319 Reply fancy shooting star Xavi MAIL URL 2003/10/18 18:20
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 九州の片田舎にある祖父の家には、いつも彼女がいた。
小さいころは、いたずらをして祖父を困らせていた自分をよく叱ってくれた。
親のいうことになかなか従う気にならなかった自分だったが、彼女の言葉には不思議と耳を傾けることが出来た。
そして叱ったあとはいつも遊んでくれた。大体は近所の山川へ行って虫や魚を捕まえたり泳いだりすることだったが、
山や川以外何もない場所だったので、探検するところはとても豊富でいつ行っても遊び足りないぐらいだった。
また、彼女は不思議な力やアイテムを持っていて、それのおかげで普通では体験できないようなことも一杯やることができた。
田舎にいる期間はいつもあっというまに過ぎていき、最後はいつも帰るのを嫌がる自分を彼女がなだめるというパターンだった。
だから年に2度の里帰りが本当に待ち遠しかった。
 中学1年の夏、自分は両親に先駆けて1人で彼女のいる祖父の家にいった。より長い時間、彼女と一緒にいたかったからだった。
飛行機、電車、バスを乗り継いで半日かけてやっと見えてくる見慣れた風景、
そこで出迎えてくれた彼女の姿を見た時、表情に少しかげりがあるように見えた。
その理由が祖父の体調にあることはある程度用意に想像できた。春先に体調を崩してからあまりよくないということは
父親たちの話で知っていたからである。
祖父の看病をしながらも彼女は自分と遊んでくれた。その分も含め自分も彼女の手伝いを一生懸命やった。
彼女が困ってる時こそ、いままでの恩返しをしなければという気持ちが強かったからだと思う。
そうして彼女と多くの時間を共有し、自分の中1の夏休みは終わった。
 祖父が亡くなったのは、夏が終わり秋も終わりに差し掛かったころだった。
学校を休み家族で祖父の家に行って葬式に参列したその日の夜、1枚の鏡と置手紙を残して彼女はいなくなった。
手紙には、主が亡くなったためここを去らなければならなくなったということ、この鏡を別の人へと渡して欲しいということ、
そして自分ら1人1人へのメッセージが書かれていた。
それを読んだとき、自分はその日初めての涙を流した。



「星と彼女の物語」番外編

第1話 「fancy shooting star」


「うーむ、何かいい案はないもんかなぁー」
ここは鶴ヶ丘中学校2年4組の教室。時間は朝のHR前。そして悩んでる生徒の名は須崎慎二(すざきしんじ)。
「なぁ啓太、何かいいアイデアないか?」
慎二は前の席に座っている友人の加賀啓太(かがけいた)に話しかけた。が、啓太は面倒くさそうに振り返り
「ないな」
と言ったきりまた前を向いてしまった。
「おいおいそりゃないだろ。友人が困ってるところを黙って見過ごすのか?」
「どうせ困ってるって言っても『どうやったら1組に勝てるか』だろ? 別に俺はそんなことしなくてもかまわんし」
「いや、1組ごときに負けるわけにはいかないんだよ。かつての栄光を取り戻すために!」
「栄光って…そんなこと考えてるのはお前だけだよ」
啓太はやれやれといった感じで自分の作業を再開した。それを見て、慎二は会話の相手を
斜め前の吉川弘毅(よしかわこうき)に移した。
「弘毅も女子ファンをあの購買部のやつなんかに取られて悔しいだろ?」
「まあ確かにちょっとはあるけど…」
「な! な!」
「でも別にそこまでは気にしてないよ。逆に減ってくれて少しほっとしたぐらいかな」
「……」
こいつもダメか、と思い慎二は仕方なく自分の席に戻った。
今学年が始まった当初は、話題の規模はそこそこだったものの常に学年の中心は2年4組だった。
それが1組にあの女子、シャオが転校してきてからは、1組が一気に全校の話題の中心に上りつめたのだ。
「…まぁ1人の主に精霊が3人だからなぁ。話が盛り上がらないってのが間違いだよな」
「そういうことだ。だから元々勝ち目ないっていうことさ」
「そんなきっぱりと言うなよ…」
こうあっさり言われるとさすがの慎二でもちょっと気が滅入ってしまう。
しかしすぐに気をとりなおしてかたく拳をにぎりしめた。
「それでも俺は考えなきゃならんのだ、2年4組の学級委員として!」
「学級委員としてというより、ライバルに勝つためだろ。無駄に負けず嫌いだよな、お前」
「無駄いうな!」
「まぁでも一応解決策を1つ思いついたぞ」
「ほんとか!」
「単純なことさ。精霊には精霊で対抗すればいいってことだよ」
「は?」
「つまり、うちのクラスにも精霊がいれば1組と張り合えるってことだ」
あまりにとりあえず言ってみただけ、みたいな意見にガクッとくる慎二。
「なぁ、そんなに精霊があっちこっちいると思うか? 実際、普通に生活してたらまず会う機会ないんだぞ」
「そこまでは知らん。俺はとりあえず思いついたことを言ってみたまでだ」
「おいおい…」
「それにお前はシャオちゃんたち以外の精霊にもあったことあるんだろ?
 だったらまた他の精霊に会う機会だってあるかもしれないじゃないか」
そう言われて慎二は記憶の中にある以前会った彼女を思い返していた。祖父に仕えていたあのやさしかった精霊を。
「…かもな」
「だろ?」
キーンコーンカーソコーン
ガラガラガラ…
「おーし、HR始めるぞー」
その時HRの開始を知らせるチャイムがなり、同時に担任が教室に入ってきた。
「出席を取る前に、今日は転校生を紹介する」
ザワザワザワ…
担任のその言葉に、教室内がにわかにさわぎだす。もちろん慎二たちも例外ではない。
「おい慎二、転校生だってよ。可愛い娘だったらいいよな」
「可愛いに越したことはないけど、それよりもこれは1組に対抗するチャンスになるかもしれないぜ」
「またそれかよ…。別にいいけどな」
「静かにー。よし、入っていいぞー」
ガラガラ…
ドアを開けて教室に入ってきた転校生は、桃色の髪の小さな女の子だった。
小学生高学年ほどの背丈のため、制服がちょっと大きく見えて可愛い印象を与える。
といっても全体的にはしっかりピシッとしていて、さらにそれを可愛く見せていた。
そのため、クラスの生徒の大方の第一印象は(女子含む)『可愛い』であった。一部を除いては。
少女は黒板に名前を書いてから前を向き、元気な声で挨拶をした。
「今日からこのクラスのメンバーになる『事星放覗(ことぼしふぁんしー)』です。よろしくー!」
最後にはなぜかピースサイン。それに一瞬クラスの反応が止まる。
しかし、生徒の1人が笑い出したのを合図にして再び教室が騒ぎ出した。
クラスのあちこちから、この新しい仲間を歓迎する声があがる。
「あー、席は須崎の後ろが空いてるな。おーい須崎、後で準備室から机とって来てやれー」
しかし、呼ばれた慎二は転校生が入ってきたときから驚いたような表情のままだった。。
「おい、呼ばれてるぞ慎二。どうしたんだ?」
前の席の啓太が慎二の肩を叩いてみるが反応がかえってこない。
転校生のほうも、担任の口からでた慎二の名前にピクッと反応して、担任が呼んだほうに目線をあわしていく。
そして2人の目線が合った。
「…ファン姉ちゃん?」
「…慎二、ちゃん?」
その言葉が合図になったように、慎二は席を立ち上がって教壇に走った。そしてそのまま放覗に抱きついた。
「慎二ちゃん…」
「ファン姉ちゃん、どこ言ってたんだよ…。俺めちゃくちゃ心配したんだぞ…」
「ごめんね…」
「でも会えてうれしいよ。ほんとうれしい」
「わたしもだよ。また会えるなんて思ってもなかったから」
そう言って放覗は少し背伸びして慎二の頭を撫でた。
「慎二ちゃん、また背伸びたね」
「…うん、ちょうど伸び盛りだからな」
「そのうち背伸びしても届かなくなるかもね」
そして2人顔をあわせ微笑む。慎二の顔には涙の通った跡がうっすらと付いていた。
「おーいそこ、できたら続きはHR終わってからにしてほしいんだが」
横から聞こえてきた担任の声に2人ともハッとなる。周りをみるとクラス中の視線が教壇の上の2人に集まっていた。
なんとか状況を説明しようとするも言葉が出てこない。もはやいろいろあって頭がパニック状態なのである。
「ははは……」
結局慎二の取れた行動はただ笑ってごまかすことだけだった…。



<あとがき>
ついに書いちゃいました放覗の話。
といっても本編を書かずにいきなり番外編からという無茶苦茶なはじまりですが(^^;
今回は月天メンバーは誰も出てきてないですが、次に書く話では少しは出したいと思います。
まぁ同じ学校を舞台にしてるわけですし、出さないわけにはいかないんですが(笑)
このSSは自分の中では、『月天リハビリSS』という位置づけになってます。
もう長いこと月天SS書いてないので少しずつ月天キャラを出して思い出していこうかな、と思ってます。
次はまだ本編に行かずに番外編第2話になりそうですが、気長にお待ちください(^^)
320 Reply いい設定ですね… 空理空論 MAIL URL 2003/10/22 01:19
7b68ee
過去から現在へ、そして騒がしい環境へと繋がり…
っていうか素で面白いです。
精霊にはそりゃ精霊くらいいなければ話題性でも負けるであろうものですが、
いくつかの楽しみな推察要素があるのがこれまたいいです。
うーん…私も頑張らねばなぁ…。

番外編とのことですが、放覗と慎二と、周囲がどのような展開を見せてくれるのか、
とっても楽しみです。
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