190 Reply 自殺計画 よしむら MAIL 2002/10/01 10:35
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その男、高倉一郎はその日一大決心をした。
「自殺しよう」

この一郎は、わずか数日のうちに
さまざまな不幸に見舞われたのだ。
仕事はクビになる、彼女にふられる、
友人に騙される、親が蒸発、
財布を落とす、泥棒に入られる、
外出先で雨にふられる、犬の糞を踏む、
とにかく、もう不幸のオンパレード、
アンラッキーオールスターズってな感じである。
そんなわけでもう生きる気力もなくした一郎は
自殺しよう、と決心するに至ったのである。

「しかし…問題はどうやって死ぬか、だな」
いざ死ぬと決めたものの、どうせなら楽に死にたいと一郎は考えていた。
一郎はけっこう根性無しなのである。
「どうしよっかな〜」
うーんうーんと呻きながら一郎は床の上を転がっていた。
しばらく考えて出した結論はこうだった。
「よし、とりあえず一通り試してみよう。
どれか一個くらいうまく死ねるだろ」
一郎はけっこういい加減なのである。


その1.
「オーソドックスに飛び降りでもするか…」
というわけで手近な高いビルの屋上に上ってみた。
「うわぁ、たっけぇ…」
屋上から覗いた下がとても小さく見える。
「こんな所から飛び降りるのか…俺…」
考えただけで、足がガタガタと震えてくる。
「いや…俺はこれから死ぬんだ…こんなもん…どうってこたぁ…」
そう言ってフェンスを乗り越えようとしたその時。
つるっ!
「わっ!」
手が滑って一郎は空中へと投げ出された。
ガシッ!
咄嗟に屋上の端を掴んだ一郎は
屋上にぶら下がる格好になった。
「ひぃっ…」
そのまま下を見て、一郎は小さく悲鳴を上げた。
「ま、待ってくれ!まだ心の準備がぁっ!!」
怖じ気付いた一郎は必死で屋上へと這い上がっていった。
「はぁ…はぁ…飛び降りは後回しにしようか…」


その2.
「睡眠薬でもガブ飲みしてみるか…」
そうと決まれば早速薬局へ行って睡眠薬を買う事に。
「睡眠薬、睡眠薬…どれだ?」
とは思ったものの、普段薬局になんか来ない一郎には
どれが睡眠薬かわからなかった。
「すいません、睡眠薬ってありますか?」
やむなく一郎は薬局店員に聞いてみることに。
すると、
「睡眠薬ですか?でしたら処方箋をお持ちですか?」
「し…処方箋?」
「えぇ、睡眠薬が欲しいのでしたら医者の処方箋が必要なんです」
「そ、そうなの!?」
当然、一郎はまさかそんなめんどくさい手続きが
必要だったとは知らなかったのである。
「眠れないのでしたらこの鎮静剤とかありますが…」
それではダメだ。効き目が弱すぎて死ねない。
「いえ…いいです…」
結局何も買わないまま一郎は薬局をあとにした。

よく考えたら財布落とした上に泥棒に通帳と判子盗られて
一文無しだからどのみち買えない事に気付いて
一郎はさらに落ち込んだ。


その3.
「よし…今度は飛び込みだ」
そう思った一郎は電車の踏切へと向かっていった。
車でもいいかもしれないが確実に死ぬならやはり電車だろう、と。
「さぁ…いつでも来い…」
覚悟を決めた一郎は踏切近くで電車が来るのを待ち続けた。

1時間後。
一郎は踏切で待ち続けたが一行に電車が通る気配はなかった。
「待てよ…いくらなんでも1時間待って一回も
電車が通らないってどういうことだ…」
さすがにおかしいと思い、最寄りの駅に立ち寄って聞いてみたら
「あぁ、なんか土砂崩れ起きて全面運転休止だよ。
復旧は今日は無理だね」
とのこと。
「俺は…1時間も…無駄な時間を…」
なんだかどっと疲れた一郎だった。


その4.
「外でやるからいけないんだ。自殺は家でやろう、疲れたし…」
と、路線を少し変更した一郎は一旦自分の住むアパートへと戻っていった。
「そうだな…まずは首吊りあたりやってみるか…」
と自殺の方法についてあれこれ考えて歩いていたその時、
何やら自宅のアパートの方から騒ぎが聞こえてきた。
「なんだ…?」
ちょっと気になって先を急いでみると、
「げっ!!?」
なんと、自宅のアパートが火事になっていた。
火はすでにアパート全体に燃え移っている。
これでは消火出来ても部屋は跡形もなく
なくなってしまっているだろう。
「うそだろ…」
一郎は愕然とした。
首吊り用のロープは家の中だというのに。
金がないので新しくロープを買う事も出来ない。
しかもその5.その6として考えていた
「手首を切る」と「ガス自殺」もこれで出来なくなってしまったのだ。


その7.
「ちくしょーっ!なんで自殺するのにこんな苦労しなきゃなんねーんだよっ!」
一郎は自宅が失われるというさらなる不幸に見舞われ、
ちょっとヤケクソ気味になっていた。
「こうなりゃ原点に帰ろう!もう一度飛び降りに挑戦だ!」
というわけで一郎は再び同じビルの屋上へとやってきた。
「うへぇ〜…やっぱたけぇ…」
しかしその高さを見た瞬間、再び一郎は怯んでしまった。
「いや、今度こそ俺は死ぬんだ…」
とにかくフェンスだけでも越えようと
一郎は今度は手が滑らないように慎重にフェンスを越えた。
「ふぅ…」
屋上の端に立ち、一郎は深呼吸した。
「さぁ…死ぬぞ…俺は死ぬぞ…」
一郎はゆっくり、本当にゆっくりと足を前に進めていった。
心臓はこれでもかというくらい早く動き、
一郎の緊張はピークに達していた。
そして、いよいよ最後の一歩を踏み出そうとした。

「………」

そのまま一郎はしばしの間、硬直した。
風が一郎の体に冷たく突き刺さる。
「………やっぱ怖い、やめよう」
数分立ちつくした一郎は結局引き返した。
一郎はやっぱり根性無しだった。


屋上の内側に戻った一郎は自分を思い直していた。
「もしかしたら…今日自殺出来なかったのは
もう少し生きてみろ、っていう暗示なのかもしれないな…
うん、そうだな、案外なんとかなりそうな気がしてきた。
なんか自殺なんてバカらしくなってきたな。
よし、もうちょっと、人生の悪あがきってのをやってみるかっ!」
そう言って再び立ち上がった一郎の顔は
すっかり立ち直っていた。
一郎はけっこう単純なのである。

その時。

バラバラバラバラ…

「ん…げっ!!?」
突然一郎のいるビルの屋上にヘリコプターが近付いてきた!
ヘリコプターはなおも猛スピードで近付いてくる!
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

ドゴォォォォォォン!!


ヘリコプターの墜落事故はその日のうちに報道された。
ヘリのパイロットは奇跡的に生還、
ビルの中の者にはいくらか被害は出たが幸い死人は出なかった。
犠牲者はただ一人、たまたま屋上にいて巻き込まれた一郎だけだった。


人生とはなかなか思い通りにいかないものである。



後書き
ちょっと不条理なネタを書いてみました。
私にしては珍しい、とにかく報われないオチですね。
ちなみに睡眠薬についてはわざわざ薬局行って聞いてきました(笑)
191 Reply 人生なかなかうまくはいかないって言うことですか(笑) グE 2002/10/02 14:24
cc9999
珍しいですね、こういう作品かかれるのは。

とりあえず私の感想は題名一行に濃縮されています。(爆)
・・・ところで火が燃えているところに飛び込もうとは
思わなかったんでしょうか(笑)
(けど暑いしね・・・(<をい))
しっかし、はたから見たら面白い人だよ、この人。

あと、あとがきの最後の一行に笑わせてもらいました。

では

193 Reply 自殺という言葉は好きじゃないけど… 空理空論 MAIL URL 2002/10/03 00:00
cc9999
いくら自殺を試みても上手く行かない。
それはまぁ、無人島だったり日常だったり場所は色々ですが…(笑)
わざわざ薬局まで行ったのはお疲れ様でした、ですね。
(っていうか普通に手に入らないんだ…知らなかった)
ちなみに不幸とは言っても、某バット君(笑)よりはましだと思いますよ(爆)
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