361 | Reply | 風物語 夢物語(後編) | 須坂稔 | 2004/02/29 23:10 | ||
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風物語 夢物語(後編) 2次会が始まってから1時間ほど経った。 「何か、あたしだけひとりぼっち」 そうぼやきながらルーアンはため息をつく。左隣を見ると、完全に2人の世界に入っているたかしと花織の姿がある。 「他は自分たちだけで楽しんじゃっているみたいだし」 さらにぼやきながら今度は正面を見ると、那奈と出雲が2人で酒を飲んでいる。いや、那奈が出雲をからかいながら酒を飲んでいると言った方が正しいだろうか。 「太助君とシャオリンは今頃2人でラフラブして…」 さらにつぶやきながら、最後に右隣を見るルーアン。だがその瞬間、彼女の表情が凍りついた。 彼女が見たもの、それはキリュウに酒を勧める翔子とその酒を飲むキリュウの姿。 過去の記憶と照らし合わせて、これから起こるであろう事を予測したルーアンは迷うことなく立ち上がると、そのままリビングから逃げ出した。 玄関にたどり着いて、そこで始めてルーアンは一呼吸した。 「危ないところだったわね。よかったわ、早く気がついて」 ほっと胸をなで下ろすルーアン。 「それにしてもあのお嬢ちゃんは4年近くも一緒に住んでいるのに、どうして知らないのよ」 ぶつぶつ文句を言うルーアン。もっとも今更、しかもここにいない相手に文句を言っても仕方がないのだが。 「さっきから何ぶつぶつ言っているんだ、ルーアン」 「何だ太助君か、驚かさないでよ」 急に声をかけられて思わずその方向を向くも、声をかけてきた相手が太助だと知りほっとするルーアン。 「あれ、シャオリンは」 「ああ、寝ちゃってたから…」 そう太助が言いかけたとき、突然リビングから大きな物音がし、その直後には悲鳴も聞こえてきた。 この事態を予測していたルーアンは、 「始まったわね」 とだけ言う。 「始まったって何が」 「キリュウがちょっとね…」 口ごもるルーアンだが、太助は彼女の言いたいことを察したのか、 「…キリュウって酒乱だったのか」 そう聞いてくる。その問いに、ルーアンは無言で頷く。 「…キリュウを止めなくていいのか、ルーアン」 「悪いけど、今のキリュウを止めるぐらいならあたしはどこまでも逃げる方を選ぶわ」 「ああ、そう」 2人を沈黙が包む。その間にも、物音や悲鳴はだんだん大きくなっていく。 「あたしもう行くわね」 そう言うと、ルーアンは玄関に行き、靴を履く。その後、太助の方を振り返ると、 「それと、キリュウのことなら30分ぐらい経てば収まると思うわ」 そう告げると彼女は玄関から外に出ていった。 太助の家を後にしたのはいいが、特に行くところもないルーアン。 (このまま家に帰ろうかしら) そんなことを考えていると、再び後ろから声をかけられる。振り返ると、乎一郎の姿があった。 「あら、遠藤君。こんなところで何しているの」 「ちょっと近くを散歩していたんです」 「近くを散歩ってどうしてみんなと一緒にいなかったの」 乎一郎にそう疑問をぶつけてみると、 「ボクってお酒がほとんど飲めなくて、その…」 ルーアンは彼の言いたいことを察したのか、 「そうなんだ」 とだけ言う。 「ところで、ルーアン先生はもう帰るんですか」 「そうねえ…」 どう答えようかしばらく考えていたが、ふと思いつくと、 「遠藤君はこの後何か予定ある」 と逆に乎一郎に聞き返す。 「え、あ、はい」 「なら、あたしに少しつきあわない」 そのルーアンの誘いに乎一郎が二つ返事で了承したのは言うまでもない。 その後2人はコンビニで飲み物とお菓子、そしてビニールシートを買う。それに陽天心をかけると、自分と乎一郎を乗せて飛び立たせた。 「さてと、着いたわ」 そう言ってルーアンはビニールシートから降りると、それにかけていた陽天心をとく。 「あの、ルーアン先生」 「何、遠藤君」 「ここって学校の屋上ですよね」 「そうだけど、何か問題ある。確かに少し寒いのは認めるけど」 「そういう問題じゃなくて、こんなところでいいんですか」 「派手に騒いだりしなければ気付かれないわ。実際、宿直の時はここで空を見ながら夕食を食べたりしているしね」 そう言ってからあわてて、 「あ、このことは他の人には秘密にしておいてね」 と乎一郎に口止めする。 「じゃあ、乾杯」 「乾杯」 途中で買ってきたお菓子を食べたり、おしゃべりをしたりしながら盛り上がる2人。 それから30分ぐらい経ったであろうか。ルーアンはさっきから乎一郎が少しもしゃべっていないことに気付き、彼の方を向こうとする。 突然、自分の肩におもみが加わった。見ると、乎一郎が自分の方にもたれかかって寝息を立てていた。 一瞬びっくりするも、彼も色々あって疲れているのだろう、と判断したルーアンは彼を起こさないように気をつけながらビニールシートの上に寝かせると、後かたずけをする。 「今日は楽しかったわ。ありがとね、遠藤君」 後かたづけを終えた後、ルーアンは乎一郎の耳にそっとささやくと、ビニールシートに陽天心をかけて、そのまま飛び立っていった。 風物語 夢物語(後編) 完 <後書き> 何とか終わりました。(2月中に) 元々このシリーズはキリュウが酒に酔って大暴れって考えが始まりだったんですけど、いつの間にかこういう話になっています。 では、またいつか。 |
363 | Reply | こういうことも | 空理空論 | URL | 2004/02/29 23:28 | |
cc9999 | ||||||
キリュウが酒乱だってことがある種幸いしたかも、なんて思ったり。 自然な流れで、自然に合う二人の姿っぽいのが描かれてて、 お約束どおりに好きです。 七梨家のその後がかなり大変なような気もしますが。 (ちゃんと無事に収まったのであろうか、とか色々) |
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