194 Reply アゲイン よしむら MAIL 2002/10/04 08:06
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「そ、そんな!嘘だろ!?」
「本当さ、あんたの作品は打ち切り、ウチとの契約も終わりだ」
「ふざけるな!私が今まで書いてきた作品が!
どれほど雑誌の利益に貢献したか!
忘れたとは言わせないぞ!」
「先生…あんたいい加減過去の栄光ひきずるのやめてくれんか」
「なんだと!?」
「今のあんたの作品はね…はっきり言って人気ないんだ。
いや、人気があったのは最初だけ。もう大分前にあんたの
時代は終わってんだよね」
「私の時代が…終わっただと?」
「ウチが欲しいのは金になる作家だ。もう終わった作家に用はないんだ」
「なっ…だからって、そんなあっさりと私を切り捨てるのか!?」
「あんた勘違いしてないか?作家というのも所詮はサラリーマン。
会社の命令に従って仕事をして少しでも売り上げを伸ばすのが役目。
それが出来ない役立たずは切り捨てる、当然だろ?
この不景気に無能な人間雇ってやる程ウチの会社は優しくないんだ」
「くっ…」
「それにね、この際だから言ってやるがあんたウチの社内でも
嫌われてるんだよね。とっくに勢いの死んだ作家のくせに
いまだに人気作家気取りで偉そうだって」
「………」
「それじゃとっとと帰ってくれるかな?
いつまでも居座られちゃ、邪魔なんだよね」


篠原はかつて雑誌に連載していた作品が大ヒットし、
一躍人気作家と呼ばれるようになった。
だが時が経つにつれ彼の人気は衰えていき、
いつしか見向きもされないようになって、
そしてついさっき、雑誌の会社から
冷たい宣告を受けてきた所だった。
「何故だ!何故この私がこんな仕打ちを受けねばならんのだ!
私を誰だと思っているんだ!!」
家の中で毒づいてみるが反応は返ってこない。
篠原は3年前に離婚した。
今はこのマンションに一人暮らしだ。
「ちくしょう…」
ベッドに寝転んで、それきり篠原は言葉が出なかった。
まだ気持ちの整理がつかずどうしていいかわからないのだ。
そのまま数十分、寝転んだままだった篠原は
ぼーっとした顔で起きあがった。
「…どっか出掛けよう」

その夜。
「うぃっ…ヒック」
篠原は帰りがけに立ち寄った店で酒をしこたま飲んで
べろんべろんに泥酔して住宅街をふらふらと歩いていた。
「だーっ!この私が無能だとーっ!
偉そうな口聞いてんじゃねーぞ3流編集がーっ!」
それもかなり荒れてるっぽかった。
「うーっ、あちこち歩いて疲れた…
ちょっと適当にその辺で休むか…」
そうつぶやいて篠原は公園のベンチに座り込んだ。
「あぁー…もう…なんで私が…こんな目にあってんだよ…」
ぼやきながら、篠原はそのままうとうととし始め、
いつの間にかベンチに寝転んで眠りに入っていた。


「おい、あんたいい加減起きなよ」
その声で篠原はようやく目を覚ました。
途端にまぶしい太陽の光を感じて篠原は一瞬混乱した。
しばらくしてようやく昨晩の事が思い出される。
(あーそうか、酔っぱらって公園のベンチで寝てしまったのか…
頭いてー…二日酔いか…)
「あんた、こんな所でよく寝れるな。風邪ひくぞ?」
「あー…」
篠原は自分に話しかけてくる老人の男に気が付いた。
やたら身なりの汚い老人だ。
篠原は一目でこの老人が何者か察した。
(ホームレス、ってヤツか…)
「もしかしてあんたの寝床だったか?
そいつは悪い事をしたな」
「全くだ、老人を地べたに寝かしよってからに」
とりあえず篠原は一旦起きあがってベンチに座り直した。
老人は空いた場所に座ってどこから手に入れたのか
パンを食べ始めた。
「あんた、家に帰らないのか?」
食べながら老人は篠原に話しかけてきた。
「なんとなく帰る気がしない…」
帰った所で何もすることはないので、篠原は力無くそう答えた。
「何かあったみたいだな。酒の匂いも残っとるし…
おおかた仕事でもクビになって自棄酒ってとこか?」
「ぐっ…」
「なんだ、図星か」
「やかましい…」
「仕事の一つや二つクビになったくらいで大袈裟だぞ。
儂もいろいろ仕事はしたがどーれも上手くいかなくてな。
まぁ見ての通りの生活を送ってるちゅうわけだ」
「ふん。負け犬人生の典型だな」
苛立ちからかなり失礼な物言いをする篠原だが
老人は顔色を変えずに話を続けた。
「おいおい、自分の価値観を相手に押しつけるのはいかんぞ。
確かに儂はあまりいい生活は送ってないが
慣れればこんな生活でもなんとかやっていけるもんだ」
「馬鹿言うな。私はそんな生活はまっぴらごめんだ」
「ふふん、だが少なくとも今のあんたよりは儂の方が幸せだと思うが?」
老人の誇らしげな表情に篠原は若干の悔しさを感じた。
「どんな仕事をしてたのかはしらんが、
そんなもんいちいち気にしてたらきりがないぞ。
儂なんか散々失敗しまくってクビになったからな」
「つまりあんたが無能だっただけだろ」
「非道いな。これでも仕事自体は真面目にやっとったんだぞ」
「そんな事知るか。所詮世の中ってのは結果が全てだ。
いくら真面目にやろうが結果が伴わなければ口先だけの理論にすぎない」
「まぁ何をするにせよ結果は大事だがな…
でも儂らは人間だ、どうしたっていつかは失敗するもんだ。
あまり結果にこだわりすぎるのもどうかと思うぜ?」
「負け惜しみに聞こえるね。失敗した者は皆そういうんだ」
「やれやれ頑固なヤツだな…もう少し気楽に生きろや。
いつまでも落ち込んでないで、また頑張ってみろ。
案外なんとかなるもんだぜ?」
「…偉そうに人生の先輩気取りで説教か?
あんたのような社会不適格者が言っても説得力がない。
それに私をあんたみたいな駄目人間と一緒にするな。
私は絶対にそんな無様な姿にはならんからな!」
篠原の言葉の最後はやや大きな叫びとなっていた。
「そうかい、それじゃまた頑張ってとっとと這い上がるこったな。
でなきゃいつか本当に儂みたいになるぜ?」
「言われなくてもわかってる!」
そう言って篠原はベンチを立ち上がり、
足早に公園から立ち去っていった。

「はぁ…」
自宅に帰った篠原はなんだか複雑な気分だった。
「何やってんだ私は…あんな戯言にムキになって…
私は…あんなヤツとは…違うんだ…」
しかし篠原の独り言とは裏腹に、
その自信は弱々しいものになっていった。
「いや…違わないか…私も無能と言われ…見捨てられたんだ…」
改めて自分の置かれた立場というものを認識し、
篠原は深く落ち込んでいた。
「…でもなんでこうなってしまったんだ?
昔は確かにうまくいっていたのに…」
ふとそう思った篠原は自分が昔作った作品を
取りだして今一度見直してみた。
「…懐かしいな。この頃は私も駆け出しで
とにかく無我夢中で書いていたな。
私にも…こんな頃があったんだな…」
そこから段々新しい物へ見直していくうちに
篠原はある事に気が付いていった。
「…なんか…後の方に行くにつれ、
中身がえらく安っぽいものになっていってる…?
書いた当時は全然気にならなかったのに…」
そして、長い時間をかけて今まで書いた作品を
見直した篠原はある事実を認めざるをえなかった。
「私は…調子にのっていい気になっていたのか…?
人気の出始めたあたりから作品のレベルが落ちてる…
こんな作品を…私は平気で…」
ようやく自分のしてきた行いに気付いた篠原は激しく後悔した。
そして朝の老人に対してもかなり高慢な態度であった事も今更だが自覚した。

それから数日、篠原は呆然として何も手がつけられないでいた。
だがようやく頭の整理がついてきた頃、篠原は
ゆっくりと机に向かって新たな作品に取りかかった。
「いい加減吹っ切ろう。今更なくす物などないんだ。
ひさしぶりに気合入れて頑張ってみるか…
それにこのまま負け犬に成り下がったらあの爺さんに笑われそうだしな」
そうつぶやく篠原の表情にはこれまでとは違う
優しい感情がこもっていた。

彼の新しい作品がひさしぶりのヒット作となり、
ようやく立ち直れるのはそれから数ヶ月後の事である。



後書き
今回の話は元々独立して考えていた二つのネタを
ひとまとめにして書いた物です。

「作家をサラリーマンとみなす雑誌会社。
主人公は無情にも打ち切りを宣告されてしまい、
作品の商業価値について悩みつつも、自分の書きたい物を
書くと決めて立ち直る」
漫画家や小説家と明記せずあえて作家としました。
作品価値と商業価値ってなかなか相容れないものですからね。
それを表現したくてこんな極端な会社設定にしました。

「仕事は出来るが高慢で自信過剰な男が失敗して職場を追われる。
その男の前にホームレスの老人が現れて話を始める。
男ははじめ老人の話を負け犬の戯言と相手にしないが
次第に考え方が変わっていく」
私自身がバイトで大失敗してかなりヘコんだ事がありまして、
その時に仕事に、そして社会についていろいろ悩んで思った事を
書きつづってみました。篠原があんな性格なのは世の中の厳しい部分を、
ダイレクトに表現したかったんです。

書いてみたらうまくいってない人に対する
応援SSみたいになりましたね。
みなさん、人生いろいろ大変ですけど頑張りましょう。
私も頑張ります。
195 Reply 人生って……面白いでしょう?まだまだ辛いことはたくさんあるけど、そう言って、いつか笑えるようになるから……頑張りなさい グE MAIL 2002/10/04 18:32
cc9999
読んでいる最中に上の言葉を思い出しました。
確かに人生色々あるけどがんばっていかなければいけませんよね・・・。

ちなみに私はSSで最近マジでへこんだことがあります。
SSを描くことが好きなら・・・、
がんばらないとな・・・。
(いや、別にこれで飯食ってくわけじゃないんですけど、
なんか色々考えたんですよ・・・。)
196 Reply 頑張ってやれないことはない 空理空論 MAIL URL 2002/10/05 02:36
cc6600
そういう言葉が存在します。
けれども作中で篠原が言ってますが、それなりの結果はやはり必要です。
頑張るだけでは決して報われないのが事実です。
けれども…頑張らないといい結果も出ないのも事実であり、
やっぱり頑張ることの大切さを見た気がしましたね。
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