198 Reply カードプレイヤーズ よしむら MAIL 2002/10/07 09:41
003300
「はぁ…」
その少年は自室のベッドに寝転んで
力無く溜め息をついた。
少年の名は桜居耕一(さくらい こういち)。
耕一は学生服を着たままだった。
といっても学校帰りのわけではない。
つい先程葬式に出席して帰ってきたばかりだからだ。
亡くなったのは耕一の祖父である耕造(こうぞう)。
耕一の両親は忙しいのでかわりに耕造が耕一の面倒を
よく見ていて、耕一もそんな祖父によく懐いていた。
その祖父が亡くなってしまい、耕一は心にぽっかりと
穴が空いたような寂しさを感じていたのだ。
「…じいちゃん…あんな元気だったのにな…」
いざ口に出してみると余計に寂しさが募る。
どうにも落ち着かない耕一は不意に起きあがって
机の引き出しの中からある物を取りだした。
「こいつが…じいちゃんの形見になっちまったな…」
それは小さな四角い箱のような青いケースだった。
祖父が倒れる数日前に、祖父が道端の露店で
買ってきたと言って耕一にくれた物だった。
飾り気のない無骨なデザインなので耕一は苦笑したが
祖父が自分のために買ってくれた事に対しては素直に感謝した。
もしかしたらあの時すでに祖父は自分の体調に気付いていて
何か耕一に残そうとしてくれたのかもしれない。
当人が亡くなった今となっては知る由もないが。
「でもこれ…一体なんだろうな…」
耕一はケースを開けて中から一枚のカードを取りだした。
トランプより一回り大きいサイズのこのカードは
全体的にケースと同じ青で統一され、
カードには『Shoot』と書かれていた。
ケース同様カードも随分シンプルなデザインだ。
何故こんなカードがこのケースの中に入っていたのかはわからない。
祖父にも聞いた事はあるが何故か最初から入っていたと言うだけで
買った当人もこれが何なのかはわからなかった。
「ま…いいけどさ…」
だが耕一にとってはこのカードが何なのかはわりとどうでもよかった。
大事なのはこれが祖父が自分に残してくれた品だということだけ、
いちいちそれを確かめる気は耕一にはなかった。
「じいちゃん…今頃は焼かれて灰になってんのかな…」
葬式の後、祖父の遺体は火葬場へと運ばれていき、
耕一の両親もそれに着いていった。
耕一も来いと言われたが、祖父の火葬に付き合うと
余計に別れがつらくなるような気がして行かなかった。
何の意味もない事はわかっていたがそれでも
耕一は行く気にはなれなかった。
そのため今この自宅には耕一、一人だけであった。

ザッ…
「ここか…」

そのため、外に怪しい男が近付いてきている事に気付く由もなかった。

ピンポーン

「ん…お客さんか…」
やれやれこんな時に、とぼやきながら耕一は
玄関に向かっていった。
「はい、どなたですかー?」
ガチャリとドアを開けるとそこには、
「やぁ、はじめまして。今君一人かい?」
20代後半とおぼしき男が一人立っていた。
「何か用ですか?今父さんも母さんもいないんですけど」
「いや、別に君でも構わないよ。聞きたい事があるんだ」
「はぁ…」
とりあえず、玄関で立ち話もアレなんで耕一はひとまず
男を家の中へと入れる事にした。
「それで…聞きたい事って何ですか?」
玄関に座った男に耕一はちょっと面倒くさそうに話しかけた。
「君…こういう物は持ってないかい?」
そう言って男が取りだした物を見て耕一は仰天した。
「そ…それはっ!?」
それは祖父の形見にそっくりな赤いケースだったのだ。
色こそ違うが大きさ、形は全く同じと言える代物だった。
「やはり持ってるようだね…君のケースにもカードが一枚入ってないかい?」
「入ってる…あなたのにも入ってるんですか?」
「あぁ、せっかくだ。見せてあげよう」
男はケースの中から一枚の赤いカードを取りだした。
こちらもケース同様色が違うだけで大きさ、デザイン共に同じかと思ったが
よく見るともう一つ違う箇所があった。
耕一の物とは文字が違うのだ。
男のカードには『Needle』と書かれていた。
「このカードって一体何ですか?」
「それはわからない…実は俺はこのカードを調べている者でね。
是非ともこのカードの謎を解明したいと思っている。
そこで頼みがある。君のケースとカードを俺に譲ってほしいんだ」
「えっ…?」
突然の申し出に耕一は戸惑った。
いきなり訪ねてきた男にこんな事言われれば当然ではあるが。
「驚くのはわかる、でもこいつの謎を解くためには
どうしても君のカードも必要なんだ、わかってくれるね?」
「それは…そうですが…」
「だろう?だから俺に譲ってほしい、頼むよ」
「うぅ〜ん…」
男の誘いに耕一の心は迷い、揺れ動いた。
(確かに協力はしてやりたい…でも…これは…)
そうして悩みに悩んだ耕一がようやく出した結論はこうだった。
「…ごめんなさい…あれはあげられません」
「!?何故だい!?」
予想外の答えだったのか男は激しく動揺した。
「あれは死んだじいちゃんが俺にくれた物…
いわば形見なんです…あなたには悪いけど…
あげるわけにはいきません…ごめんなさい…」
「そうか…」
男はがっかりした様子でそうつぶやいた。
「それなら…力ずくで頂くしかないな…」
「え?」
耕一が耳を疑った瞬間、
「ニードル!」

ドガッ!!

「ひぃっ!?」
突然豹変した男が腕を振るって耕一に襲いかかってきた!
男の腕は大きな針に変化し、耕一の頭の横をかすめて後ろの壁に突き刺さっていた。
「な、なな何だこりゃぁっ!?」
「お前何も知らないんだな…このカードには特別な力があって
持ち主はそいつを自由に使う事が出来るのさ。
俺のカードは『ニードル』、腕を針に変える事が出来るのさ」
「そんな力が…?待て!そんな事知っているって事はあんた…!」
「そうさ、俺がカードを調べてるなんて真っ赤な嘘さ。今頃気付いたか。
お前が何にも知らないみたいだから騙して頂こうと思ったが作戦変更だ。
怪我したくなけりゃさっさとてめぇの持ってるケースを渡しな」
先程の温厚そうな顔とはうってかわって凶悪な面構えになった男が
耕一に顔を近付けて脅しをかけてきた。
「ふ…」
普通、こういう状況で出る感情は恐怖だろう。
だが耕一は違った。
この時、耕一の中で沸き上がった感情は――激しい怒りだった。
「ふざけんなっ!!」
ゴキーン!
「ぐはぁぁぁぁぁ!!!」
耕一は近寄ってきた男の股間を思いっきり蹴り上げた。
悶絶した男はあまりの激痛にその場で股間を押さえて倒れ込んだ。
「お前なんかにじいちゃんの形見をやるもんか!!」
慌てて耕一は自分の部屋に戻ってドアの鍵をかけた。
「えーと、俺のケースは…あった!」
男が来る前に出して机の上に置きっぱなしだった
ケースを慌てて手に取った。
「カードの持ち主はその力を使えるって言ってたな。
もしかしたら俺もこいつが使えるかも!」
ドンドンドン!
その時部屋のドアが激しく叩かれる音がした!
「このガキ!なめた真似しやがって!
さっさとケースをよこせ!でないとこのドアぶっ壊して
痛い目に合わせてやるぞ!!」
だが男の乱暴な要求に耕一はきっぱりと答えた!
「うるせぇ!お前こそさっさと帰れっ!
俺は絶対にこいつを渡さないからな!!」
「言ったな…もうただじゃおかねぇ!!」
バリィン!
男は針の腕でドアの鍵を壊して部屋の中に押し入ってきた。
「このクソガキ…覚悟はできてんだろうな?」
「それはこっちのセリフだ!」
耕一は男に向かって自分のケースを見せつけた。
「しまった!?お前もカードを…!?」
それを見た男がうろたえて、一瞬隙が生まれた。
そこを耕一は見逃さなかった。
(さっきあいつはカードの名前を叫んでた。たぶん俺も同じようにしたら…)
そう思った耕一は大きな声で自分の持ってるカードの名前を叫んだ!
「シュート!」

シーン…

「あれ…?」
身構えたまま間抜けな声をもらす男。
部屋の中に一瞬沈黙が流れる。
「な…何も起こらないじゃねぇか!このガキびびらせやがって!」
怒った男が再び襲いかかってきた!
しかし耕一はよけようとせず、右手の人差し指と親指を伸ばして、
ピストルのような形にして男に向けた。
「いや、ちゃんと使えてるぜ!」

ドゴォンッ!

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
耕一の人差し指から撃ち出された光る弾のような物が男の胸を直撃した。
男は吹っ飛ばされて入り口を抜け、廊下の壁に叩きつけられた。
「はぁ…やった…」
耕一はカードの名前を叫んだ瞬間、手に不思議な力が集まるのを感じた。
手を構えて指から弾を発射するというその使い方も、
すぐに頭の中に思い浮かんできた。
きっとこれもカードの力なのだろうと、耕一は納得した。
「く…くそっ……あぁっ!?」
起きあがってきた男は突然叫び声をあげた。
「俺の…俺のカードケースがぁ!?」
男が持っていたケースはメチャメチャに壊れていた。
胸ポケットに入れていたのでさっきの耕一の攻撃をモロにくらってしまったのだ。
「さぁ…どうする?」
耕一は指を指して男に話しかけた。
男はすっかり意気消沈した様子でぽつりとつぶやいた。
「…俺の負けだ…ケースが壊れた以上もう俺は何も出来ない…」
「なに?」
「だが…覚えとけ、世の中にはこのカードを狙ってるヤツが
たくさんいるんだ、お前がそれを持ってる限りそいつらは
決してお前を逃がさないぞ!」
「待て!このカードってまだ他にもあるのか!?」
「今日俺に渡さなかった事、せいぜい後悔するんだな!」
それだけまくし立てると男は大慌てでその場から走り去った。
「おい!まだ聞きたい事が…あぁ行っちゃった…」
男はそのまま家から出ていってどこか遠くへ逃げていってしまった。
「くそっ、逃げられた…ん?」
ふと足元を見ると一枚の赤いカードが落ちていた。
男の使っていた『ニードル』のカードだった。
「あいつ、カードをほったらかして行った…」
つぶやきながら耕一がカードを拾うと驚くべき事が起きた。
「うわっ!?」
耕一が手に取った瞬間、今まで赤かったカードが青く変わったのだ!
「どうなってんだ…一体……まさかっ!?」
ある考えが浮かんだ耕一は早速確かめてみることにした。
「ニードル!」
耕一が男の持っていたカードの名前を叫ぶと
男と同じように耕一の腕が大きな針に変化した!
「げぇっ…マジかよ…」
針に変わった腕を見つめながら耕一は今は亡き祖父に向かってつぶやいた。
「じいちゃん…なんだかとんでもない物残してくれちゃったね…」
耕一は大きな溜め息をついて、その場に座り込んだ。
「あ…そういえばこの部屋…どうやって父さん達に説明しよう…」
ドアが破壊された部屋を見て耕一は再び大きな溜め息をつくのであった。



後書き
今度はカードバトル物です。
夏に「劇場版CCさくら」を見て思いつきました。
「うえきの法則」もちょっと入ってます。
これでも設定を考えるのに苦労して
パソコンの前で長い時間唸ってました(笑)
とりあえず、某龍騎みたいにならないよう気を付けました(爆)
またいつか続きを書きたいですね。



総括
とりあえず、新作ラッシュ(別名オリジナル祭り)はこれで打ち止めです。
こんなにたくさんのオリジナルを書いたのも初めてですが
内容自体も今回はいろいろと新しい事をやってみたつもりです。
一つでも面白いと感じて頂ければ幸いです。
最後までお付き合い頂きありがとうございました。

私はこれからまたいろいろ大変そうです。
「バグ夫くん」「統弥くんのハート」「ぱらさいとが〜る」
「魔人戦記A」「カードプレイヤーズ」
こいつらは一応続きは考えてますが書けるかどうか…
…頑張らなきゃなぁ、俺…
200 Reply 収集 空理空論 MAIL URL 2002/10/12 01:36
cc9999
バトル&コレクターって感じですかね。
こういう設定の作品は個人的に好きです。
そこで注目すべきは、やっぱりどのようなカードが存在するかとかですね。
うえきの法則が入ってるってのは妙に納得しました。
それにしても某龍騎ってなんだろう…(知らない)

続き書かれるのなら頑張ってくださいな。
読みきりでも楽しいと思いますけど。
ひとまず、お疲れ様でした。
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送