしょう?」
「・・・菊月君」
「はい?」
「・・・ありがとう。」
「い、いえ・・・。」
少しだけ微笑むと長月さんは店の中へと姿を消してしまいました。
お礼を言われるとは思ってもみませんでしたが・・・一件落着、でいいんでしょうか?
結局その日は、予定していた成分調査よりもこの事件の事が頭の中を駆け巡っていた私でした。

<おしまい>



--------------------------------------------------------------------------------
○後書き:バイト先で、突然ながらにありがとうを要求される方が居たので、
(あの人は今までなんで平然としてたんだよ、オイ。
しかもあそこは別に商売のためのレジ打ちじゃないんだけど・・・)
気分を落ち着けるために書いたものです(身も蓋も無いな)
それはそれとして、買い物の時にありがとうを私は言ってます。
何かの雑誌に書いてた方がモットーとしてらした事が気に入ったので真似してる、
ってわけですね。
しっかしこんな事でも無いと出番ないのか菊月さんは(爆)
更に言うなら、箴言の意味はかなり薄れちまったぞ(爆)
2001・10・15
33 Reply Re:LookingFor短編(その12) グE MAIL 2001/10/20 00:35
cc9999
>『飲酒』
確かにそのとおりですね。
お酒というものは人をだめにしますから….
(まわりに例がたくさん…)(爆)

ところで…、やっぱり長月さんは
客が買い物をしたとき何も言わないのですね。
(まぁその方が長月さんらしいですが)(笑)

私自身買い物をしたとき、ありがとうを言われなくても気にしませんが
流石に文句はいいません。
けれど流石に買い物をしたとき、ありがとうは…、
言わないですね。
今度から真似してみようかな….
では
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送